新章
ガレスは重い足取りで酒場へ戻った。
カラン。
扉を開く。
女将。
セレナ。
ギルドマスター。
三人が一斉に顔を上げる。
その視線はすぐにガレスの後ろへ向かった。
誰もいない。
その瞬間。
三人は何も聞かずに察した。
セレナが駆け寄る。
「ガレス……。」
そっと抱きしめる。
ガレスは抵抗しなかった。
女将が静かに口を開く。
「あんたでも、止められなかったんだね。」
ガレスは俯いたまま、小さく頷く。
ギルドマスターは深く息を吐いた。
「……リリアになんて言ってやりゃいいもんか。」
長い沈黙。
やがて、ガレスがか細い声を絞り出した。
「……俺から言うよ。」
唇を噛み締める。
「俺が止められなかった。」
拳が震える。
「……怖かったんだ。」
その一言に。
セレナはゆっくりと顔を上げた。
信じられなかった。
いつも大声で笑って。
誰よりも自信満々で。
どんな相手にも真っ直ぐ向かっていくガレスが。
「怖かった」と口にした。
ガレスは震える声で続ける。
「多分……。」
「止めたら、殺されてた。」
誰も言葉を返せない。
ガレスは目を閉じる。
「あいつを見て……分かっちまった。」
涙が一滴、床へ落ちた。
「もう……。」
声が震える。
「友達じゃ、ねぇんだって。」
◇
◇
◇
その日。
ようやく王都にも、一連の事件の詳細が伝えられた。
犯人は――邪神教徒。
各国へ送り付けられた犯行声明には、こう記されていた。
『先代勇者による邪神の封印が解かれるまで。』
『我らは殺し続ける。』
王都は騒然となった。
◇
各国首脳会議。
重苦しい空気の中、最初に口を開いたのは皇帝だった。
「勇者は何をやっておる。」
低く響く声。
「噂によれば、聖剣を砕いて打ち直したと聞く。」
鋭い視線が国王アルバスへ向けられる。
「本当に勇者としての資格があるのか。」
国王アルバスは表情一つ変えない。
「勇者が邪神教徒を追い詰めた。」
静かに答える。
「だからこその凶行じゃろう。」
腕を組み、小さく笑う。
しかし、その唇の端には血が滲んでいた。
「これを機に、炙り出せるわい。」
すると、別の国の王が机を叩いた。
「人民を餌にしているようではないか!」
怒りを露わにする。
「変わっておらんな、アルバス!」
会議室の空気が一気に張り詰める。
「やめよ。」
皇帝の一声で、全員が口を閉ざした。
皇帝は全員を見渡す。
「とにかく、勇者だけでは手が足らん。」
「各国の強者を集め、一気に叩く。」
その提案に、各国の王たちも静かに頷く。
アルバスが最後に口を開いた。
「そのためには。」
「まずは情報収集じゃな。」
机の上の資料へ目を落とす。
「過去の事件を洗い。」
「敵のことを掴むのじゃ。」
◇
◇
◇
酒場の二階。
セレナは、長い口づけをようやく終えた。
名残惜しそうに少しだけ離れる。
ガレスは照れくさそうに頭をかき、壁に立て掛けてあった赤い工具箱を肩へ担いだ。
その重みに苦笑する。
「まったく。」
「アクセサリーにしちゃ、大きすぎるな。」
セレナは、その姿を見てふふっと笑う。
「行ってらっしゃい。」
そして真っ直ぐガレスを見つめる。
「必ず、連れて帰ってきて。」
ガレスは力強く頷いた。
「おう。」
胸を叩く。
「任せろ!」
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