賛否両論
ガレスが頭を上げると、いつの間にか周囲には討伐隊の者たちが集まっていた。
冒険者が恐る恐る口を開く。
「……知っていたのか?」
ガレスは頷く。
「ああ。」
その一言で、ざわめきが広がる。
一人の帝国軍兵士が、ガレスの肩に掛かった赤い工具箱を見つめた。
「長い黒髪に……その工具箱。」
兵士の顔色が変わる。
「まさか……。」
「南門の悪魔か?」
ヴァルクが眉をひそめる。
「南門の悪魔?」
兵士は頷いた。
「ああ。」
「以前の戦争で、王国南門に一人だけ、とんでもない職人がいたらしい。」
「腰まで伸びた黒髪。」
「肩には赤い工具箱。」
「あまりの強さに、敵味方問わずそう呼ばれていた。」
周囲の兵士たちも顔を見合わせる。
「聞いたことがある。」
「俺もだ。」
「ドラゴンを単独討伐したって噂も聞いたぞ。」
「職人なのに、だろ?」
「あれ、噂じゃなかったのか……。」
ざわめきは次第に大きくなっていく。
そんな中、ガレスだけは静かだった。
ぽつりと呟く。
「……悪魔じゃねえよ。」
工具箱をそっと叩く。
「世界一、人の命を助けるのが好きな職人だ。」
◇
◇
◇
数日後。
一同はエルドニア公国へ戻っていた。
街角の喫茶店。
いつもの窓際の席で、それぞれが静かな時間を過ごしている。
オズワルドはコーヒーを一口飲み、広げていた新聞へ目を落とした。
「……ふむ。」
エレナが顔を上げる。
「何か載ってますか?」
オズワルドは苦笑いを浮かべる。
「それにしても……散々な言われようじゃの。」
そう言って新聞をテーブルへ置く。
大きく書かれた見出し。
『各国精鋭による討伐部隊、またも間に合わず』
さらに続く。
『救助された村人への執拗な尋問』
『治療や物資支援すら行わない非人道的対応か』
『勇者一行の責任を問う声も』
セシリアは新聞を見つめたまま、小さく俯く。
「……そんな。」
グラムは舌打ちした。
「現場を見てもいない連中が、好き勝手言いやがる。」
エレナも悔しそうに拳を握る。
「あの時は……。」
「村人たちが、全部断ったのに。」
オズワルドは静かに新聞を畳む。
「世間は事実より、見えた光景で判断する。」
「村人たちが我らを拒み、我らは立ち尽くしておった。」
「それだけ見れば、このような記事にもなる。」
誰も反論できなかった。
事実ではない。
しかし、嘘とも言い切れない。
だからこそ、なおさら苦しかった
オズワルドは苦笑したまま、新聞を一枚めくる。
「それに比べて……。」
二面の記事には、大きな見出しが躍っていた。
『謎の男、またしても邪神教団の拠点を壊滅』
『残虐な報復か、それとも正義か』
さらに記事は続く。
『賛否両論』
『邪神教徒への過剰な私刑との批判』
『一方で、被害者遺族からは圧倒的な支持』
記事の横には、街頭で行った聞き取り調査も載っている。
「家族を殺された私には、あの人が英雄です。」
「もう誰も助けてくれないと思っていた。」
「正直、もっとやってほしい。」
一方で反対意見もあった。
「法を無視する者を認めれば、社会は成り立たない。」
「相手が犯罪者でも、裁くのは国家の役目だ。」
「こんなことを許せば、次は誰が裁かれるか分からない。」
オズワルドは新聞を閉じた。
「世論は真っ二つじゃな。」
グラムが腕を組む。
「当然だ。」
「助けられた者には英雄。」
「法を守る者には危険人物。」
エレナは窓の外を見つめ、小さく呟く。
「……本人は。」
「こんな記事、きっと興味もないでしょうね。」
ガレスはコーヒーを一口飲み、短く答えた。
「あいつなら。」
「また次の誰かを助けに行ってる。」
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