魔法との出会い
それから、しばらく経った。
陽だまり村は今日も穏やかな朝を迎えていた。
村人たちへ挨拶をし、鍛冶場を手伝い、木こりの爺さんの仕事場で汗を流す。
そんな日々が当たり前になっていた頃。
「ヒロ、ガレス。村長がお呼びだ。」
二人は顔を見合わせ、そのまま村長の家へ向かった。
小さな家の中で、村長は穏やかに笑っていた。
深く刻まれた皺が、いつもより少しだけ優しく見える。
「お前たち、冒険者を目指すそうじゃな。」
「おう!」
「はい。」
二人は同時に頷いた。
村長は静かに机の下へ手を伸ばす。
取り出したのは、厚い革表紙の古びた本だった。
「昔、この村へ立ち寄った旅人がな。」
懐かしそうに目を細める。
「世話になった礼じゃ、と置いていった物じゃ。」
ヒロは息を呑む。
村長は本を両手で持ち、大切そうに差し出した。
「貧しい村じゃ。」
「立派な剣も、立派な鎧も用意してやれん。」
「じゃが、知識だけは荷物にならん。」
「持って行きなさい。」
ヒロは両手で受け取った。
表紙をそっと開く。
そこに描かれていたのは、魔力の流れ。
魔法陣。
属性。
魔力循環。
すべてが図解付きで丁寧にまとめられている。
「……!」
目が見開かれる。
(すごい……。)
ただ呪文を覚える本じゃない。
魔法がどういう理屈で成立しているのか。
その”理”が書かれていた。
夢中でページをめくる。
一ページ読むたびに、新しい発見がある。
「ありがとうございます。」
自然と声が漏れた。
「これなら……もっと強くなれます。」
その隣では。
「あー……。」
ガレスが大きな欠伸をしていた。
「剣の本じゃねぇのかよ。」
鼻をほじりながらぼやく。
「魔法なんて頭がこんがらがるだけだ。」
ヒロは苦笑する。
「ガレス。」
「これはすごい本なんだよ。」
「魔法がどう動くのか全部書いてある。」
「君の戦いにも絶対役立つ。」
「へぇー。」
返事だけはする。
だが目は完全に泳いでいた。
「読んだ?」
「読んでない。」
「読め。」
「やだ。」
即答だった。
ヒロは思わず吹き出す。
「仕方ないな。」
本を大切に閉じ、胸へ抱えた。
ガレスが剣を振るうなら。
この本は、自分が使いこなせばいい。
そう思った瞬間、不思議とその一冊が、自分に託された役目そのもののように感じられた。
村長はそんな二人を見て、小さく微笑む。
「行ってこい。」
その短い一言には、村中の願いが込められていた。
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