必要だから
会議が終わると、一行は昨日と同じ喫茶店へ足を運んだ。
テラス席。
オズワルドはパイプへ火をつけ、静かに煙をくゆらせる。
誰も口を開かない。
皆、ガレスが話し始めるのを待っていた。
長い沈黙のあと。
ガレスがぽつりと呟く。
「……ぜってぇ、ヒロだ。」
その一言に、全員が息を飲んだ。
セシリアが悲しそうに目を伏せる。
「……でも。」
「復讐だからって、あんな残酷なことを。」
「そんな怒りに身を任せて……。」
ガレスは静かに首を横へ振った。
「怒りじゃねぇ。」
短く言い切る。
「多分。」
「必要だから、やってる。」
エレナたちは黙って耳を傾ける。
「淡々と。」
「何のためかは分かんねぇ。」
ガレスは拳を握る。
「でも、そんな気がする。」
セシリアは小さく息を吐いた。
胸へ手を当てる。
「……良かった。」
「復讐に囚われているわけでは、ないのですね。」
しかし。
ガレスは再び首を横へ振る。
「だから、やべぇんだよ。」
その声は重かった。
「今まで。」
「人々の生活を守るために必要だからって。」
「ずっと地下に潜って仕事してたやつだ。」
工具箱を見つめる。
「あいつにとっては。」
「必要だからやる。」
それだけだった。
「そんなヒロが。」
「邪神教徒を殲滅するために必要だからって。」
「惨殺してんだ。」
ガレスは苦しそうに目を閉じる。
「怖いだろ。」
「淡々と、作業みたいに人を殺してんだぜ。」
誰も言葉を返せなかった。
重い沈黙が流れる。
やがて、エレナが静かに口を開く。
「……復讐じゃないなら。」
「見せしめにする目的は、何?」
オズワルドはパイプを口から離し、ゆっくりと煙を吐いた。
「敵を釣り出すんじゃよ。」
低い声だった。
「昔から、ようある。」
「こういう見せしめをやる連中はのう。」
細めた目で煙の向こうを見る。
「逆にやられると一番効くんじゃよ。」
再び、重たい沈黙が流れた。
誰も口を開けない。
誰も答えを持っていなかった。
やがて、セシリアが恐る恐る声を上げる。
「で、でも……。」
言葉を選ぶように俯く。
「必要だからって……。」
「今まで、ずっと職人さんをしてきた人が。」
震える声で続ける。
「と、突然、人を……殺せますか?」
ガレスは静かに首を上げた。
「あいつは。」
遠くを見るような目になる。
「十歳の時。」
「王女を助けるために。」
少しだけ間を置く。
「何の躊躇いもなく、盗賊の首を飛ばしてる。」
その場が静まり返る。
ガレスは自分の膝を見つめた。
(思い返してみれば。)
(あの頃から。)
(もう壊れてた。)
気付いていた。
どこかおかしいことくらい。
それでも。
見ないふりをした。
(ヒロなら戻ってこれる。)
(いつか、また笑えるようになる。)
そう自分に言い聞かせ続けてきた。
だから。
気付かないふりをしたんだ。
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