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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
戦後:二十歳〜二十七歳

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静かな酒場

その様子を見ていたグラムが、勢いよく立ち上がった。


「おい!」


ガレスへ親指を向ける。


「行くぞ!」


ガレスも迷わず立ち上がる。


「おう!」


二人は肩を並べ、そのまま酒場の出口へ歩き出した。


エレナが慌てて呼び止める。


「ちょっとグラム!」


「どこ行くのよ!」


グラムは振り返らず、大きく笑う。


「俺はSSランク。」


「だが、そんなもんは関係ねぇ!」


拳で自分の胸を叩く。


「魂で語る!」


そして隣のガレスを見た。


「男の魂とは何だ!」


「ガレス!」


ガレスは満面の笑みを浮かべる。


「剣だ!」


そう叫びながら、背中の大剣を天へ高く掲げた。


グラムも負けじと大剣を担ぎ直す。


「よし!」


「行くぞ!」


「おう!」


二人は意気揚々と酒場を飛び出していった。


店内は静まり返る。


ヒロは額に手を当てた。


「……また増えた。」


セレナは苦笑する。


「ガレス、お友達できましたね。」


女将は鼻で笑った。


「類は友を呼ぶってやつさ。」


その一言で。


酒場中が再び大爆笑に包まれた。


騒ぎが収まると、冒険者たちは何事もなかったかのように席へ戻っていく。


「続き飲もうぜ。」


「せっかくの酒がぬるくなっちまった。」


笑い声が少しずつ戻り始める。


ジョッキがぶつかる音。


厨房から漂う料理の香り。


酒場はゆっくりと、いつもの喧騒を取り戻していった。


ヒロの向かいでは、セシリアが申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめんなさい。」


「せっかく仲良く飲んでいたところを……。」


ヒロは目を丸くした。


「え?」


「なんで謝るんですか?」


首を傾げる。


「あいつらがバカなのが悪いのに。」


エレナは思わず吹き出した。


「ふふっ。」


「ヒロ、おかしい!」


ヒロは照れくさそうに頭を掻く。


「そうかな。」


そして何事もなかったように話題を変えた。


「それはそうと。」


「王都には何をしに来たの?」


その一言で。


エレナとセシリアの表情がわずかに曇る。


二人は顔を見合わせた。


「ええっと、それは……。」


言葉を濁す。


ヒロは二人を見ながら、淡々と口を開いた。


「それって。」


「エレナが懐に抱えてる何かに関係してる?」


「!」


エレナとセシリアは同時に目を見開いた。


エレナは反射的に胸元へ手を当てる。


「な、なんで……。」


ヒロは不思議そうに首を傾げる。


「だって。」


「重心がおかしいもん。」


「歩き方が少しだけ不自然だったし。」


「ずっと無意識に左腕で庇ってたから。」


「大事な物なんだろうなって。」


エレナとセシリアは、言葉を失って顔を見合わせた。


エレナはしばらく黙っていた。


やがて小さく息を吐く。


「……隠しても仕方ないか。」


そう呟くと、懐へ手を入れた。


丁寧に包まれた布を、ゆっくりとテーブルへ置く。


布を開く。


中から現れたのは――


粉々に砕けた一本の剣だった。


柄。


鍔。


そして無数の刀身の欠片。


エレナは俯いたまま、小さな声で言う。


「……一生懸命拾ったんだけどね。」


欠片へ優しく触れる。


「残ったの……これだけだったの。」


セシリアも悲しそうに目を伏せた。


しかし。


ヒロは二人の表情など気にする様子もなく、砕けた剣へ視線を落とした。


「失礼。」


それだけ言うと、欠片を一つずつ手に取って眺め始める。


角度を変え。


断面を見つめ。


指先で魔力の流れを確かめる。


「……。」


しばらく無言の時間が流れた。


やがてヒロがぽつりと呟く。


「すごい剣だ。」


「それに。」


さらに一つの欠片を持ち上げる。


「すごい魔力が込められている。」


ヒロは目を閉じる。


残留する魔力を静かに読み取る。


「この魔力は……。」


少し考え込む。


そして。


ふっと口元が緩んだ。


「なるほど。」


ニヤリと笑う。


「だから王都に来たんだね。」


エレナとセシリアは顔を上げる。


ヒロは砕けた剣を見つめたまま言った。


「戦姫アンネローゼに会うために。」


その夜。


四人は宿屋の広間に集まっていた。


グラムは椅子へどかっと腰を下ろす。


全身汗だく。


肩で大きく息をしていた。


「はぁ……はぁ……。」


興奮冷めやらぬ様子で拳を握る。


「あいつは男だ!」


オズワルドはぐったりと椅子にもたれながら、力なく返す。


「見たら分かるわい……馬鹿者。」


その声には疲労が滲んでいた。


ギルドマスターを基礎から鍛え直した結果、さすがの大賢者も消耗しきっている。


「まったく……。」


「何十年ぶりじゃ、あそこまで魔法を叩き込んだのは……。」


一方、エレナは膝の上へ大切そうに包みを抱えていた。


砕けた剣。


決して手放すことなく、静かに見つめている。


沈黙を破ったのはセシリアだった。


「アンネローゼ様に、お会いできるそうです。」


その一言で。


グラムとオズワルドが同時に顔を上げた。


「なに!?」


「なんじゃと!?」


エレナは頷く。


「ヒロが。」


「あした、ギルドに来てって。」


二人は顔を見合わせる。


意味が分からない。


「……待て。」


オズワルドが眉をひそめる。


「なぜ、あの小僧が戦姫アンネローゼに会わせられる?」


グラムも腕を組む。


「俺も分かんねぇ。」


「王家の許可が要るんじゃねぇのか?」


エレナは静かに首を振る。


「私もそう思った。」


「でも。」


砕けた剣へ視線を落とす。


「この剣を見ただけで。」


「『だから王都に来たんだね。戦姫アンネローゼに会うために』って。」


「迷いなく言ったの。」


部屋は静まり返る。


四人とも、同じことを考えていた。


――あの職人は、一体何者なんだ。

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