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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
少年期:十歳〜十四歳

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19/107

帰る場所、待つ人々

木漏れ日の酒場にも、少しずつ変化が生まれていた。


店の隅。


壁際にある、小さな二人掛けの席。


どれだけ店が混み合っても、その席だけは誰も座らない。


女将が決めたわけではない。


張り紙があるわけでもない。


いつの間にか。


それが、この酒場の当たり前になっていた。



「今日は混んでるな。」


夕暮れ時。


店内は仕事帰りの冒険者たちで満席だった。


空いている席は一つだけ。


店の隅の、あの席。


王都へ来たばかりらしい旅の冒険者が、そこへ腰を下ろそうとした。


「兄ちゃん。」


近くで酒を飲んでいた大男が声を掛ける。


「悪い。」


「そこだけは空けといてくれ。」


旅人は首を傾げた。


「予約席か?」


「いや。」


大男は笑う。


「帰ってくる奴らがいる。」


「常連か。」


「ああ。」


ジョッキを一口飲む。


「黒髪の理屈屋と。」


「赤髪の大剣馬鹿だ。」


周囲から笑いが起こる。


「またその言い方か。」


「間違ってねぇだろ。」


「理屈屋は認める。」


「大剣馬鹿も認める。」


「本人が聞いたら怒るぞ。」


「聞こえねぇから大丈夫だ。」


酒場中が笑った。


旅人は空席を見つめる。


「そんなに大事な席なのか。」


今度は別の常連が口を開いた。


「あいつらな。」


「毎日ここへ帰ってくるんだ。」


「依頼が終わると必ずな。」


「だから。」


「帰ってきた時くらい。」


「座る場所は残しといてやりたいだろ。」


旅人は静かに頷いた。


「なるほど。」


笑って席を離れる。


「帰る場所があるってのは。」


「いいもんだ。」



カウンターでは女将がグラスを磨いていた。


何も言わない。


ただ、小さく鼻を鳴らす。


「まったく。」


その時。


酒場の扉が開いた。


カラン、と鈴が鳴る。


店中の視線が、一斉に入口へ向く。


そして。


「ただいま!」


元気いっぱいの声が響いた。


「遅ぇぞ、大剣馬鹿!」


誰かが笑う。


「今日は迷子にならなかったか?」


「今日は違う!」


ガレスが胸を張る。


「ヒロが遅かった!」


「僕のせい?」


ヒロが苦笑する。


店中から笑いが起こった。


女将は二人を見て、小さく顎をしゃくる。


「ほら。」


「席、空いてるよ。」


二人はいつもの席へ腰を下ろす。


誰も何も言わない。


けれど、その光景は。


もうずっと前から、木漏れ日の酒場の日常になっていた。

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