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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
青年期:十四〜二十歳

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ただいま


ギルドへ辿り着いた頃には、王都はすっかり朝を迎えていた。


露店の準備が始まり、パン屋からは焼きたての香りが漂ってくる。


昨晩の騒動が嘘のように、人々はそれぞれの一日を始めていた。


そんな穏やかな朝とは対照的に、ヒロとガレスはギルドの前で足を止める。


その時だった。


向こうから一人の男が歩いてくる。


煙草を咥えたギルドマスターだった。


三人は扉の前で顔を合わせる。


ギルドマスターは二人の姿を一瞥し、小さく笑う。


「終わったか?」


ヒロは静かに頷く。


「はい。」


ガレスも笑う。


「おう!」


短いやり取りだけで十分だった。


三人は揃ってギルドの扉へ向き直る。


しかし。


誰も扉へ手を掛けようとしない。


ガレスが頭を掻きながら、小さく呟く。


「……いざここまで来ると。」


「怖ぇな。」


「リリアさん、怒ってんだろうな。」


ヒロも苦笑した。


「言わないでよ。」


「僕も怖いんだから。」


二人は顔を見合わせ、同時にため息を吐く。


やがてヒロが一歩下がった。


「年功序列ですね。」


「どうぞ、ギルドマスター、お先に。」


ガレスもすぐに続いて一歩下がる。


「頼む、ギルマス。」


「あんたが先に謝ってくれ。」


ギルドマスターはしばらく無言のまま二人を見つめていた。


やがて頬を掻き、ぼそりと呟く。


「……俺だって怖ぇんだよ。」


三人は顔を見合わせる。


次の瞬間。


誰からともなく、小さく笑った。


そして覚悟を決めるように、三人は並んでギルドの扉を開けた。


扉が開く。


いつものように、ギルドは朝の忙しさに包まれていた。


依頼書を手にする冒険者。


受付で説明を受ける新人。


慌ただしく動き回る受付嬢たち。


変わらない朝。


その中に、一つだけ。


いつもとは違う光景があった。


受付の奥。


リリアは椅子へ腰掛けたまま、両手を胸の前で静かに組み、目を閉じていた。


まるで祈るように。


その少し後ろには、親方と職人たちが無言で立っている。


誰も話さない。


誰も帰っていない。


夜通し、そのまま待っていたのだ。


ヒロは思わず足を止めた。


(……待っていてくれたんだ。)


ゆっくりと歩き始める。


ガレスも。


ギルドマスターも。


何も言わず、その後ろを歩いた。


足音だけが静かなギルドへ響く。


やがてリリアがゆっくりと顔を上げる。


目が合う。


その瞬間だった。


リリアは椅子を押し退けるように立ち上がり、カウンターを飛び出した。


一直線にヒロのもとへ駆ける。


勢いそのままに飛び込み、強く抱きついた。


ヒロは一瞬驚いたものの、静かにその身体を受け止める。


小さく微笑んだ。


「……ただいま。」


その一言を聞いた途端、リリアの肩から力が抜けた。


ゆっくりと顔を上げる。


瞳には涙が滲んでいた。


何も言わない。


ただ、そっと背伸びをする。


そして。


優しく唇を重ねた。


ギルドは静まり返っていた。


親方は二人を静かに見つめる。


「帰るぞ」


小さく頷くと、何も言わず踵を返した。


それに続くように職人たちも歩き出す。


誰も振り返らない。


ただ、一人ひとりが見えないように小さく拳を握り、小さくガッツポーズを作っていた。


受付嬢たちは互いに顔を見合わせる。


涙を拭う者。


口元を押さえる者。


誰も騒がない。


ただ、静かに微笑んでいた。


事情を知らない冒険者たちは突然の出来事に目を丸くする。


口笛を吹く者。


笑いながら拍手をする者。


「やっとか。」


そんな声もどこからか聞こえてくる。


それぞれが、それぞれの形で二人を祝福していた。

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