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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
邪神:二十七歳〜

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両親

それから一か月後。


ついに、邪神教団最後の拠点が突き止められた。


会議室には、もはや収まりきらないほどの人間が集まっていた。


各国の拠点を次々と撃破し、後方の守りへ戦力を残す必要もなくなった今。


これまで各地を支えていた、本当の要たちが一堂に会している。


立って話を聞く者。


壁際に腕を組む者。


廊下にまで溢れ、開け放たれた扉の向こうから会議へ耳を傾ける者。


文字通り、各国の精鋭が大集結していた。


ガレスは会議室へ足を踏み入れた。


「……こっちだよ。」


聞き慣れた、ぶっきらぼうな声。


女将だった。


大剣を背負い、会議室の中央でどっしりと椅子に腰掛け、腕を組んでいる。


その隣には、大斧を背負ったギルドマスター。


こちらも腕を組んだまま、険しい表情を崩さない。


ガレスはゆっくりと歩み寄った。


女将は顎で椅子を指す。


「座んな。」


ガレスは黙って腰を下ろす。


会議室中の視線が集まっていた。


女将は懐へ手を入れる。


一通の手紙を取り出した。


ガレスには見覚えがあった。


セレナへ送っていた手紙。


文字の読めないガレスに代わり、セシリアが代筆してくれたものだった。


女将は無言のまま、その手紙を机へ叩きつける。


バンッ。


静まり返った会議室に、その音だけが響く。


女将はガレスを睨みつけた。


「……なんだい、これは。」


ガレスは震える声で口を開いた。


「女将……。」


「お、俺……どうしたらいいか分かんねぇよ。」


「壊れちまったヒロを……。」


「どうやって、連れ帰りゃいいんだよ……。」


パァンッ!!


乾いた音が会議室中へ響き渡る。


ガレスの頬が勢いよく横へ弾かれた。


あまりの速さに、痛みが一拍遅れて襲ってくる。


会議室は静まり返った。


ガレスはゆっくりと女将の方を向く。


女将は震えていた。


怒りで。


悲しみで。


拳を握り締めたまま、震える声で言う。


「……あんた。」


「あんた、本気で。」


「あの子が壊れたと思ってんのかい?」


誰も息をすることすら忘れていた。


女将は涙を堪えながら続ける。


「話は聞いたよ。」


「あの子が何をやったのかも。」


「全部。」


一歩、ガレスへ近づく。


「敵を吊り出すために必要だから?」


「淡々と、仕事みたいにやってた?」


女将の声が震える。


「あの子が……。」


「あんなことをやって。」


「何にも感じないわけないだろ!!」


会議室中へ怒鳴り声が響いた。


「二十年も一緒にいたんだろ!!」


「そんなことも分かんないのかい!!」


耳の奥がジンジンと響く。


静まり返った会議室の中、


ガレスは、嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。


「なんでだ……。」


「なんで、信じてやれなかったんだ……。」


「一番大事な親友だったのに……。」


肩を震わせ、声にならない涙を流す。


女将はそんなガレスを見つめ、ゆっくりと抱き寄せた。


自分も震えながら、その背中を何度も叩く。


「この……。」


「このバカ息子!」


会議室は静まり返っていた。


誰も口を開けない。


ギルドマスターだけが、深く息を吐く。


「……それで。」


「お前は、どうすんだ?」


そう言うと、部屋の隅――誰もいないはずの空間へ視線を向けた。


「いつまで隠れてやがる。」


一同が息を呑む。


「まさか、この俺から隠れられるなんて思ってねぇよな?」


ギルドマスターは口元を吊り上げる。


「俺ぁ、隠蔽魔法を見破るのが大得意でね。」


腕を組んだまま、静かに告げる。


「出てこい。」


ほんの一拍置いて。


「――もう一人のバカ息子。」


ガレスはゆっくりと顔を上げた。


部屋の隅。


誰もいなかったはずの空間が、霞が晴れるように揺らめく。


幻影が溶ける。


そこに立っていたのは、一人の青年だった。


作業着。


腰まで伸びた黒髪。


その目は赤く腫れ、何日も眠れていないのか濃い隈が刻まれている。


頬はこけ、体も一回り細くなっていた。


まるで、十数年分の疲れが一気に押し寄せたようだった。


青年は照れくさそうに頭を掻く。


「……やぁ。」


少し笑おうとして、笑えない。


「久しぶり、ガレス。」


その瞬間。


ガレスは勢いよく立ち上がった。


椅子が倒れ、机をなぎ倒しながら一直線に駆け出す。


何も言わず。


ただ、力いっぱいヒロを抱き締めた。


「……!」


ヒロも一瞬目を見開く。


やがて力が抜けるように、小さく笑った。


「……苦しいよ。」


震えた声だった。


ガレスは何も答えない。


抱き締める腕に、さらに力を込める。


会議室には。


誰かが鼻をすする音だけが、静かに響いていた。


オズワルドは帽子を目の下まで深く下げた。


震える声で、小さく言う。


「……はよ、始めんか。」


ヴァルクはヒロへ視線を向ける。


ヒロは静かに頷いた。


ヴァルクは一同を見渡し、ゆっくりと口を開く。


「……それでは。」


「最後の会議を始める。」

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