冒険者登録と出会い
セレナに案内され、二人は冒険者ギルドの前へと辿り着いた。
王都でもひときわ大きな石造りの建物。
厚い木製の扉の向こうからは、多くの冒険者たちの笑い声が響いている。
ヒロとガレスは顔を見合わせた。
ヒロの瞳には、陽だまり村を失った日から変わらない決意。
ガレスの瞳には、頂点だけを見据える真っ直ぐな闘志。
互いに小さく頷く。
そして同時に扉を押し開けた。
◇
酒場とは比べものにならないほどの熱気だった。
依頼書を眺める者。
酒を飲む者。
武器を手入れする者。
あちこちから笑い声が飛び交う。
十歳の子どもが現れたことで、ロビーの空気が一瞬だけ静まった。
「……ガキ?」
「こんな歳で冒険者か?」
視線が集まる。
だが。
二人の隣に立つセレナを見ると、誰も余計なことは言わなかった。
木漏れ日の酒場の看板娘。
彼女に絡めば、女将が飛んでくる。
この辺りでは有名な話だった。
「こっちよ。」
セレナは人混みを器用に抜け、受付へ案内する。
受付には何人もの受付嬢が並んでいた。
笑顔で冒険者と話す者。
冗談を言って笑わせる者。
その中で、一人だけ空気が違う。
黒曜石のような長い黒髪。
知的な眼鏡。
鋭い青い瞳。
受付嬢リリア。
彼女の前だけは静かだった。
冒険者たちは必要なことだけを話し、すぐに去っていく。
処理が速い。
無駄がない。
ヒロは迷わずその列へ向かった。
「え?」
ガレスが小声で聞く。
「なんであそこ?」
ヒロは短く答える。
「あの人が一番早い。」
「仕事が正確だし。」
「それに待ち時間も短い。」
「それだけ。」
「……なるほど?」
よく分からないまま、ガレスも後ろへ続く。
セレナはその様子を見て、少しだけ微笑んだ。
(やっぱり、この子らしい。)
「それじゃ。」
「私はお店へ戻るね。」
「頑張って。」
「ありがとう。」
ヒロが頭を下げる。
ガレスも大きく手を振った。
「また後で!」
セレナは軽く手を振り返し、そのまま酒場へ戻っていった。
◇
「次の方。」
リリアの静かな声が響く。
ヒロが前へ出る。
「冒険者登録をお願いします。」
「年齢は?」
「十歳です。」
リリアの手が一瞬だけ止まる。
だが、それだけだった。
すぐに書類を差し出す。
「規定上、登録可能です。」
「必要事項をご記入ください。」
「はい。」
ヒロは迷いなく筆を走らせる。
綺麗な字だった。
内容にも無駄がない。
リリアは無言で書類を確認する。
問題なし。
受付印を押す。
「登録完了です。」
「初回クエストも受注しますか?」
「お願いします。」
「ご希望はございますか?」
ヒロは即答した。
「この街のインフラ整備に関わるクエストはありますか?」
その言葉に、リリアは初めて視線を上げる。
十歳の子どもが。
初仕事で。
討伐ではなく。
インフラ整備。
珍しい。
だが表情は変わらない。
依頼書を一枚だけ抜き出す。
「魔力導管整備補助。」
「こちらにしましょう。」
「ありがとうございます。」
ヒロは迷わず受け取った。
「次の方。」
ガレスが前へ出る。
「ぼ、冒険者登録を!」
一拍置く。
「……お願いします!」
ヒロが小さくため息をつく。
リリアは書類を差し出した。
「ご記入ください。」
ガレスは固まる。
「……。」
ヒロを見る。
「ヒロ。俺字書けねぇ」
「だから、勉強しろって言ったのに。」
ヒロが隣で代筆することになった。
ガレスは満足そうに頷いている。
リリアは眼鏡を少し押し上げた。
(……珍しい。)
兄弟ではない。
それでも息がぴったりだった。
「登録完了です。」
「希望するクエストはございますか?」
「討伐!」
ガレスは勢いよく答える。
「あ。」
慌てて言い直す。
「……討伐をお願いします!」
「派手なの!」
「……です。」
ロビーの冒険者が吹き出した。
リリアは淡々と依頼書を選ぶ。
「ゴブリン討伐。」
「三体。」
「こちらでどうでしょう?」
「よっしゃ!」
ガレスは拳を握る。
「暴れてくる!」
「ほどほどに。」
ヒロが苦笑する。
◇
二人は依頼書を受け取り、受付を離れた。
「ありがとうございました。」
ヒロが頭を下げる。
ガレスも続く。
「行ってきます!」
二人はそのままギルドの扉へ向かった。
リリアは無意識に顔を上げる。
小さな背中が扉の向こうへ消えていく。
ほんの一瞬だけ。
視線が、その背中を追った。
「……。」
「次の方。」
いつも通りの声だった。
だが。
隣の受付嬢は首を傾げる。
「リリア?」
「どうかした?」
「……いえ。」
リリアは書類へ目を戻した。
「何でもありません。」
そう答えながらも。
彼女の視線は、ほんの一瞬だけ。
再びギルドの扉へ向いていた。
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