それでもやっぱりランクを上げない
数日後。
ヒロの家。
遊びに来ていたガレスとセレナは、ソファでくつろいでいた。
ヒロはキッチンでコーヒーを淹れ、四人分のカップをトレーへ乗せる。
「はい。」
テーブルへ並べると、自分も腰を下ろした。
リリアの隣へ。
一口飲んでから、ぽつりと話し始める。
「エリックにさ。」
「暇なら冒険者やれって言われたよ。」
苦笑する。
「これでも一応、冒険者なんだけどね。」
四人の間に笑いが広がる。
ガレスが思い出したように口を開いた。
「そういや。」
「お前、一度も討伐クエスト行ってないんだっけか?」
ヒロは首を横に振る。
「いや。」
「一回だけ、帝国で行ってるよ。」
「……え?」
セレナとリリアが同時に固まった。
「ええっ!?」
ガレスも口を開けたまま固まる。
「……は?」
ヒロはコーヒーを一口飲む。
「悪い。」
少し困ったように笑う。
「でも、辺境伯のご令嬢の命令でね。」
肩をすくめる。
「逆らったら、死罪だったんだ。」
部屋がしんと静まり返った。
「めちゃくちゃだな、そのご令嬢……。」
ガレスは呆れたように頭をかいた。
「んで?」
身を乗り出す。
「初めての討伐クエストは何だったんだ?」
ヒロは何でもないことのように答える。
「ああ。」
「ドラゴン討伐だよ。」
――ぶっ!!
ガレスが飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。
「ごほっ!?」
「ちょっと!」
セレナが慌てて立ち上がり、テーブルを拭き始める。
「もう!」
「子供じゃないんだから!」
ガレスは咳き込みながらヒロを指差した。
「ドラゴンって、お前!」
「初めての討伐クエストじゃねぇだろ!」
ヒロはきょとんと首を傾げる。
「そう?」
その横で、リリアが何かを思い出したように目を見開いた。
「……それって。」
「三年前の?」
ヒロは頷く。
「うん。」
「後方支援だけどね。」
リリアは遠い記憶を辿るように呟く。
「確か……。」
「その後、皇帝陛下が王国へお礼を言いに来ていたような……。」
ヒロはコーヒーを飲みながら平然としていた。
「懐かしいな。」
ヒロは少しだけ目を細めた。
ガレスは身を乗り出す。
目を輝かせながら尋ねる。
「それで?」
「冒険、すんのか?」
もう立派な大人なのに。
遊びに行く前の子供のように、うずうずしている。
ヒロは苦笑した。
「やる気が起きないんだよ。」
コーヒーを一口飲む。
「収入も増えて。」
「生活も安定して。」
「人々の生活を守るっていう目標も、ある程度達成しちゃったからね。」
少し考えるように天井を見る。
「暇だから、いざ冒険って気分にはならないんだよな。」
その時。
リリアがそっとヒロの肩へ頭を預けた。
そして、ヒロの手に自分の手を重ねる。
小さな声で呟く。
「……ヒロくんに。」
「危ないことは、してほしくない。」
ヒロはその手を優しく包み込む。
少し照れくさそうに笑った。
「……だってさ。」
ガレスは勢いよくソファへもたれかかった。
「はぁぁ……。」
大げさに肩を落とす。
「期待して損した……。」
その背中を、セレナが苦笑しながらぽん、ぽんと叩いた。
部屋には穏やかな笑い声が広がった。
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