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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
戦後:二十歳〜二十七歳

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勇者一行と木漏れ日の酒場

謁見を終えた四人は、王宮の正門を後にした。


巨大な門がゆっくりと開く。


門兵たちは一斉に敬礼した。


「勇者様!」


「皆様、お疲れ様でした!」


エレナは穏やかに微笑み、軽く会釈を返す。


その隣では、熊のような体格の戦士――グラムが大きく手を振る。


僧侶のセシリアも優しく微笑みながら一礼した。


最後尾を歩く大魔術師オズワルドは、杖を軽く上げるだけで応える。


四人が正門を出た瞬間だった。


「あっ……!」


「勇者様だ!」


「本物だ!」


大通りを歩いていた人々が次々と足を止める。


あっという間に人だかりができ始めた。


王宮正門前。


王都で最も人通りの多い場所。


南門から裏道を通って王宮へ向かった時とは違い、今度は誰の目にも留まる。


「勇者様ー!」


子供たちが駆け寄る。


商人たちは道を開ける。


冒険者たちも思わず姿勢を正した。


「黒髪の戦乙女……。」


「勇者エレナだ。」


「隣にいるのは豪腕のグラム。」


「聖女セシリアもいる。」


「あの老人……賢者オズワルドじゃないか。」


歓声が大通りに広がる。


エレナは少し困ったように笑った。


「やっぱりこうなるわね。」


グラムは豪快に笑う。


「正門から出りゃ当然だ!」


セシリアも苦笑する。


「南門から入って正解でしたね。」


オズワルドは長い髭を撫でながら、ふぉっふぉっと笑う。


「それでも、良いものを見つけられたわい。」


エレナは小さく頷いた。


脳裏に浮かぶのは、王宮まで案内してくれた一人の青年。


職人の格好。


穏やかな笑顔。


人だかりを抜けながら、四人はゆっくりと歩く。


しばらく誰も口を開かなかった。


最初に沈黙を破ったのはエレナだった。


「……あの人。」


「職人にしか見えなかったけど。」


少し考え込むように続ける。


「相当強いよ。」


「たぶん、剣士。」


グラムが腕を組んで頷く。


「俺もそう思った。」


しかし、その言葉にオズワルドは首を横へ振った。


「お主の目は節穴か。」


「ありゃ剣士ではない。」


白い髭を撫でながら静かに言う。


「魔術師じゃ。」


エレナが眉をひそめる。


「でも、魔力はほとんど感じなかったわ。」


「そこじゃ。」


オズワルドの目が鋭くなる。


「一見すると、魔力は驚くほど少なく見える。」


「じゃが、あれは少ないのではない。」


「極限まで圧縮され、練り込まれておるのじゃ。」


「密度。」


「精度。」


「制御。」


「どれを取っても、わしが見てきた魔術師の中でも指折りじゃ。」


グラムが豪快に笑う。


「細けぇことは分からねぇ。」


「でもよ。」


「あいつ、やべぇ雰囲気はしたぜ。」


「隙があるようで無ぇ。」


「近寄っちゃいけねぇ奴ってのは分かる。」


セシリアは少し首を傾げた。


「私は……。」


穏やかに微笑む。


「優しい男の人に見えました。」


「道案内も嫌な顔一つせず引き受けてくださいましたし。」


「門兵さんにも丁寧でした。」


「それに、話していても、とても穏やかで。」


エレナは苦笑する。


「セシリアらしい見方ね。」


オズワルドは目を閉じ、小さく笑った。


「それもまた、間違ってはおらん。」


「あれほどの力を持ちながら、一切それを誇示せぬ。」


「だからこそ、余計に底が知れぬのじゃ。」



四人は街の人々に教えられた酒場の前で足を止めた。


木製の看板。


中からは賑やかな笑い声が漏れてくる。


エレナが扉に手を掛けた。


「ここね。」


ゆっくりと扉を開く。


途端に、活気が四人を包み込んだ。


冒険者たちの笑い声。


ジョッキをぶつける音。


厨房から漂う香ばしい匂い。


昼食を楽しむ客で、店内はほぼ満席だった。


四人は思わず足を止める。


オズワルドが目を細める。


「ほぅ……。」


「いい店じゃわい。」


グラムは豪快に笑った。


「当たりだな、こりゃ。」


「腹減ってたんだ!」


セシリアも店内を見回しながら微笑む。


「皆さん、とても楽しそうですね。」


エレナは自然と口元を緩めた。


「街の人がおすすめする理由が分かるわ。」


四人はそのまま店内へ足を踏み入れた。


いつもの席。


ガレスとヒロは昼間からジョッキを傾けていた。


ガレスが不意に鼻をひくつかせる。


「……。」


ゆっくりと酒場の入り口へ視線を向けた。


その様子を見たヒロは苦笑する。


「相変わらず鋭いね。」


ガレスは振り返る。


「誰だ?」


ヒロはジョッキを口元へ運びながら、何気なく答えた。


「勇者一行だよ。」


ガタンッ!


ガレスは勢いよく立ち上がる。


「何!」


「勇者だと!?」


そのまま一直線に入口へ歩き出した。


店内の視線が一斉に集まる。


勇者一行も突然近付いてくる大男に足を止めた。


ガレスは四人の前で仁王立ちになり、拳を握り締める。


「俺は!」


胸をどんと叩く。


「最強の冒険者、ガレスだ!!」


酒場が静まり返る。


「勝負しろ!!」


ガレスが堂々と指差した相手は――


熊のような体格で、大剣を担いだ戦士グラムだった。


数秒の沈黙。


そして。


「ぶはっ!」


「あっはっはっは!」


「違う違う!」


酒場中が大爆笑に包まれた。


ギルドマスターが腹を抱えて笑う。


「そいつじゃねぇよ!」


冒険者たちも机を叩いて笑っている。


「ガタイで判断すんな!」


「勇者は隣だ!」


「黒髪で槍持ってる姉ちゃんだよ!」


ガレスはきょとんとして、グラムとエレナを見比べる。


「……え?」


グラムは腹を抱えて笑う。


「がはははは!」


「初対面で俺を勇者扱いした奴ぁ初めてだ!」


隣ではエレナも肩を震わせていた。


「ふふっ……。」


「面白い人たちね、この街。」


ガンッ。


「いったぁ!」


ガレスが頭を押さえて振り返る。


そこには腕を組んだ女将が立っていた。


「強い奴が来たら、いちいち絡んでんじゃないよ!」


ガレスは頭をさすりながら苦笑する。


「だってよぉ……。」


「だってじゃない!」


もう一度軽く小突かれ、店内に笑いが広がる。


その間に、セレナは慣れた手つきで空いているテーブルを確認していた。


「こちらへどうぞ。」


勇者一行は顔を見合わせる。


エレナが笑う。


「いいの?」


「もちろんです。」


セレナは椅子を引き、四人を案内する。


その様子を見ていたヒロはジョッキを置き、苦笑しながら片手を挙げた。


「こっち、こっち。」


エレナはその声に気付き、ぱっと表情を明るくする。


「あ!」


嬉しそうに手を振り返す。


「ヒロ!」


その一言に、酒場中の視線が再びヒロへ集まった。


「知り合いか?」


「勇者様が名前呼んだぞ。」


冒険者たちがざわつく中、ヒロはいつもの調子で笑った。


「さっき王宮まで案内しただけだよ。」


エレナたちはそのままヒロの隣の席へ腰を下ろした。


グラムは豪快に笑いながら歩み寄る。


そして迷うことなく、ガレスの真正面へどかっと腰を下ろした。


「気に入った!」


豪快な声が酒場に響く。


「俺を勇者と見間違うとは、見どころがある!」


そう言うと、店員から受け取ったジョッキを高く掲げる。


「乾杯だ!」


ガレスも満面の笑みを浮かべる。


「おう!」


カンッ!


二人のジョッキが勢いよくぶつかった。


ガレスは椅子にふんぞり返る。


「そうだろ!」


店中がまた大笑いに包まれる。


ガレスは親指で自分を指しながら堂々と言い放つ。


「男は剣だ!」


「ガタイだ!」


グラムも机を叩いて頷く。


「そうだ!」


「筋肉は裏切らん!」


「がはははは!」


二人は意気投合したように笑い合う。


ヒロは額に手を当て、大きくため息をついた。


「勘弁してくれ……。」


グラスを持ったままぼやく。


「バカ一人でも大変だったのに。」


「増えたじゃないか。」


一瞬の静寂。


そして。


「あっはっはっは!」


「違いねぇ!」


「確かに二人とも同じだ!」


酒場中が爆笑に包まれる。


ガレスとグラムは顔を見合わせる。


「誰がバカだ!」


「俺たちは賢い!」


ぴったり同じタイミングで叫んだ。


「そこまで一緒か!」


「息ぴったりじゃねぇか!」


さらに笑いが大きくなり、酒場は昼間とは思えないほどの賑わいに包まれていた。


グラムはジョッキを豪快に煽る。


「ところで。」


ガレスへ視線を向けた。


「お前、Aランク冒険者ガレスだよな?」


ガレスは胸を張る。


「お?」


「知ってんのか?」


グラムは豪快に笑った。


「当たり前だろ!」


「男なら!」


拳を握り締め、興奮気味に続ける。


「赤髪の大剣使い!」


「ギルド史上最年少昇格記録を更新し続ける若き英雄!」


「その名を知らん奴なんかいねぇ!」


ガレスは目を輝かせる。


「かっけぇ……!」


ヒロが横から小さく呟く。


「いや、性別は関係ないと思うけど。」


ガレスの耳には入っていない。


グラムの肩を力強く叩く。


「やっぱ分かってるな!」


「男だ!」


「おう!」


「男だ!」


その瞬間。


ゴンッ!


ゴンッ!


二つのジョッキが、ガレスとグラムの頭へ見事に振り下ろされた。


「いってぇ!」


「何すんだ!」


二人が同時に頭を押さえる。


腕を組んで仁王立ちしていたのは女将だった。


「うるさいよ!」


「酒場で大声張り上げるんじゃない!」


店内から笑いが起きる。


「また怒られた!」


「学習しねぇな、あいつら!」


ガレスとグラムは顔を見合わせる。


「理不尽だ!」


「まったくだ!」


また同じことを言い、再び笑いが起きた。


その様子を静かに眺めていたオズワルドが、ふと顔を上げる。


女将を見つめ、目を細める。


「……久しいのう。」


穏やかな笑みを浮かべた。


「マーサ嬢。」


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