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02.魔法師の条件

 さて。魔法学校を卒業し、魔法師になるためには三つの条件がある。


 ひとつ、五年間で卒業に必要な単位をすべて取得すること。これは問題なし。


 ふたつ、五年の秋にある卒業審査に通ること。五年間、正確に四年半の間に学んだ成果を教授たちの前で披露する。


 屋外練習場で行われた審査会の場で、みんなが競うようにド派手な魔法を繰り出していく。その度に拍手と歓声が巻き起こり、審査官たちが舌を巻く。


 そんな一世一代の舞台に、私はとびきり小さな魔法で挑んだ。


「何、今の?」


「何も起こってないでしょ」


 学生からは冷笑が聞こえた。だけど、怯んだら負けだと思った。


 小さな魔法しか使えないのなら、それをとことん極めればいい……きっと認めてもらえるはずだと、そう思っていた。


 審査官は私が手渡したものを見て訝しげに眉を寄せ、そして笑った……残念ながら、嘲笑だった。


「これをわざわざ魔法でやる意味は? まあ、これが君の精一杯なのか、なるほど」


 ともに提出した論文との合わせ技で、なんとか審査に通ることができた。


 ……まあ、ふたつめまでは努力と度胸でなんとかなった。問題はみっつめだった。

 

 みっつ、卒後に師事する一等魔法師を見つけること。魔法学校卒業後の数年間は修行期間と呼ばれ、市中の一等魔法師に弟子入りし、働きながら学びを深める。これは現在の学校制度ができる前の古い伝統を踏襲したものだ。


 そのために私は約十ヶ月前……五年生の春から、卒業審査の準備と並行して何人もの一等魔法師と面談を重ねてきた。けれど、誰ひとりとして私を受け入れるとは言ってくれなかった。


 師匠は弟子の衣食住の面倒も見て、国に決められた額の給金だって出さなくてはいけない。そして、弟子の評価は自分の評価にもなる。それなら優秀で育てがいのある学生が欲しいに決まっている。


「計算や魔法陣の作図は得意で、手も早いです。先生は大規模な魔法を得意とされていますよね、きっと助手としてお役に立てると……」


「いやあ、でも魔力ないんでしょ? それじゃちょっと」


 次は品を変えて、得意な魔法についてアピールもしてみたけど、無駄だった。周りは次々と師匠を決めていく中、私だけ師匠が決まらなかった。


 そうしてあっという間に冬が来てしまい、年末を迎え、年が明け。焦った私にとうとう最後通告がされた。


「期限は二月末。それまでに師事先が見つからなければ、君は当校を退学しなければならない」


「事情が事情だけに、留年は認められないとの決定が降りた。もちろん、『処置』も受けてもらう」


 魔法学校を出られない。つまり魔法師としては不適格で、魔法を学んだだけの半端者ということだ。


 そんな半端者を世に放たないために、魔力回路を封印され一生魔法が使えなくしてしまう。これが、魔法師法にて定められた『封印処置』である。


 小さい頃からの憧れも、努力をしてようやく手に入れた魔法も、全て永遠に失ってしまう。


 私は諦めきれず、あちこちに頭を下げた。だけど、絶望を塗り重ねただけだった。今日は二月二十三日。期限である二月の終わりまであと五日しかない。この時期に新たに弟子を探しにくる人はまずいない。


 ……これ以上は、足掻き続けても無駄だな。


 冷たい風が膝の傷にしみる。私は寮に帰るだけの元気も失い、噴水の縁から動けずに自分のつま先と睨めっこしていた。


 暖かい時期なら学生で賑わっているけれど、こんな寒い日にわざわざこんなところに出てくる人はいなかった。けど、それでよかったと思う。今はひとりになりたかった。


 今にも雪が降り出しそうな灰色の空を、まるで魔法使いのホウキのように尾の長い鳥がすうっと横切っていく。


 飛べない私だけど、ホウキで風を切る感覚と、空から見た景色は知っている。


 赤い髪の魔法使いが私に見せてくれたもの。


 十四年前の彼との出会いが、空飛ぶホウキから見た故郷が、私を魔法師の道に連れてきた。


 私はまたあの景色が見たくて、後ろを振り返らずひたすら走ってきた。南部の田舎からここに出てくるにあたってはそれなりに障害があった。だけど運にも恵まれたおかげで、アストリウスの門をくぐるまでは順調そのものだった。魔力の少なさは最初から懸念事項だったけれど、なんとかなることが多いからと入学を許可された。


 残念ながら、なんとかならなくて。私だけ飛べないことに凹んで泣いて苦しんで。考えて。地べたに足をつけたままでも、歩いていけばいいと前を向いて。でも。


「行き止まりだとは思ってなかったなあ」


 とはいえ、魔法使いになるという道は絶たれても、私の人生は続く。処置を受け、ここを退学した後どうするかを考えなくてはならない。


 実家に帰って、仕事を探す。なんの仕事を? 私は何がしたいの?


 いくら考えても、頭の中は白いままだった。十八歳の私にとって、魔法使いを目指した十四年はあまりにも重く、縛り付けられた気持ちが沈んだまま浮かんできてくれない。まるで穴が空いたような胸の痛みが、鼻筋を通って目まで上がってくる。


 もはや空が泣くのが先か、私が泣くのが先か。そんな、空との不毛な根比べが始まってすぐのことだった。

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