二人の夢
ドワーフの里から帰ってきてから。
ヒロの技術は、誰の目にも分かるほど向上していた。
地下での魔力導管整備では、職人たちが逆にヒロへ教えを請うようになる。
「ヒロ。」
「ここはどうしたらいい?」
「この角度なら、魔力抵抗が減ります。」
「なるほど……。」
「ああ、そういう考え方か。」
いつしか、職人たちはヒロを囲み、話を聞くのが当たり前になっていた。
その様子を見ていた親方は、苦笑する。
「……師匠の拳骨がチラつくな。」
ヒロは首を傾げた。
「?」
「なんでもねぇ。」
親方は照れ隠しのように鼻を鳴らした。
◇
◇
◇
その日の仕事を終えると、ヒロは工房へ向かった。
作業台の上には、ガレスの大剣。
十五年間。
ガレスと共に戦い続けてきた相棒だった。
ガレスは腕を組み、静かに見守っている。
ヒロは肩に掛けていた工具箱を下ろした。
ゆっくりと蓋を開く。
一本の工具を手に取る。
その姿を見た瞬間。
ガレスの脳裏に、十五年前の夕焼けがよぎった。
あの日。
森の帰り道で交わした約束。
ヒロは大剣へそっと手を添える。
「今日から。」
静かな声だった。
「今日から、君の装備は、僕がすべて整える。」
工房から音が消えた。
ガレスは何も言わない。
ただ、小さく笑った。
十五年前。
陽だまり村で止まってしまった約束が。
ようやく、動き始めた。
◇
◇
◇
その夜。
工房から木漏れ日の酒場へ続く夜道。
二人は肩を並べて歩いていた。
ガレスは仕上がったばかりの大剣を抜く。
月明かりを受けた刀身が、美しく輝く。
そのまま夜空へ高く掲げる。
「よし!」
「最高ランク冒険者を目指す!」
勢いよく叫んだあと、首を傾げた。
「……で。」
「最高ランクって、なんだ?」
ヒロは思わず吹き出した。
「ふっ。」
「SSSだよ。」
「ちなみに君は、今Aランクね。」
戦争参加の処罰で一度Bランクに降格していたが、しっかりとランクを戻していた。
ガレスは目を丸くする。
「まだ上あんのかよ!」
「あるよ。」
「あと三つ。」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
笑い声が静かな夜道へ溶けていく。
しばらく歩いたあと。
ガレスがぽつりと呟いた。
「……ありがとな。」
ヒロは前を向いたまま、小さく頷く。
「うん。」
また少し歩く。
ガレスは夜空を見上げたまま、小さく笑った。
「嬉しかったんだ。」
「ただ、嬉しかった。」
月明かりを受け、一筋の光が頬を伝う。
ヒロは、その横顔を見なかった。
いや。
見られなかった。
二人は何も言わず、静かな夜道を歩き続けた。
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