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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
邪神:二十七歳〜

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奇跡

翌朝。


討伐隊はエルドニア公国を出発した。


何台もの荷馬車が連なり、街道を進んでいく。


ガタガタと揺れる荷台の上。


ガレスは向かいに座るエレナへ顔を向けた。


「そういや。」


頭をかく。


「邪神って何だ?」


その一言で、荷台の空気が止まる。


皆がガレスを見つめた。


「……。」


しばらく沈黙が続く。


やがてエレナが呆れたように口を開いた。


「知らないのに来たの?」


ガレスは胸を張る。


「おう。」


「何にも分からん。」


悪びれる様子はまるでない。


「ヒロを連れ戻すためだけに参加した。」


少しだけ真剣な表情になる。


「エリックの仇もあるしな。」


その返事に、皆は顔を見合わせて小さくため息をついた。


エレナは腕を組み、しばらく黙って考え込んだ。


やがて小さく息をつき、ゆっくりと口を開く。


「ガレス。あんたに邪神が何なのかを説明するより――敵が使ってくる技を説明した方が早いわ。」


ガレスは肩をすくめる。


「確かに。結局ぶっ飛ばすんだから、関係ないか。」


少し笑って続ける。


「その”奇跡”ってやつ、教えてくれ。」


エレナは頷き、隣に立つ聖女へ視線を向けた。


「セシリア、お願い。」


「はい。」


セシリアは一歩前へ出る。


「まず前提として、『奇跡』は魔法ではありません。」


「私たち神官や聖職者が扱う、神の加護を借りて発動する力です。」


「治癒、浄化、結界、防御……人を守る力が多く、魔力ではなく信仰によって成立します。」


ガレスは腕を組む。


「へぇ。じゃあ魔法とは別物なんだな。」


「はい。」


セシリアは頷く。


「ですが、邪神を信仰する者たちが使う奇跡は、その逆です。」


「治すためではなく、壊すため。」


「守るためではなく、奪うため。」


部屋の空気が静かに張り詰める。


「その中でも、特に注意していただきたい奇跡が三つあります。」


セシリアは静かに頷く。


「まず一つ目は――破壊の奇跡です。」


その視線が、エレナの手にある聖剣へ向く。


エレナは無言のまま、柄をぎゅっと握り締めた。


「邪神教徒の幹部クラスになると……」


一拍置く。


「聖剣でさえ、破壊できます。」


部屋が静まり返る。


ガレスが思わず口を開いた。


「……やべえな、それ。」


セシリアは静かに頷く。


「二つ目は――感覚遮断の奇跡です。」


「痛みや恐怖といった感覚を、一時的に失わせます。」


「主に下位構成員へ施し、命を顧みない特攻をさせるために使われます。」


グラムが低い声で口を開いた。


「痛みは、体が発する危険信号だ。」


「そして恐怖は、捨てるものじゃない。」


拳を静かに握る。


「戦士は、恐怖を消すんじゃない。」


「恐怖と共に戦うものだ。」


その言葉に、ガレスは何も言わず、静かに頷いた。


セシリアは表情を曇らせ、小さく息をついた。


「そして最後が――不治の奇跡です。」


その一言だけで、場の空気がさらに重くなる。


「治癒の奇跡の逆。」


「この奇跡によって負った傷は、治癒の奇跡では癒せません。」


「傷口は塞がらず、出血も止まりません。」


「戦闘中はもちろん、戦闘後も命を落とす危険があります。」


沈黙。


その沈黙を破ったのはエレナだった。


「これが一番厄介よ。」


エレナは静かに聖剣へ視線を落とす。


「敵は感覚遮断の奇跡で命を顧みず、斬っても斬っても向かってくる。」


「でも、こっちは違う。」


ゆっくりと顔を上げる。


「かすり傷一つでも負ったら、それが致命傷になる。」


「だから、本当の意味で一撃も受けられない戦いになるの。」


部屋は静まり返る。


ガレスは腕を組み、しばらく考え込んだあと、小さく笑う。


「なるほど。」


「要するに――」


「当たらなきゃいいんだな。」


エレナは思わず苦笑した。


「……そういうことになるわね。」

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