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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
邪神:二十七歳〜

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悪者

夜。


討伐隊は街道を外れた平原で野営していた。


無数の焚き火が暗闇を照らし、兵士たちは食事を取り、武器の手入れをしながら明日に備えている。


その中央では、偵察隊が帰還していた。


「報告します。」


地図が広げられ、敵の配置、巡回経路、地形、進軍ルートが次々と報告される。


勇者エレナを中心に、グラム、セシリア、オズワルド、各部隊の隊長たちが真剣な表情で耳を傾けていた。


明日の作戦会議。


もちろん、ガレスにも参加するよう声は掛かった。


だが彼は首を横に振った。


「聞いても、よく分からん。」


「俺は目の前の敵をぶっ飛ばすだけだ。」


そう言って断り、焚き火の横へ移動した。


腕を枕にして寝転び、静かな夜空を見上げる。


満天の星。


遠くから聞こえる作戦会議の声も、ガレスには子守歌のようなものだった。


しばらくして、足音が近づく。


ガレスは夜空を見たまま口を開いた。


「終わったか?」


「ええ。」


隣に腰を下ろしたのは、エレナだった。


「相変わらず会議には来ないのね。」


「聞いても分からん。」


即答だった。


「考えるのはお前らの仕事だろ?」


エレナは思わず吹き出す。


「ここまで堂々と言われると、怒る気も失せるわ。」


ガレスは欠伸を一つした。


「その代わり、前に出たら誰よりも働く。」


「だから安心して考えてくれ。」


エレナは小さく笑い、同じように夜空を見上げた。


「ええ。」


「あんたは、それでいい。」


翌朝。


討伐隊は廃教会を目指し、静かに進軍していた。


鬱蒼とした森を抜ける。


木々の隙間から差し込む朝日が、やがて開けた景色へと変わっていく。


その時だった。


「――止まれ。」


先頭を歩く斥候が手を上げる。


部隊全体が一斉に足を止めた。


後方にいたガレスは眉をひそめる。


「どうした?」


返事はない。


何かあったことだけは分かった。


ガレスたちは前方へ向かう。


そして、その光景を目にした。


地面に何本もの長い杭が突き立てられている。


その先に串刺しにされていたのは――


邪神教徒たちだった。


全員、無残に惨殺されている。


誰一人として原形を留めていない者までいた。


血の臭いが辺り一面に立ち込めている。


そのすぐ近く。


数十人の人々が身を寄せ合い、互いの肩を抱きながら震えていた。


誰もが青ざめ、涙を流し、言葉を失っている。


討伐隊の誰もが息を呑んだ。


報告書では読んでいた。


邪神教徒が村を襲い、人々を生贄として連れ去っていることも。


そして、何者かによって教徒が皆殺しにされていることも。


だが――。


文字で知るのと、実際にこの惨状を目の当たりにするのでは、あまりにも違った。


その場にいた全員が、報告では伝わらない現実の重さに言葉を失っていた。


一人の兵士が駆け寄り、敬礼する。


「報告します!」


「彼らは近くの村の村人です。」


「邪神教団によって、この教会へ拉致・監禁されていたとのことです。」


エレナが鋭く問う。


「他には?」


兵士の表情が強張る。


「教会の地下には……その……」


言葉が詰まる。


オズワルドが静かに言った。


「なんじゃ。」


兵士は唾を飲み込み、震える声で続けた。


「……惨殺された村人が、多数。」


その場から音が消えた。


誰も口を開かない。


兵士は視線を落としたまま報告を続ける。


「生存者の証言によれば、昨晩、突然教会中が大騒ぎになったそうです。」


「悲鳴や爆発音が響き渡り……しばらくして気づくと、自分たちを拘束していた縄や鎖がすべて解かれていたと。」


「外へ出るよう促す声が聞こえたため、その人物の背中を追いかけたそうです。」


兵士はゆっくりと、杭に串刺しにされた邪神教徒たちへ目を向ける。


「そして、教会の外へ出た時――」


「この光景が、目に入ったそうです。」


ヴァルクは、生存者たちへ視線を向けた。


「その者の特徴は?」


兵士は困惑したように視線を泳がせる。


「そ、それが……。」


その時だった。


人垣が静かに割れる。


肩を貸し合いながら、一人の老人がゆっくりと前へ歩み出た。


深く刻まれた皺。


疲れ切った表情。


それでも、その瞳だけは真っ直ぐだった。


老人は静かに頭を下げる。


「私は、この村の村長を務めております。」


そして顔を上げ、ヴァルクを見据えた。


「一つ、お聞きしてもよろしいか。」


「なぜ、わしらの恩人のことを聞き回るのです。」


ヴァルクは一歩前へ出る。


「いかに相手が犯罪者とはいえ、このような残虐な行為は許されん。」


「法は法だ。」


「その者には事情を聞き、相応の裁きを受けてもらう必要がある。」


村長はしばらく黙っていた。


やがて、小さく笑う。


その笑みには、失望しかなかった。


「……助けも間に合わず。」


「地下で死んでいった者たちを救うこともできず。」


「ようやく生き残ったわしらの前に現れた恩人すら、今度はあなた方が奪おうというのですか。」


村長の声が少しだけ強くなる。


「恥を知れ。」


村人たちは黙々と教会の地下へ向かった。


しばらくして、一人、また一人と遺体を抱えて戻ってくる。


父を。


母を。


子を。


恋人を。


誰も泣き叫ばない。


ただ、静かに抱きかかえ、故郷へ連れて帰る。


討伐隊の兵士が駆け寄る。


「お待ちください! 負傷者の治療を!」


「食料もあります!」


「毛布を――」


しかし。


「……結構です。」


村人たちは首を横に振る。


誰一人として、その手を借りようとはしなかった。


そのまま遺体を抱え、歩き始める。


ヴァルクは、その背中を見つめたまま、小さく呟く。


「……賢者様。」


「私は、間違っているのでしょうか。」


オズワルドは答えなかった。


パイプに火を入れ、ゆっくりと煙を燻らせる。


深いため息が漏れた。


その視線の先では、セシリアが村人へ歩み寄っていた。


「せめて、お祈りだけでも──」


だが。


「触るな!」


村人はセシリアの手を払いのける。


勢い余って、セシリアは尻もちをついた。


辺りが凍りつく。


オズワルドは、その光景を静かに見つめながら呟いた。


「……まるで悪者じゃの。」


その声には、自嘲にも似た響きがあった。


村人の一人が、吐き捨てるように言う。


「そもそも……。」


「勇者が邪神討伐なんて言い出したから、奴らを怒らせたんだ。」


別の者も続く。


「静かに暮らしておれば、こんなことにはならなかった。」


「全部、お前たちのせいだ。」


誰も反論しなかった。


一人、また一人と村人たちは去っていく。


愛する者の亡骸を抱きながら。


残された討伐隊は、その背中を見送ることしかできなかった。


村人たちが、家族の亡骸を抱えながら歩き始める。


誰も振り返らない。


その背中へ向かって、不意に声が響いた。


「……おい。」


ガレスだった。


村人たちが足を止める。


ガレスは村長を見つめる。


「……そいつ。」


「ここら辺まで伸びた黒髪だろ。」


自分の腰の辺りを手で示す。


村長は思わず振り返った。


「……なぜ、それを。」


ガレスは静かに、自分の肩へ手をやる。


そこには、使い込まれた赤い工具箱。


「親友なんだ。」


その一言で、村長はすべてを悟った。


ガレスは工具箱をそっと押さえ、深く息を吸う。


「恩人って言ってくれて……ありがとう。」


そして、その場で深々と頭を下げた。


「それと――」


「間に合わなくて、すまん!」


ガレスの額が地面を向くほど、深い謝罪だった。


村長は目を潤ませる。


「……あの方に。」


「生き残った者全員が、感謝していると。」


「そう、お伝えください。」


ガレスは何も言わず、もう一度深く頭を下げた。

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