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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
青年期:十四歳〜二十歳

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49/112

いや、冒険者だろ!

執務室を出た瞬間、ヒロは駆け出していた。


その背中を、ガレスが慌てて追い掛ける。


「おい!」


「どこ行くんだ!」


ヒロは振り返らない。


ただ真っ直ぐ工房への道を走る。


「工房だよ。」


短く答える。


「ギルドマスターが貼っていたのは、地下魔力導管整備のクエスト。」


「あれは地下だ。」


「地下の精密な地図が必要になる。」


「それと、人手も。」


ガレスは眉をひそめた。


「職人さんたちを危ねぇ目に遭わせる気か!」


ヒロは首を横へ振る。


「違う。」


「戦ってもらうわけじゃない。」


「今まで通り、普通に仕事をしてもらうだけ。」


「でも、その仕事が必要なんだ。」


ガレスは黙って続きを待つ。


ヒロは息を整えながら続けた。


「僕の魔力探知でも追い切れなかった。」


「あんな相手を、一人で探すのは無理だ。」


「だから。」


「地下を知り尽くしている職人さんたちの力を借りる。」


「耳。」


「目。」


「経験。」


「勘。」


「毎日地下へ潜ってるあの人たちだからこそ気付ける違和感がある。」


ヒロは前を向いたまま、小さく拳を握る。


「僕は、あの人たちを信じる。」


「だから。」


「力を貸してもらう。」


ガレスはしばらく黙って走っていた。


やがて、不敵に笑う。


「やっぱ、お前らしいな。」


「戦う前に、まず職人を頼るんだからよ。」


ヒロも少しだけ笑った。


「職人だからね。」


二人は速度を落とすことなく、夕暮れの王都を工房へ向かって駆け抜けていった。





工房へ飛び込んだ瞬間、槌の音が止まった。


親方も職人たちも、一斉にヒロとガレスを見る。


いつもとは違う。


その表情だけで、ただ事ではないと分かった。


「親方。」


ヒロは息を整える間もなく口を開いた。


「地下の精密な地図を貸してください。」


「あと。」


「仕事の依頼をしに来ました。」


親方は腕を組んだまま短く答える。


「……話せ。」


ヒロは工房の机へ王都の地下地図を広げた。


王城。


その周辺を指でなぞる。


「王城地下周辺です。」


「潜伏しやすい場所。」


「人が身を隠せそうな空洞。」


「使われていない旧通路。」


「その周辺で、いつも通り仕事をしてください。」


職人たちは黙って地図を覗き込む。


ヒロは続ける。


「調査と言っても、特別なことは何もしなくて大丈夫です。」


「いつも通り仕事をしてください。」


「その中で。」


「少しでも違和感を感じたら教えてほしい。」


「それだけです。」


工房は静まり返っていた。


親方は地図から目を離すと、職人たちを見渡す。


「行きたくねぇ奴は残っていい。」


その一言だけだった。


誰も返事をしない。


しかし次の瞬間。


椅子を引く音が重なった。


一人。


また一人。


全員が黙って立ち上がる。


沈黙を破ったのは、一人の若い職人だった。


「親方、方向音痴だからな。」


「王城の地下なんか一人で行かせたら迷うぞ。」


別の職人が吹き出す。


「それ以前に、あの強面で王城の地下うろついてたら真っ先に捕まる。」


「職務質問どころじゃ済まねぇ。」


工房に笑いが広がる。


親方は顔をしかめた。


「誰が方向音痴だ。」


すると奥からまた一人。


「そういや俺、王城の地下に忘れ物してた気がする。」


「奇遇だな。」


「俺もだ。」


「俺なんか十年前から忘れてた。」


笑い声が工房へ響く。


ヒロはその光景を見つめ、小さく笑った。


そして深く頭を下げる。


「……ありがとうございます。」


工具箱から小さな魔道具を取り出し、一人ひとりへ手渡していく。


「異変があったら、これを鳴らしてください。」


「危険だと思ったら近付かないでください。」


「連絡だけで十分です。」


職人たちは真剣な表情で魔道具を受け取る。


親方は最後の一つを受け取り、懐へしまい込んだ。


「任せとけ。」


その一言だけで十分だった。

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