最終話
それからは早かった。
ヒロが敵の奇跡を完全に無力化。
その隙に各国の精鋭たちが所狭しと暴れ回った。
邪神教徒たちはなすすべなく倒れていった。
最後の拠点の制圧が完了し、部隊は解散となった。
各々惜しみながら別れ、そして再会を誓った。
◇
荷馬車の中。
ヒロは両手で頭を抱えていた。
「……リリアさんに、なんて謝ろう。」
女将は腕を組み、呆れたように言う。
「あんたが悪いんだよ。」
ギルドマスターも鼻を鳴らした。
「黙って出てくのは、さすがによくねぇな。」
しばらく沈黙が流れる。
するとガレスが、ぽつりと呟いた。
「……なんか思い出すな。」
「王女助けに行った帰り。」
ヒロは顔を上げる。
一瞬きょとんとして――。
「あっ。」
思い出したように吹き出した。
「リリアさんに怒られるのが怖くて。」
「ギルドの前で、誰が最初に扉を開けるか譲り合ったよね!」
ガレスも笑い出す。
「そうそう!」
「ギルマスなんか。」
声色を真似しながら。
「『俺だって怖ぇんだ。』」
荷馬車の中に笑いが広がる。
ギルドマスターは頭を掻きながら目を逸らした。
「……うるせぇ。」
女将は呆れたようにため息をつく。
「みっともないねぇ。」
「大の男が揃いも揃って。」
荷馬車は、笑い声を乗せながら王都へ向かって進んでいった。
◇
王都の城門が見えてきた。
荷馬車がゆっくりと速度を落とす。
その時だった。
「あ……。」
ガレスが小さく声を漏らす。
城門の前。
二つの人影が並んで立っていた。
セレナ。
そして、リリア。
女将は目を細める。
セレナの右手。
大切そうに、一通の手紙が握られていた。
女将は思わず口元を緩める。
「……そういうことかい。」
そして。
ガレスの背中を勢いよく叩いた。
バシッ!
「いってぇ!」
ガレスが振り返る。
女将はニヤリと笑う。
「気が利くじゃないか。」
ガレスは照れくさそうに頭を掻いた。
荷馬車が止まる。
ヒロはゆっくりと荷台から降りた。
その瞬間。
ギルドマスターが肩を組むように顔を寄せ、早口で囁く。
「いいか。」
「まずは謝れ。」
「とにかく謝れ。」
「言い訳はするな。」
「あくまで謝れ。」
「女は後が怖ぇ。」
「あの時なんか俺は――」
ゴンッ。
鈍い音が響いた。
ギルドマスターが頭を押さえてしゃがみ込む。
振り返ると、拳を振り下ろした女将が仁王立ちしていた。
「くだらないこと言ってんじゃないよ。」
ギルドマスターは頭をさすりながら小さくぼやく。
◇
城門の前。
リリアが静かに立っている。
四か月ぶりだった。
今生の別れになるかもしれない。
そう覚悟して家を出た。
もし帰って来られたとしても。
自分には、彼女を抱きしめる資格などない。
そう思っていた。
一歩。
また一歩。
ゆっくりと歩み寄る。
リリアは何も言わない。
ただ、優しく微笑んでいた。
もう無理だ。
そう思った瞬間。
ヒロの体は勝手に動いていた。
気付けば、力いっぱいリリアを抱きしめていた。
「ひ、ヒロくん……。」
「ちょ、ちょっと!」
慌ててセレナが駆け寄る。
「そんな勢いで――」
リリアは小さく首を振る。
「いいの。」
そして、そっとヒロの背中へ手を回した。
「でも、ヒロくん。」
優しく、自分のお腹へ手を添える。
「少しだけ、優しく抱いて。」
ヒロの腕から力が抜ける。
「……え?」
視線がゆっくりと下りる。
初めて気付いた。
リリアのお腹が、少しだけ膨らんでいることに。
言葉が出ない。
震える手を、おそるおそる添える。
温かい。
確かに、そこに命があった。
涙が溢れた。
止めようとしても、止まらなかった。
「ごめん……。」
それしか言えなかった。
リリアは泣きながら笑う。
「おかえりなさい。」
その光景を見つめながら。
女将は肩を震わせて涙を流していた。
何も言わず、ギルドマスターがその肩をそっと抱き寄せる。
女将はその胸へ額を預け、小さく鼻をすすった。
少し離れた場所では。
ガレスが空を見上げ、歯を食いしばっていた。
嗚咽が、どうしても止まらない。
セレナはそんなガレスの隣へ静かに並ぶ。
そして、そっと腕を絡めた。
「……よく頑張ったね。」
ガレスは何も答えられない。
ただ、小さく頷くだけだった。
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