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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
戦後:二十歳〜二十七歳

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ランク上げるかも…?

翌朝。


ギルドの食堂。


いつものテーブルでは、エリックとヒロが向かい合って話していた。


毎朝恒例となった相談会。


最初は二人だけだった。


それが一人。


また一人と冒険者が加わり。


今では一つの大きなテーブルが埋まるほどになっていた。


依頼のこと。


装備のこと。


魔物のこと。


皆が思い思いに相談を持ち寄ってくる。


エリックがふと口を開く。


「勇者様、行っちゃいましたね。」


ヒロは苦笑しながら肩をすくめた。


「毎日馬鹿騒ぎしてたから。」


お茶を一口飲む。


「せいせいするよ。」


一瞬の静寂。


そして。


「ぶはっ!」


「はははは!」


「言うと思った!」


「本人いたら泣くぞ!」


テーブルいっぱいに笑いが広がる。


ヒロもつられて笑った。


「今日は何されるんですか?」


エリックが尋ねる。


ヒロは湯気の立つお茶を口に運びながら答えた。


「指名クエストも無かったし。」


「今日は王宮の研究所に行くよ。」


その言葉に、テーブルのあちこちから声が上がる。


「研究の方はどうなんだ?」


「進んでんのか?」


「アンネローゼ様、解放できそうか?」


ヒロは少しだけ困ったように笑い、首を横に振った。


「ここ数年はね。」


「スラムの改善と就業支援に予算が振られてるから。」


「研究の方は全然……。」


残念そうな空気が流れる。


しかし、ヒロはすぐに微笑んだ。


「でも、それでいいんだよ。」


皆が顔を上げる。


「人が仕事を覚えて。」


「自分の力で生活できるようになって。」


「その技術が、また次の世代へ受け継がれていく。」


窓の外へ視線を向ける。


「そうやって街が豊かになれば。」


「いつか、その予算は自然と減っていく。」


「その時になれば、また研究にも予算が回ってくる。」


穏やかに笑った。


「まだまだ先だろうけど。」


「いつか、必ず出来るさ。」


その言葉に、テーブルの冒険者たちは静かに頷いた。


「それにしても。」


ヒロはエリックの胸元へ目を向けた。


冒険者プレートを見て、少し驚く。


「もうBランクか。」


感心したように笑う。


「早いね。」


その一言で、周りの冒険者たちも口々に声を上げた。


「俺なんか、もう抜かれちまったよ。」


「魔剣士なんて難しいのに、器用だよな。」


「さすが、新世代のガレスだ。」


エリックは照れくさそうに頭をかいた。


「先生のおかげですよ。」


そう言ってヒロを見る。


「それに。」


「ガレスさんは、もうSランクになってますし。」


史上最年少Aランク。


その記録を塗り替えたばかりか。


ガレスは、さらに史上最年少Sランクという新たな記録まで打ち立てていた。


ヒロはなぜか得意げに胸を張る。


「ガレスは天才だからね。」


その自信満々な言い方に、テーブル中が吹き出した。


「はははは!」


「ガレスのことになると急に自信満々だな!」


「お前が褒められてるわけじゃねぇぞ!」


ヒロはきょとんと首を傾げる。


「え?」


その反応に、さらに笑いが広がった。


そこへ、一人の受付嬢が苦笑しながら歩いてきた。


「はいはい、皆さん。」


パン、と手を叩く。


「おしゃべりもいいですけど。」


「クエスト、受注してくださいね。」


その一言で、冒険者たちは顔を見合わせる。


「あ、そうだった。」


「行くか。」


「今日は何受けようかな。」


ぞろぞろと立ち上がり、受付へ向かっていった。


残ったのは。


ヒロとエリック、二人だけだった。


ヒロがお茶を飲みながら尋ねる。


「エリックは行かないの?」


エリックは真っ直ぐヒロを見る。


少しだけ真面目な顔になる。


「先生。」


一呼吸置く。


「時間が出来たのなら。」


「冒険者、しませんか?」


ヒロは目を丸くした。


「……。」


そのまま考え込む。


エリックの言うことは、もっともだった。


スラム街の改善。


インフラ整備クエストの激減。


王宮研究所の研究も、予算不足で思うように進まない。


今の自分には、以前ほど仕事がない。


だったら。


討伐クエストへ向かってもいい。


そんな選択肢が、初めて頭に浮かんだ。


ヒロはゆっくりと立ち上がった。


「……考えておくよ。」


その一言に、エリックの表情がぱっと明るくなる。


「本当ですか!?」


思わず身を乗り出した。


「先生!」


「その時はぜひ!」


「ぜひ、ご一緒させてください!」


興奮したまま勢いよく頭を下げる。


「荷物持ちでも何でもやります!」


ヒロは思わず苦笑した。


「僕はFランクだよ。」


肩をすくめる。


「Bランクの君に荷物持ちなんて、させられないよ。」


そう言って、ひらひらと手を振る。


そのままギルドの扉へ向かう。


カラン、と扉が開く。


朝の光が差し込む中、ヒロは振り返ることなく歩き出した。


その背中へ、エリックは大きな声で叫ぶ。


「先生!」


ヒロは足を止めず、小さく手を上げる。


「絶対、一緒に行きましょうね!」


ギルド中に響く声。


「約束ですよ!」


ヒロは振り返らない。


それでも、上げた手を一度だけ軽く振ってみせた。

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