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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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昼食

2日目以降


翌朝。


昨日と同じように、新人冒険者とベテラン冒険者がギルド受付の前へ集まっていた。


昨日との違いは一つ。


エリックの表情だった。


胸を張り、どこか誇らしげに立っている。


(僕の先生は、本当はすごい人なんだ。)


(みんな知らないだけなんだ。)


そんなことを言いたくて仕方がない。


けれど新人2日目。


勝手に口外していいことではない気がして、必死に堪えていた。


一方、そのガレスとヒロの口論。


「だからセレナだって!」


「昨日は酒場だったから君の方が有利だっただけだよ。」


「まだ言うか!」


ガレスとヒロが、朝から昨日の続きを始めていた。


ヒロは真面目な顔でリリアを指差す。


「よく見てごらん。」


「リリアさんを。」


ガレスは呆れたように腕を組む。


ヒロは止まらない。


「黒曜石みたいに艶のある黒髪。」


「ラピスラズリみたいに澄んだ瞳。」


「化粧もしていないのに、透き通るような肌。」


「それに――」


「ヒロくん。」


リリアが耳まで真っ赤にしながら口を開く。


「……やめなさい。」


ギルド中が静まり返る。


次の瞬間。


ベテラン冒険者たちが一斉にため息を吐いた。


「また始まった。」


「朝から完全詠唱か。」


「今日は昨日より長いぞ。」


受付嬢たちは笑いを堪えて肩を震わせる。


ガレスは呆れ顔でヒロを見た。


「だからセレナの方が――」


その横で。


エリックは一人、真剣な顔で何度も頷いていた。


(なるほど。)


(リリアさんが王都一番の美人。)


(よし。)


(覚えた。)


誰よりも真面目に、新人研修を受けていた。


朝礼が終わると、リリアは静かに名簿を閉じた。


「それでは、本日のクエストを受注してください。」


その一言を合図に、それぞれの組が受付へ散っていく。


エリックは迷うことなく歩き出した。


一直線に。


リリアの受付へ。


その様子を見たヒロは、小さく頷く。


どこか誇らしげだった。


「うん。」


「素晴らしい。」


「エリックは天才だね。」


エリックは照れくさそうに笑う。


昨日一日で、もう答えは決まっていた。


受付ならリリア。


ヒロがあれほど力説する理由を、自分なりに理解していたからだ。


リリアはいつも通り落ち着いた手つきで依頼書を差し出す。


「本日の依頼はこちらです。」


エリックは両手で受け取る。


そして。


依頼書を穴が開くほど見つめ始めた。


地図。


注意事項。


依頼内容。


一文字も見落とさない勢いで目を走らせる。


「ここは街道沿いだから、人通りが多い。」


「だったら荷車にも注意して……。」


「帰りはこの道の方が近いですよね。」


「でも、もし――」


気付けば、昨日のヒロと同じように早口で分析を始めていた。


ヒロは嬉しそうに何度も頷く。


「そう。」


「その考え方でいい。」


受付の向こうで、そのやり取りを見ていたリリアは、思わず笑みをこぼした。


「もうっ。」


小さく肩をすくめる。


「ほんとに。」


昨日まで新人だったエリックが、もうヒロの考え方を少しずつ真似し始めている。


それがおかしくて。


それ以上に、どこか嬉しかった。


その日から。


ヒロは毎日、昼前になるとギルドへ戻ってくるようになった。


午前中の依頼を終え、クエストの報告を済ませるためだ。


「報告します。」


依頼書を差し出し、リリアが手際よく内容を確認していく。


いつもと変わらない。


そう思っていた。


ヒロは少しだけ考え、照れくさそうに口を開いた。


「……リリアさん。」


「はい?」


「一緒に、お昼食べませんか。」


リリアは一瞬だけ目を丸くした。


受付嬢たちも手を止める。


次の瞬間だった。


「リリアさん!」


「この書類こっちでやります!」


「これも私!」


「依頼台帳貸して!」


机の上に積まれていた書類が、次々とリリアの前から消えていく。


受付嬢たちが奪うように抱えていった。


「あとは任せて!」


「行ってきなさい!」


「今日は私たちがやるから!」


リリアは慌てて立ち上がる。


「み、みんな……。」


受付嬢たちは笑顔で手を振った。


リリアは少し照れながら深く頭を下げる。


「ありがとうございます。」


そしてヒロの隣へ並んだ。


三人はギルドの食堂へ向かう。


席へ着くと、ヒロはエリックへ笑いかけた。


「何でも頼んでいいよ。」


エリックは目を丸くする。


「え?」


「僕のおごりだから。」


「好きなものを食べて。」


エリックは慌てて首を振る。


「そんな、悪いですよ!」


ヒロは笑って首を横へ振る。


「遠慮しなくていい。」


「その代わり。」


そう言って、自分の弁当箱を胸の前へ抱える。


「リリアさんのお弁当は。」


「一口もあげないからね。」


リリアは耳まで真っ赤になった。


「ヒロくん……!」


エリックは思わず吹き出す。


「そこだけは譲らないんですね。」


ヒロは真剣な顔で頷く。


「もちろん。」


「これは別。」


その答えに、三人とも笑った。


昼の食堂には、穏やかな笑い声が静かに広がっていた。

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