お祝い
その夜、『木漏れ日の酒場』はいつにも増して賑わっていた。
店内には笑い声が響き、ジョッキがぶつかり合う軽快な音が鳴る。
焼きたての肉。
女将特製のシチュー。
香ばしい匂いが酒場いっぱいに広がっていた。
「今日は貸し切りだ!」
ガレスが胸を張って叫ぶ。
「ヒロの十二歳の誕生日だ!」
「お前もだろ!」
女将が笑いながら頭を軽く小突く。
「それに、お前のCランク昇格祝いでもある!」
店中から拍手が湧き起こる。
「おめでとう!」
「最年少Cランクか!」
「大したもんだ!」
「まだ十二だぞ!」
「これからも無茶して帰ってこい!」
「いや、無茶はするな!」
笑いが広がる。
ガレスは照れくさそうに頭を掻いた。
「へへっ!」
「もっと褒めろ!」
「調子に乗るな!」
常連の拳骨が落ちる。
再び酒場が笑いに包まれた。
◇
女将はカウンターの下から二つの箱を持ってきた。
「ほら。」
「誕生日祝いだ。」
ガレスは待ちきれず箱を開ける。
「おおっ!」
革製の携帯救急箱だった。
包帯。
止血剤。
消毒液。
小さな縫合道具まで綺麗に収まっている。
「すげぇ!」
ガレスは目を輝かせた。
「これでヒロが怪我してもすぐ治せる!」
店中が吹き出す。
「まず自分に使え!」
「一番怪我してるのお前だ!」
「あ。」
ガレスも笑った。
「そうだった!」
一方。
ヒロは静かに箱を開ける。
中には一冊の分厚い本。
『基礎魔法工学』
ページを開く。
魔力伝導。
魔法回路。
魔力導管。
どれも読みたかった内容ばかりだった。
「……ありがとうございます。」
それだけだった。
けれど、その笑顔だけで十分だった。
「良かったな!」
ガレスが嬉しそうに覗き込む。
「絶対それがいいと思ったんだ!」
「今日はお前の誕生日でもあるんだけどねぇ。」
女将が呆れる。
ガレスは笑って首を振った。
「俺はいい!」
「ヒロが喜んでる方が嬉しい!」
店中からまた笑い声が上がる。
◇
少し離れた場所で、セレナは静かにその光景を見つめていた。
この二年間。
彼女は二人をずっと見てきた。
依頼の帰りが遅い日は、
「ヒロはまだ帰ってねぇのか!」
と真っ先に立ち上がるガレス。
ヒロが怪我をすれば、自分の傷など気にも留めず駆け寄るガレス。
誰かがヒロの仕事を笑えば、
「ヒロの仕事を馬鹿にすんな!」
と、本気で怒るガレス。
反対に。
職人たちがヒロを褒めれば、
「だろ!」
「ヒロはすげぇんだ!」
と、自分のことのように胸を張る。
そんな姿を、何度も見てきた。
セレナは小さく笑う。
(本当に。)
(ヒロくんのことが大好きなんだね。)
村で何があったのか。
二人は一度も語らない。
だから、聞こうとは思わなかった。
ただ、一つだけ思う。
(ガレスくん。)
(あなたも、もう少し自分を大切にしていいのに。)
その願いだけを胸にしまい、セレナは二人へ新しいシチューを運んだ。
「ほら。」
「今日はおかわり自由だから。」
「やったぁ!」
ガレスが子どものように歓声を上げる。
ヒロも小さく笑った。
その笑顔を見て、ガレスはまた嬉しそうに笑う。
それが彼にとって、一番のご褒美なのだと、酒場のみんなが知っていた。
お読みいただきありがとうございました!「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、画面下の「ブックマーク登録」や「★(評価)」で応援していただけると励みになります。




