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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
少年期:十歳〜十四歳

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26/122

鍛冶工房

三年の歳月が流れた。


ヒロとガレスは十三歳になっていた。


王都での暮らしは、すっかり日常になっている。


もっとも。


ヒロの冒険者ランクだけは、三年前と変わらずFランクのままだった。


理由は単純だった。


討伐依頼を、一度も受けていないからである。


ヒロが受ける依頼は、魔力導管の補修。


橋や道路の修繕。


水路整備。


魔力設備の保守。


職人の補助。


王都を支える仕事ばかりだった。


ギルドの規定では、それだけでは冒険者ランクは上がらない。


本人も、一度も気にしたことはなかった。



その日。


ヒロは王都の鍛冶工房を訪れていた。


王都へ来た頃、魔力導管の補修依頼で出会った職人たちの工房である。


工具の調整。


特殊部材の製作。


導管部品の加工。


三年という歳月の中で、その関係は依頼人と職人ではなくなっていた。


仕事がなくても工房へ顔を出す。


空いた炉を借りる。


勝手に工具を手に取り、何かを作り始める。


そんな光景も、今では誰も驚かない。


「おう、ヒロ。」


親方が槌を止める。


「今日は依頼じゃねぇ顔だな。」


「はい。」


ヒロは小さく頭を下げた。


「少し工房をお借りします。」


「好きに使え。」


「ありがとうございます。」


工具箱を開く。


炉へ火を入れる。


職人たちは何事もなかったように仕事へ戻った。


「また何か始めたな。」


その程度だった。



カン。


カン。


カン。


工房へ、一つだけ違う槌音が響き始める。


一定の間隔。


一切の乱れがない。


一人の職人が手を止めた。


「……ん?」


隣も顔を上げる。


「何やってる。」


やがて。


工房中の槌音が、一つ、また一つと止まっていく。


誰もがヒロを見ていた。


赤く熱した鋼を伸ばす。


折る。


また熱する。


また打つ。


「……折り返し鍛錬か。」


親方が小さく呟く。


その技法は知っている。


だが。


今では実際にやる職人は、ほとんど残っていない。


「何を作る気だ……。」


誰かが呟く。


ヒロは三年間。


工具。


導管。


部品。


それしか作ってこなかった。


だから誰も、武器を作るとは思っていない。


やがて。


二本目の鋼材が炉から取り出される。


「鉄が違う。」


職人が目を細める。


高炭素鋼。


そして低炭素鋼。


性質の異なる鋼だった。


ヒロは高炭素鋼を芯へ据え、その外側を低炭素鋼で包み始める。


「包んでる……。」


「違う。」


親方が静かに言う。


「芯を守ってる。」


誰も息をしない。


赤く輝く鋼は少しずつ形を変えていく。


細く。


長く。


その姿を見て、一人の職人が思わず呟いた。


「……剣?」


その瞬間だった。


工房中の職人たちが顔を見合わせる。


「そういや。」


「ヒロって冒険者だったな。」


「ああ。」


「忘れてた。」


苦笑が漏れる。


三年間。


街の整備に必要な部品しか作らなかった少年。


その印象が強すぎた。


だが。


次の瞬間。


その笑みは消えた。


「待て……。」


「反ってるぞ。」


誰かが息を呑む。


王都で見る剣とは違う。


細い。


片刃。


そして、美しく湾曲している。


「こんな剣……。」


「見たことがねぇ。」


親方が一歩前へ出る。


ヒロは小さな器へ手を伸ばした。


指先ですくったのは粘土だった。


「……土?」


職人たちがざわつく。


ヒロは何も答えない。


峰へ厚く。


刃へは薄く。


迷いなく塗り広げていく。


誰も意味が分からない。


親方だけが目を見開いた。


「……そういうことか。」


思わず前へ出る。


「刃だけを硬く焼く気か。」


「峰には粘りを残す。」


誰も言葉を発せない。


硬さだけを求めれば折れる。


粘りだけを求めれば切れない。


その相反する性質を、一振りの剣へ宿そうとしていた。


親方は静かに呟く。


「こいつは……。」


「誰も見たことがない剣だ。」

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