旅立ち
その頃。
王都中が騒然としていた。
いや。
王都だけではない。
各国から、次々と不穏な報せが届いていた。
街道沿い。
森の入口。
国境付近。
まるで見せしめのように、人々の遺体が発見されていた。
どれも一目で分かる異様な有様だった。
残虐な手口。
明らかな殺害。
そして、誰かへ恐怖を植え付けることだけを目的としたような痕跡。
人々は口々に噂した。
「戦争が始まるのか……。」
「魔族の仕業か?」
「いや、盗賊じゃない。」
「こんなことをする連中がいるのか……。」
不安は瞬く間に各国へ広がっていった。
街には重苦しい空気が漂い始める。
誰もが、何か大きな災いの前触れではないかと恐れていた。
◇
夜明け前。
自宅。
ヒロは工具箱を静かに床へ置いた。
何も言わず、その蓋をそっと撫でる。
そして寝室へ目を向けた。
ベッドではリリアが穏やかな寝息を立てて眠っている。
ヒロは小さく微笑んだ。
「……行ってきます。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
起こさないように、ゆっくりと扉を閉める。
まだ誰も歩いていない王都の道を、一人歩き始めた。
◇
王都城門。
門柱にもたれ掛かっていたガレスが、ゆっくりと顔を上げる。
「……行くのか?」
「ああ。」
短いやり取り。
ガレスはヒロを見つめたまま続ける。
「敵討ちのつもりかよ。」
ヒロは立ち止まらない。
ただ一言だけ返した。
「やられたら、やり返す。」
その声には感情がなかった。
「全員、同じ目に遭わせてやる。」
ガレスの背筋を冷たいものが走る。
村の一件で壊れかけたヒロは。
王都で出会った人々の優しさに触れ、少しずつ立ち直っていった。
ガレスは、そう信じていた。
違った。
壊れていた。
最初から。
壊れたまま。
ただ、その破片を必死に繋ぎ合わせて笑っていただけだった。
エリックの死が、その繋ぎ目を砕いてしまった。
ガレスは何も言えなかった。
止める言葉が見つからない。
ただ、小さくなっていくヒロの背中を見送ることしかできなかった。
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