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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
青年期:十四歳〜二十歳

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久々の共闘

足音は一つではなかった。


闇の奥から、複数の気配がゆっくりと近づいてくる。ヒロは静かに目を閉じ、魔力の流れを探った。


「十人か。思ったより多いな、ガレス。」


ガレスは大剣へ手を掛けたまま眉をひそめる。


「王城に忍び込んで攫ったのは一人じゃねぇのか?」


「攫ったのは一人だろうね。その後、地下で待機していた仲間と合流したんだ。最初からここを逃走経路に使うつもりだったんだろう。」


ガレスは真剣な顔で少し考え、やがて大きく頷いた。


「なるほど。よく分からん!」


ヒロは呆れたように吹き出した。


やがて闇の奥から、黒い外套をまとった人影が次々と姿を現す。その中心には、気を失った王女アンを抱えた男がいた。


ヒロはゆっくりと一歩前へ出る。腰の剣へ手を添えたまま、静かに口を開いた。


「悪いけど、ここは点検中でね。通行止めなんだ。」


地下道へ静寂が落ちた。



先頭の男は、目の前に立つ二人を見据える。


大剣を背負った青年は知っている。ギルド史上最年少の昇格記録を更新し続けるBランク冒険者、ガレス。事前に得ていた情報とも一致する。


だが、その隣に立つ青年は違った。


数日前、王女の広場訪問を屋根の上から監視していた時、こちらの存在に気づき、追跡してきた青年。途中で魔力の気配を断ち、完全に振り切ったはずだった。


その青年が今、逃走経路の先で待っている。


工具箱を背負い、職人のような格好をしながら、腰にはみたことのない形の剣を差している。帝国が集めた資料には名前も姿も載っていない。


男は無意識に目を細めた。


(何者だ……?)



ヒロは目の前に立つ刺客たちを静かに見据えていた。


強い。


一目見ただけで分かる。


五年前、王女暗殺未遂事件で戦った相手とは比べものにならない。


こちらは二人。


相手は十人。


王女は眠らされ、人質にされている。


状況だけ見れば、圧倒的に不利だった。


それでも。


不思議と負ける気はしなかった。


今日は、一人じゃない。


ガレスがいる。


ガレスは大剣を肩へ担ぎ、嬉しそうに笑う。


「懐かしいな、ヒロ!」


その一言で十分だった。


ヒロも小さく笑う。


「ガレス!」


「僕が人質を解放する!」


「その後は任せるよ!」


ガレスは大剣を握り直し、大きく頷く。


「おう!」


「任せろ!」


ガレスの目は、少しだけ潤んでいた。


ヒロは静かに腰の剣へ手を掛ける。


一歩。


踏み込む。


居合。


一閃。


銀色の軌跡だけが地下を駆け抜けた。


アンを抱えていた男の身体が大きく吹き飛ぶ。


しかし。


男は木偶のように吹き飛ばされたわけではなかった。


剣を正確に合わせ、斬撃を受け流している。


(……防いだ。)


ヒロは小さく息を呑む。


(あれを防ぐのか。)


男は着地と同時に距離を取る。


その一瞬で十分だった。


ヒロは地面を蹴る。


眠るアンを抱えて、そのまま後方へ下がる。


「ガレス!」


「人質はもう安全だ!」


「やれ!」


ヒロが叫ぶのと。


ガレスが地面を蹴るのは、ほぼ同時だった。


地下道が揺れる。


大剣が唸りを上げる。


一振り。


それだけで、三人の刺客がまとめて吹き飛んだ。


壁へ叩きつけられ、地下道に鈍い音が響く。


ヒロは思わず苦笑する。


「……馬鹿力かよ。」


呆れながらも、その背中へ絶対の信頼を向ける。


その間にヒロは眠るアンを静かに床へ寝かせ、両手をかざした。


淡い光が広がる。


幾重にも重なる防御結界が王女を包み込んだ。


「これで。」


ヒロはゆっくりと立ち上がり、剣を握り直す。


「僕も戦える。」


刺客たちの殺気が、一斉に膨れ上がる。


地下道の空気が張り詰めた。


ヒロもガレスも、思わず身体を強張らせる。


その反応を見た刺客たちは、口元を歪めた。


「どうした。」


「怯えてんじゃねぇか。」


余裕だった。


十対二。


人質も失ったとはいえ、この人数差は覆らない。


そう確信している笑みだった。


ヒロは額を伝う汗をそのままに、小さく口を開く。


「……後ろ。」


その一言に、刺客たちは怪訝そうな表情を浮かべる。


誰も振り返らない。


振り返る必要がないと思っていた。


次の瞬間だった。


地下道から音が消えた。


何かが走った音も。


剣を振るう音も。


悲鳴もない。


ただ、一瞬だけ時間が止まったような静寂だけが流れる。


刺客たちはその場に立ったまま動かない。


やがて一人。


また一人と、糸が切れた人形のように崩れ落ちていく。


十人。


誰一人として立ち上がる者はいなかった。


地下道には再び静寂だけが戻る。


ヒロはその光景をしばらく見つめていた。


そして小さく息を吐く。


「広場で見た時。」


「強いと思った自分を殴りたい。」


「……強いなんてもんじゃない。」


少しだけ笑う。


「ガレス流に言うなら。」


「バケモンだね。」


ガレスも苦笑しながら頷いた。


「ああ。」


「全く見えなかった。」


二人の視線の先。


白髪の執事は静かにレイピアを鞘へ納める。


まるで、最初から何も起きていなかったかのように。

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