ランク上げるかも…?
翌朝。
ギルドの食堂。
いつものテーブルでは、エリックとヒロが向かい合って話していた。
毎朝恒例となった相談会。
最初は二人だけだった。
それが一人。
また一人と冒険者が加わり。
今では一つの大きなテーブルが埋まるほどになっていた。
依頼のこと。
装備のこと。
魔物のこと。
皆が思い思いに相談を持ち寄ってくる。
エリックがふと口を開く。
「勇者様、行っちゃいましたね。」
ヒロは苦笑しながら肩をすくめた。
「毎日馬鹿騒ぎしてたから。」
お茶を一口飲む。
「せいせいするよ。」
一瞬の静寂。
そして。
「ぶはっ!」
「はははは!」
「言うと思った!」
「本人いたら泣くぞ!」
テーブルいっぱいに笑いが広がる。
ヒロもつられて笑った。
「今日は何されるんですか?」
エリックが尋ねる。
ヒロは湯気の立つお茶を口に運びながら答えた。
「指名クエストも無かったし。」
「今日は王宮の研究所に行くよ。」
その言葉に、テーブルのあちこちから声が上がる。
「研究の方はどうなんだ?」
「進んでんのか?」
「アンネローゼ様、解放できそうか?」
ヒロは少しだけ困ったように笑い、首を横に振った。
「ここ数年はね。」
「スラムの改善と就業支援に予算が振られてるから。」
「研究の方は全然……。」
残念そうな空気が流れる。
しかし、ヒロはすぐに微笑んだ。
「でも、それでいいんだよ。」
皆が顔を上げる。
「人が仕事を覚えて。」
「自分の力で生活できるようになって。」
「その技術が、また次の世代へ受け継がれていく。」
窓の外へ視線を向ける。
「そうやって街が豊かになれば。」
「いつか、その予算は自然と減っていく。」
「その時になれば、また研究にも予算が回ってくる。」
穏やかに笑った。
「まだまだ先だろうけど。」
「いつか、必ず出来るさ。」
その言葉に、テーブルの冒険者たちは静かに頷いた。
「それにしても。」
ヒロはエリックの胸元へ目を向けた。
冒険者プレートを見て、少し驚く。
「もうBランクか。」
感心したように笑う。
「早いね。」
その一言で、周りの冒険者たちも口々に声を上げた。
「俺なんか、もう抜かれちまったよ。」
「魔剣士なんて難しいのに、器用だよな。」
「さすが、新世代のガレスだ。」
エリックは照れくさそうに頭をかいた。
「先生のおかげですよ。」
そう言ってヒロを見る。
「それに。」
「ガレスさんは、もうSランクになってますし。」
史上最年少Aランク。
その記録を塗り替えたばかりか。
ガレスは、さらに史上最年少Sランクという新たな記録まで打ち立てていた。
ヒロはなぜか得意げに胸を張る。
「ガレスは天才だからね。」
その自信満々な言い方に、テーブル中が吹き出した。
「はははは!」
「ガレスのことになると急に自信満々だな!」
「お前が褒められてるわけじゃねぇぞ!」
ヒロはきょとんと首を傾げる。
「え?」
その反応に、さらに笑いが広がった。
そこへ、一人の受付嬢が苦笑しながら歩いてきた。
「はいはい、皆さん。」
パン、と手を叩く。
「おしゃべりもいいですけど。」
「クエスト、受注してくださいね。」
その一言で、冒険者たちは顔を見合わせる。
「あ、そうだった。」
「行くか。」
「今日は何受けようかな。」
ぞろぞろと立ち上がり、受付へ向かっていった。
残ったのは。
ヒロとエリック、二人だけだった。
ヒロがお茶を飲みながら尋ねる。
「エリックは行かないの?」
エリックは真っ直ぐヒロを見る。
少しだけ真面目な顔になる。
「先生。」
一呼吸置く。
「時間が出来たのなら。」
「冒険者、しませんか?」
ヒロは目を丸くした。
「……。」
そのまま考え込む。
エリックの言うことは、もっともだった。
スラム街の改善。
インフラ整備クエストの激減。
王宮研究所の研究も、予算不足で思うように進まない。
今の自分には、以前ほど仕事がない。
だったら。
討伐クエストへ向かってもいい。
そんな選択肢が、初めて頭に浮かんだ。
ヒロはゆっくりと立ち上がった。
「……考えておくよ。」
その一言に、エリックの表情がぱっと明るくなる。
「本当ですか!?」
思わず身を乗り出した。
「先生!」
「その時はぜひ!」
「ぜひ、ご一緒させてください!」
興奮したまま勢いよく頭を下げる。
「荷物持ちでも何でもやります!」
ヒロは思わず苦笑した。
「僕はFランクだよ。」
肩をすくめる。
「Bランクの君に荷物持ちなんて、させられないよ。」
そう言って、ひらひらと手を振る。
そのままギルドの扉へ向かう。
カラン、と扉が開く。
朝の光が差し込む中、ヒロは振り返ることなく歩き出した。
その背中へ、エリックは大きな声で叫ぶ。
「先生!」
ヒロは足を止めず、小さく手を上げる。
「絶対、一緒に行きましょうね!」
ギルド中に響く声。
「約束ですよ!」
ヒロは振り返らない。
それでも、上げた手を一度だけ軽く振ってみせた。
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