二十歳
それから五年の歳月が流れた。
王都の朝は、今日も変わらない。
焼きたてのパンの香りが路地を満たし、木漏れ日の酒場では女将が開店の支度を始める。
鍛冶工房からは規則正しい槌の音が響き、王都の地下では魔力導管へ今日も魔力が流れ続けている。
冒険者ギルドには朝早くから人が集まり、それぞれが今日の依頼を探していた。
王都は今日も平和だった。
十年前と何一つ変わらない、穏やかな朝。
けれど、その日常の中には、確かに変わったものもある。
ヒロとガレスは二十歳になっていた。
ガレスは討伐依頼を重ね続け、王都でも知らぬ者はいない若き実力者へと成長していた。
ランクはBランク。史上最強記録を更新していた。
首や腕には相変わらず数え切れないほどのアクセサリーが揺れていた。
討伐の記念。
仲間との約束。
子どもから贈られた編み紐。
どれも本人にとっては大切な思い出であり、一つとして外すことはない。
その一方で、ヒロは十年前と何も変わらなかった。
今日も地下へ潜り、魔力導管を点検し、橋を補修し、街灯を直し、人々の生活を支える仕事を黙々と続けている。
討伐依頼は、相変わらず一つも受けない。
冒険者ランクも、Fランクのままだった。
王都では有名な話である。
「Fランクなのに職人から指名される冒険者。」
「討伐はしないのに、誰よりも忙しい冒険者。」
そんな不思議な存在として、人々はヒロを知っていた。
木漏れ日の酒場も変わらない。
常連たちは今日も朝から他愛もない話で笑い合い、女将はいつものように大きな鍋をかき混ぜている。
セレナも変わらず働いていた。
ただ一つだけ。
ガレスを見る目だけは、五年前より少し熱を持ったものになっていた。
鍛冶工房も変わらない。
親方は今日も職人たちを怒鳴りながら槌を振るい、職人たちは文句を言いながらも笑っている。
ヒロが顔を出せば、「昼飯食ったか」と誰かが声を掛ける。
それが当たり前になっていた。
そして、冒険者ギルド。
受付には今日もリリアが立っている。
艶のある黒髪を後ろでまとめ、その髪には一つの髪飾りが静かに留められていた。
歯の欠けた歯車。
ねじ山の潰れたネジ。
役目を終えた鉄たちから生まれた、不恰好で世界に一つだけの髪飾り。
それは今日も、いつもの場所にあった。
受付嬢たちはもう何も言わない。
冒険者たちも何も聞かない。
それがそこにあることが、もう当たり前の日常になっていた。
変わらない日常。
変わった日常。
五年という歳月は、少しずつ人を成長させ、少しずつ景色を変え、それでも大切なものだけは変えずに残していた。
だから誰も気付かなかった。
この穏やかな日々が終わりを迎えようとしていることを。
そして。
ヒロとガレスの、本当の物語がここから始まることを。
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