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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
少年期:十歳〜十四歳

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13/104

恩返し

翌朝。


王都の空が白み始めるよりも早く、ヒロは目を覚ました。


酒場の中はまだ静かだった。


誰も起きていない。


ヒロは工具箱を静かに開く。


モルドから託された工具たちを、一つひとつ手に取る。


店内を見回した。


椅子が少しだけ揺れている。


扉の蝶番が軋む。


包丁の刃は少し鈍っていた。


「……直そう。」


誰に言うでもなく呟く。


椅子の脚を削り、床との高さを合わせる。


蝶番へ油を差す。


包丁は砥石で丁寧に研ぎ上げた。


さらに魔力を細い糸のように流し込み、傷んだ木材の繊維を内側から補強していく。


ヒロにとって修理とは、壊れたものを戻す作業ではない。


本来あるべき姿へ整えることだった。



「ふぁぁぁ……。」


しばらくしてガレスが降りてきた。


眠そうに欠伸をしながら店内を見回す。


「お。」


すぐに気付いた。


「もう仕事してんのか。」


ヒロは顔も上げない。


「起きたなら手伝って。」


ガレスはニヤッと笑う。


「任せろ。」


そう言うと裏庭へ回った。


積み上げられた薪の前で大剣を抜く。


「よし!」


一閃。


乾いた音が響く。


丸太が綺麗に真っ二つへ割れた。


「まだまだ!」


ズドン。


ズドン。


薪は次々と積み上がっていく。


それは仕事というより、朝の鍛錬だった。



薪を割る音で、女将とセレナが目を覚ました。


「なんだい、朝から……。」


女将は店へ降りる。


そして立ち止まった。


「……あれ。」


椅子は揺れない。


扉も鳴らない。


包丁は新品のような切れ味になっている。


昨日まで使いづらかった道具が、どれも自然に手へ馴染んだ。


「全部……直したのかい。」


ヒロは振り返る。


「勝手に触ってしまいました。」


「すみません。」


女将は少し呆れたように笑う。


「謝るところかい。」


その隣でセレナは目を閉じていた。


店中へ残る魔力を感じ取る。


(……すごい。)


傷んだ木材一本一本へ、丁寧に魔力が通されている。


乱暴さがまるでない。


優しく。


正確で。


どこまでも繊細だった。


裏庭では。


「よっ!」


「せいっ!」


ガレスが楽しそうに薪を割っている。


積み上がった薪は昨日の倍近い。


セレナは思わず笑った。


「二人とも、本当に働き者ですね。」



朝食が並ぶ。


「いただきます。」


二人はあっという間に平らげた。


食べ終わると、すぐに立ち上がる。


「ガレス。」


「皿洗い。」


「おう!」


二人は当然のように流しへ向かった。


ヒロは水の流れを魔法で操り、効率よく汚れを落としていく。


「そこ。」


「まだ油が残ってる。」


「えっ?」


ガレスは皿を光へかざす。


「あ、本当だ。」


真剣な顔で洗い直す。


その姿を見た女将が吹き出した。


「大剣より皿の方が苦戦してるじゃないか。」


「皿は反撃してこねぇのになぁ。」


ガレスも笑う。


店内へ笑い声が響いた。



片付けを終えると、二人は勢いよく店の扉を開いた。


「行ってきます!」


女将が慌てて顔を上げる。


「ちょっと待ちな!」


「冒険者ギルドの場所くらい分かってるのかい!」


返事はない。


もう二人は走り出していた。


すると。


「私が案内します。」


セレナがすぐに後を追う。


扉の前で振り返り、小さく手を振った。


「行ってきます。」


女将は腕を組み、大きくため息をつく。


「まったく。」


その口元には笑みが浮かんでいた。


「昨日来たばかりだってのに。」


「もう店の子みたいじゃないか。」


朝日に照らされながら。


二人の少年は、新しい人生への一歩を踏み出していた。

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