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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
戦後:二十歳〜二十七歳

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ガレスVS勇者

ヒロは夕暮れの王都を歩いていた。


工房を出てもなお、アンネローゼの話が頭から離れない。


「敵わないな……まったく。」


思わず苦笑する。


人を救うための剣を打つために、エルフの森の結界を破った鍛冶職人。


その姿に惹かれ、恋をした一人のエルフ。


そして、その剣へ自らの魔力を注ぎ続けた。


一振りの剣に、二人の人生が込められていた。


ヒロは、その歴史の重みを静かに感じていた。


気づけば、足は自然とギルドへ向かっていた。


報告する依頼はない。


用事もない。


それでも。


会いたかった。


愛する人に。


ギルドの扉を開く。


――その瞬間。


「勇者とガレスが模擬戦やるってよ!」


「マジか!?」


「賭けろ賭けろ!」


「見に行くぞ!」


「広場だ!急げ!」


ギルドの中は、お祭り騒ぎになっていた。


ヒロは額へ手を当て、深くため息をついた。


「あのバカ……何やってんだ。」


呆れた声を漏らした、その時。


「おかえり、ヒロくん。」


すぐそばから、柔らかな声が聞こえた。


ヒロが顔を上げる。


そこにはリリアが立っていた。


先ほどまでの騒ぎで、冒険者たちはほとんど全員、広場へ向かってしまっている。


受付の前にも、もう誰もいない。


いつもは絶えず人が並ぶギルドが、今は嘘のように静まり返っていた。





広場の端。


ヒロは屋台で焼きたての串を二本買った。


一本をリリアへ差し出す。


「お待たせ。」


リリアは嬉しそうに受け取る。


「ありがと。」


二人は並んで串を頬張りながら、広場の中央を眺めていた。


向かい合うのは、勇者エレナとガレス。


リリアがぽつりと尋ねる。


「どっちが勝つと思う?」


ヒロは串を一口かじりながら答えた。


「さすがに勇者だね。」


「普通の人間と違って、神の加護があるから。」


少し悔しそうに笑う。


「ガレスといえど、敵わないよ。」


その横顔を見て、リリアはくすりと笑った。


「ふふっ。」


その頃。


広場の中央では――


ガレスの両肩を、グラムががっしりと掴んでいた。


「いいか!」


拳を握り締める。


「筋肉は裏切らん!!」


「おう!!」


「お前は、男だ!!」


「おう!!」


「絶対勝て!!」


「おう!!」


熱血そのものだった。


その頭へ。


ゴツン。


オズワルドの杖が遠慮なく振り下ろされる。


「痛っ!」


グラムが頭を押さえる。


オズワルドは呆れ顔でため息をついた。


「なんでお前が味方しとる。」


そう言うと、グラムの首根っこを掴む。


「うおっ!?」


そのままずるずると広場の端まで引きずっていく。


「離せ、じじい!」


「黙っとれ。」


二人のやり取りに、広場から笑いが起きた。



二人は静かに向き合う。


ゆっくりと木剣を構えた。


広場が静まり返る。


ヒロは無意識に拳を握り締めていた。


その拳へ。


そっと、リリアの手が重なる。


ヒロは驚いて横を見る。


リリアは何も言わず、小さく微笑んでいた。


その温もりに、ヒロも少しだけ肩の力を抜く。


「始め!」


オズワルドの声が広場に響いた。


次の瞬間。


勇者エレナの姿が消える。


いや。


あまりにも速すぎて、誰の目にも映らなかった。


気づけば、ガレスの目の前。


木剣が一直線に振り下ろされる。


「終わった。」


誰もがそう思った。


だが。


ヒロだけが、口元を吊り上げた。


「ふっ。」


鈍い音が響く。


木剣はガレスの肩へ深々とめり込む。


それでも。


ガレスは止まらなかった。


「おらぁ!!」


雄叫びと共に、そのままエレナを力任せに突き飛ばす。


体勢を崩した勇者へ、一気に飛びかかった。


馬乗りになる。


木剣の切っ先を首元へ突きつけた。


「俺の勝ちだ!!」


一瞬の静寂。


そして――


「うおおおおおおおっ!!」


広場が大歓声に包まれた。


「勝った!」


「ガレスが勇者に勝ったぞ!」


「化け物かあいつ!」


歓声の中を、グラムが全力で駆け寄ってくる。


ガレスの両肩を掴み、何度も揺さぶった。


「男だ!!」


「お前は、男だ!!」


ヒロは歓声の中を、ゆっくりとガレスのもとへ歩いていく。


そして肩に手を置いた。


「木剣じゃなかったら。」


ため息をつく。


「真っ二つだよ。」


ガレスが勢いよく振り返る。


「ヒロ!」


満面の笑みだった。


「見たか! 俺の勝ちだ!」


ヒロは呆れたように眉を下げる。


「……話、聞いてた?」


その横では、エレナが悔しそうに拳を握り締めていた。


「木剣とはいえ、本気で振ったのに!」


信じられないという表情でガレスを見る。


「普通なら骨が折れてるわよ!!」


周りの冒険者たちも苦笑する。


「やりすぎだろ……。」


「勇者が本気出すなよ。」


「普通なら死んでるぞ。」


当の本人だけは、肩をさすりながらケロッとしていた。


「へへっ。」


そこへグラムが駆け寄る。


ガレスの肩へ腕を回し、がっちりと肩を組んだ。


二人は顔を見合わせる。


「筋肉は!」


「裏切らん!!」


広場中が笑いに包まれた。


ヒロは額を押さえる。


「……早く聖剣、出来ないかな。」


思わず本音が漏れる。

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