勘違いだと思いたい
翌日の夜。
その日も、リリアは一人ギルドへ残っていた。
昨夜調べた件は、偶然かもしれない。
そう自分に言い聞かせながら、今日は過去の依頼台帳を開いていた。
ヒロが一日に一件だけ依頼を受けた日。
街灯修理を除けば、残る依頼は三件。
地下魔力導管整備点検。
下水道水質調査。
橋の補強工事。
「……まずは、この日から。」
リリアは地下魔力導管整備点検の日付を確認し、同じ日に起きた事件記録を探し始める。
しばらく資料をめくり続けると、一枚の報告書で手が止まった。
地下崩落事故。
作業員一名、生き埋め。
救助隊が現場へ到着した時には、すでに救出されており命に別状なし。
その下へ視線を落とす。
『救助者 不明』
「……え?」
思わず小さく声が漏れる。
リリアはすぐに現場の位置を確認しようとした。
しかし、報告書にはこう記されていた。
『大規模な崩落のため、正確な事故座標の測定不能』
「場所が……分からない。」
リリアは静かに考え込む。
その時、不意にあることを思い出した。
「……復旧工事。」
崩落した以上、その後必ず補修工事が行われている。
リリアは資料棚から工事完了報告書を探し始めた。
一冊。
また一冊。
ようやく目的の書類を見つけると、地下道の地図を机へ広げ、その隣へ王都の地図を並べる。
工事完了報告書に記された区画番号。
地下道の位置。
そして、ヒロが受けた地下魔力導管整備点検の場所。
リリアはゆっくりと定規を当てた。
完全に一致していた。
静かなギルドに時計の針だけが響いている。
リリアは小さく息を吐き、ゆっくりと顔を上げた。
翌日の夜。
その日も、リリアは一人ギルドへ残っていた。
ここ数日で見つけた一致は、偶然であってほしかった。
そう思えば思うほど、その願いは強くなっていく。
違っていてほしい。
ヒロではないという確証がほしい。
その一心で、リリアは再び依頼台帳を開いた。
残る依頼は二件。
下水道水質調査。
橋の補強工事。
「……次は、これ。」
リリアは下水道水質調査が行われた日付を確認し、同じ日の事件報告書を一枚ずつ読み進めていく。
一枚。
また一枚。
しかし、それらしい事件は見当たらなかった。
「……よかった。」
張り詰めていた肩から少しだけ力が抜ける。
やっぱり考えすぎだった。
そう思い、報告書を閉じようとした、その時だった。
事件ではない。
一枚の報告書が目に留まる。
『大型モンスター死骸発見』
リリアは思わず資料を手に取った。
発見場所は王都城壁の外。
発見日は、下水道水質調査から約一週間後だった。
「……え?」
リリアは下水道の地図を机へ広げる。
王都の下水は中心部から外周へ向かって流れている。
ヒロが調査を行った場所。
そして、モンスターの死骸が発見された場所。
一本の水路で繋がっていた。
「でも……。」
リリアは首を横に振る。
流れ着くまで、どれくらい時間がかかるのか。
それが分からない。
その夜は、それ以上調べることができなかった。
翌日。
リリアは午前だけ休暇を取り、下水道管理を担当する作業員の詰所を訪れていた。
事件のことは話さない。
ヒロの名前も出さない。
何気ない世間話のように尋ねる。
「例えば、大型のものが下水へ流れた場合、王都の外まで流れ着くのにどれくらいかかるものなんですか?」
作業員は腕を組み、少し考え込む。
「大きさにもよるが……。」
「一週間くらいじゃねぇか?」
「……なんでそんなこと聞くんだ?」
リリアは答えられなかった。
胸の奥で、小さな希望がまた一つ、静かに崩れていった。




