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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
少年期:十歳〜十四歳

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18/107

一年後

季節が巡った。


王都の空気にも、すっかり慣れていた。


朝になればギルドへ向かい。


昼はそれぞれの依頼をこなし。


夕方になれば木漏れ日の酒場へ帰る。


そんな毎日が、いつしか当たり前になっていた。



「ただいま、リリアさん。」


「……おかえりなさい。」


受付カウンター。


ヒロは今日も一番奥の窓口へ並ぶ。


依頼書を差し出す。


リリアは内容を確認し、受領印を押す。


「怪我は。」


「ありません。」


「そう。」


それだけの会話。


けれど。


「次の依頼はこちらです。」


「ありがとうございます。」


「……行ってきます。」


「いってらっしゃい。」


いつしか、それも当たり前になっていた。



「おい。」


依頼帰りの冒険者が小声で囁く。


「見たか。」


「まただ。」


「あのリリアが笑ったぞ。」


「嘘だろ。」


「ほんの少しだけどな。」


「俺なんか三年通って、一回も笑われたことねぇぞ。」


「あのガキ、一体何者だ。」


噂は日に日に広がっていく。


当のリリアはというと。


「次の方。」


何事もなかったように仕事へ戻る。


だが。


眼鏡を押し上げる仕草だけは、少しだけ照れ隠しのようにも見えた。



一方。


「ヒロー!」


ガレスがギルドの扉を勢いよく開く。


「終わったぞ!」


「今日は迷子にならなかった?」


ヒロが真顔で聞く。


「ならねぇよ!」


「……たぶん。」


「たぶん?」


「ちょっとだけ迷った!」


「やっぱり。」


リリアが思わず吹き出す。


「……ふっ。」


その一瞬。


ロビー中が静まり返った。


「今。」


「笑ったよな。」


「あのリリアが?」


「初めて見たぞ。」


リリアは慌てて咳払いをする。


「……次の方。」


何事もなかったように書類へ目を落とす。


けれど。


耳だけが少し赤かった。


ガレスはそんなことに気付きもしない。


「ヒロ!」


「今日も帰って飯だ!」


「女将さんの飯!」


「セレナのジュース!」


「楽しみだな!」


ヒロも小さく笑う。


「うん。」


「帰ろう。」


その何気ない一言に。


リリアはふと顔を上げた。


“帰ろう”


ヒロがそう言う場所は、もう陽だまり村ではない。


木漏れ日の酒場だった。


その言葉を聞いて、リリアもどこか安心したように小さく息をつく。


二人は並んでギルドを後にする。


「いってらっしゃい。」


「……じゃない。」


リリアは小さく首を振る。


そして誰にも聞こえない声で呟いた。


「また明日。」

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