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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
少年期:十歳〜十四歳

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20/107

初仕事を終えたその日から。


ヒロとガレスは、一日も欠かさず『木漏れ日の酒場』へ帰ってきた。


朝は誰よりも早く起きて店を手伝う。


昼は依頼へ向かう。


夕方には「ただいま」と扉を開ける。


そんな毎日が、いつしか当たり前になっていた。


そして、夕食を終えるたび。


二人は必ず女将の前へ革袋を持っていく。


「女将さん。」


ヒロは報酬袋から硬貨を取り出し、丁寧にカウンターへ並べた。


「今日の食事代と宿代です。」


女将は硬貨を見る。


食事代。


そして宿代。


どちらも、この店なら十分すぎる額だった。


「……多いよ。」


女将は食事代だけを取り、残りをヒロへ押し返す。


「宿代なんかいらない。」


「空いてる部屋を使わせてるだけだ。」


「損なんかしてないよ。」


ヒロは静かに首を振る。


「それでは、僕たちの気が済みません。」


「済まなくてもいいんだよ。」


「いいえ。」


短い一言だった。


けれど、一歩も譲る気はない。


その横で、ガレスも真っ直ぐ女将を見た。


「女将さん。」


「俺たち。」


「施されっぱなしは嫌なんだ。」


「ちゃんと稼いで。」


「ちゃんと払いてぇ。」


「だから受け取ってくれ。」


女将は二人を見つめる。


まだ十歳。


それでも、その目は驚くほど真っ直ぐだった。


「……頑固なガキどもだねぇ。」


ため息をつきながら、硬貨を手のひらへ集める。


「分かったよ。」


ぶっきらぼうにそう言うと、店の奥へ姿を消した。


「これで満足かい。」


「ありがとうございます。」


ヒロは深く頭を下げた。



裏の小部屋。


棚の一番奥に、小さな金属缶が二つ並んでいる。


『ヒロ』


『ガレス』


女将は受け取った硬貨を数える。


半分ずつ。


静かに二つの缶へ入れた。


カラン。


小さな音が部屋へ響く。


「まったく……。」


蓋を閉める。


「あんたたちは、まだ子どもなんだよ。」


「これから先。」


「もっと金が要る日が来る。」


「その時に困っちゃいけないからねぇ。」


缶を棚の奥へ戻す。


何事もなかったように戸を閉め、店へ戻る。



「ほら!」


女将が声を張る。


「食ったら風呂!」


「さっさと寝な!」


「明日も仕事なんだろ!」


「「はい!」」


元気な返事が酒場に響く。


階段を駆け上がっていく二人の背中を見送りながら、女将は小さく笑った。


「払わせてやるのも。」


「大人の役目ってもんかね。」


そう呟くと、もう一度だけ棚の奥へ目を向ける。


そこには今日も、小さな未来が少しずつ積み重なっていた。

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