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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
戦後:二十歳〜二十七歳

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伝説の鍛治職人

ある程度意見がまとまると、親方は大きな紙を作業台へ広げた。


炭で一本、線を引く。


職人たちが自然とその周りへ集まる。


「重心はもう少し前だ。」


「いや、魔力の流れを考えるとこっちだ。」


次々と意見が飛び交う。


親方は黙って図面を引き続けていた。


その様子を、ヒロはアンネローゼと少し離れた場所から眺めていた。


ヒロはふっと笑う。


「それにしても。」


アンネローゼが首を傾げる。


「何?」


「まさか、アンネローゼさんの恋人が鍛冶職人だったなんて。」


アンネローゼの目が大きく見開かれた。


「……。」


しばらく固まったまま、ヒロを見る。


「……なんで気づいたの?」


ヒロは作業台の上に並ぶ聖剣の欠片へ視線を向けた。


「だって、あの刀に込められてる魔力。」


少し笑う。


「アンネローゼさんのでしょ?」


アンネローゼは何も答えない。


ヒロは続ける。


「それに。」


「砕けた破片を見る表情がね……。」


その一言で十分だった。


アンネローゼはふっと力を抜き、どこか遠くを見るように微笑んだ。


「変な人だったの。」


懐かしむような声だった。


「いい剣を打つには、いい炎が必要。」


「いい炎には、いい木が必要。」


「そう言ってね。」


苦笑する。


「結界に守られてるはずの私の里へ勝手に入ってきて、木を切り出すのよ?」


ヒロは思わず吹き出した。


「ははっ。」


「エルフの森の結界を突破できる人間なんて、いるんですか?」


アンネローゼもつられて笑い出した。


「ふふっ。」


「私、頭に来ちゃってね。」


懐かしそうに目を細める。


「何度追い出しても、次の日にはまた来るの。」


「毎日、毎日。」


「結界を抜けて、勝手に森へ入ってきて。」


ヒロは思わず苦笑する。


「懲りない人ですね。」


「本当に。」


アンネローゼは肩をすくめた。


「ついには里まで入って来たのよ。」


ヒロは呆れたように息を漏らす。


「とんでもない人だね。」


エルフは森の守り人。


森を守り、育てる者。


木を切るなど、本来は御法度だった。


ましてや、エルフの森は強力な結界に守られている。


人間が入り込むこと自体、あり得ない。


まして里まで辿り着くなど、聞いたこともない話だった。


アンネローゼは楽しそうに続ける。


「それでね。」


「ついには里長の許しまで貰っちゃうの。」


両手を広げて笑う。


「『一本だけください!』って。」


ヒロは堪えきれず吹き出した。


「はははっ!」


アンネローゼも声を上げて笑う。


工房の隅で、二人だけの笑い声が響いた。


しばらく笑った後、アンネローゼは少しだけ優しい表情になる。


「……放っておけなくてね。」


静かに呟く。


「大事な木だから。」


「だから、ついて行ったの。」


アンネローゼは、うっとりと目を細めた。


遠い昔を見つめるような表情。


「何日も。」


小さく微笑む。


「何日も、何日も。」


「槌を振るい続ける姿がね。」


少し照れくさそうに笑う。


「……素敵だった。」


ヒロは黙って耳を傾ける。


「最初はね。」


アンネローゼは苦笑した。


「大事な木が燃やされるのを見て、本気で怒ったわ。」


エルフにとって、森は命。


一本の木にも、長い年月が宿っている。


その木が炎にくべられる。


本来なら許せることではなかった。


「でもね。」


アンネローゼはゆっくりと首を横に振る。


「槌を持った、あの人を見ると。」


優しく目を閉じる。


「あの真剣な横顔を見ると。」


「止められなかったの。」


その声は、今もなお恋する乙女そのものだった。


「確か……。」


ヒロは少し申し訳なさそうに口を開いた。


「戦争で亡くなったと聞きましたけど。」


アンネローゼは、ひらひらと手を振る。


「違うわ。」


静かに微笑む。


「あの人は戦争には出てない。」


少しだけ目を伏せる。


「……戦争に、殺されたの。」


ヒロは黙って続きを待った。


アンネローゼはゆっくりと語り始める。


「あの人は、聖剣を打った鍛冶職人として名を轟かせた。」


「だから、ある国の王から命じられたの。」


「軍のために剣を打て、と。」


工房の奥では、今も職人たちが図面を囲んで議論を続けている。


その槌の音を聞きながら、アンネローゼは続けた。


「でも、あの人は断った。」


小さく笑う。


「あの人らしいでしょう?」


ヒロも静かに頷く。


「剣は人を救うためのものだ。」


「戦争に使うなど、許されない。」


それが、あの人の答えだった。


王の命への拒絶。


その罪は重かった。


「あの人は……。」


アンネローゼは一度だけ目を閉じる。


「王命に背いた罪で、処刑された。」


しばらく沈黙が流れる。


ヒロは何も言えなかった。


アンネローゼはゆっくりと前を向く。


その瞳には悲しみよりも、強い意志が宿っていた。


「だからね。」


穏やかに笑う。


「私は戦争を終わらせるために立ち上がったの。」


工房の中央では、親方が新しい聖剣の図面へ線を引いている。


アンネローゼはその光景を見つめながら、静かに言った。


「あの人の想いを、継ぐために。」

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