ガレス
「乗り心地はどうでさぁ、旦那?」
荷馬車の手綱を引きながら、商人が振り返る。
「いいもんでしょ?」
悪路を走っているとは思えないほど、荷台は静かだった。
揺れが少ない。
油断すれば、そのまま眠ってしまいそうなほどだった。
ガレスは荷台へ身を預けたまま笑う。
「ああ。」
「すげぇな、これ。」
商人は得意げに胸を張った。
「王都の職人に作ってもらったんでさぁ。」
その一言に。
ガレスの胸が、ちくりと痛んだ。
商人は楽しそうに続ける。
「どう見ても職人なのに。」
「本人は『僕は冒険者です』って言い張る変なやつでしたよ。」
「わはははは!」
ガレスは笑えなかった。
静かに目を伏せる。
脳裏に浮かぶのは。
ヒロを止められなかったと伝えた時の、リリアの表情。
膝から崩れ落ちる姿。
何も言えず、立ち尽くすしかなかった自分。
工具箱へ、そっと手を添える。
冷たい金具の感触が掌に伝わる。
あの日から。
しばらく酒場の二階の部屋から出られなかった。
毎日。
部屋の前には、セレナが静かに食事を置いていく。
どれだけ落ち込んでも。
どれだけ塞ぎ込んでも。
腹は減る。
それが、どうしようもなく許せなかった。
そんな、ある日。
食事を取ろうと静かに扉を開けた。
目の前には、セレナが立っていた。
目が合う。
その瞬間。
張り詰めていたものが、一気に切れた。
想いが止まらなかった。
それからだった。
気持ちが切り替わったのは。
クヨクヨ悩むのは、性に合わない。
ただ前を向く。
親友を迎えに行く。
そう決めた。
お読みいただきありがとうございました!「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、画面下の「ブックマーク登録」や「★(評価)」で応援していただけると励みになります。




