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月白の魔法使いを黎明で殺す  作者: 二羽鳥ごまの
第6章 生命と決断
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第49話 好き

「ねえこれ、もうみんな集まってきた?」

 外が騒がしくなってきていることを聞きつけて、シルリネアが笑顔になった。

「あー……うん、多分そう」

 メイランは漠然と返事をする。

 中庭の声は聞こえている。誰がいるのかも、だいたい判別できる。ただ、シルリネアの話が心を捉えて離さない。

 シルリネアが苦笑した。

「私に親兄弟がいてもいなくても、関係ないでしょ。私、あなたがザフィルの兄でも、とりあえず今は関係ないと思ってるのに」

「……どういう意味?」

 メイランは理解が及ばず、聞き返した。

「『とりあえず』だけど、メイランは私と一緒にいてくれるから、それで十分ってこと。あなたと離れたり、敵対する日があるなら……すごくつらいし悲しいけど……今じゃないでしょ。だから『とりあえず』それでいい」

 そう言ってシルリネアはメイランと向かい合い、つま先立ちになって自分の頬をメイランの頬にこすりつけた。彼女が慣れ親しんだ、親愛をこめた挨拶として。

「暗い未来の話は終わり。メイラン、中庭に行きましょ」

 シルリネアは、表情を隠すように踵を返し、外に向かって跳ねるように歩いた。


 ******


 中庭は賑やかで、笑顔にあふれていた。

 笑顔の中心には「親父」こと黄嵐(コウラン)がいて、皆が持ち寄った食事と酒が積まれている。

「あ、きたきた。湖姐と梅哥」

 ショウランが目ざとく見つけて、手を振る。シルリネアも手を振り返した。

 シルリネアとメイランが席に座ると、黄嵐が満面の笑顔でシルリネアに話しかけてきた。

「聞いたよ、照嵐(ショウラン)がさっそく湖姐と呼んだとか。失礼じゃなかったかね」

「いえ、嬉しいです」

「それは良かった。じゃあ湖娘と呼んでも?」

「はい、喜んで」

 周囲から歓声があがる。メイランは慌てた様子で黄嵐に食ってかかった。

「待て待て親父待てって!」

「……どうしたの?」

 シルリネアは隣席のメイランに尋ねようとしたが、彼は黄嵐に抗議するために席を立ってしまった。照嵐が寄ってきて、笑いを噛み殺しながら言う。

「親父は湖姐を娘同然だって言ってて、梅哥と他の奴らはそれ以上の意味を取ろうとしてるんすよ。親父にそんな考えなんて、あるはずねぇのに」

「それ以上の……?」

 シルリネアは少し考え……思い至ってしまった。みるみる顔が赤くなる。照嵐が楽しそうに笑った。

「あっちは放っといて大丈夫。それより俺、湖姐に梅哥のあーんな話やこーんな話をしたいんスけど、聞いてくれません? あと、湖姐の話も聞きたいなぁ」


 ******


 照嵐に誘われるまま、シルリネアは彼らの席に移動した。紅嵐(ホンラン)黒嵐(ヘイラン)が近くにいた。

 彼らは同年代で固まっているようで、黄嵐の周囲とはまた違う気軽さが漂っている。シルリネアとも年が近いように見え、気安く感じてホッとした。

「いらっしゃい、湖姐」

 紅嵐が席を空け、黒嵐が食事と飲み物を並べてくれた。

「湖姐、梅兄のこと教えて。私たちも梅兄のこと教えるから」

 紅嵐が興味津々でシルリネアに詰め寄った。


「梅哥は、派手に見えるところが上手いのが、ほんとズルいんだよなぁ」

 食事をしながら照嵐が言うと、黒嵐もしみじみ頷いた。

「体使うことで梅兄に勝てる人なんて、そういないでしょ。力自慢とか足が速いとか、ひとつふたつなら勝てる人はいるけど……」

 紅嵐が会話に加わる。

「梅兄は、総合力がガチ強すぎるんだよ。自分の得意なところで勝負するのが上手い」

 空になった皿を指先で弄びながら、黒嵐がぼやいた。

「反応速度がやばい。あと咄嗟の判断力の精度がどうかしてる」

「他はちょっと残念だけどねぇ」

 紅嵐があっけらかんと笑い、他の二人も笑う。

 シルリネアは微笑みながら、彼らの話を聞いていた。メイランのことをこんなに知っていて、話してくれる人がいる。それが無性に嬉しい。

 その様子を見たショウランが、笑顔でシルリネアに尋ねた。

「湖姐も、そういうところにグッときた方?」

 シルリネアは少し考えた。確かに彼の身体能力は群を抜いていると思う。だけど……。

「強いのはすごいと思うし、何度も助けられてるけど……」

「あ、そうじゃないんだ?」

 照嵐が意外そうな声をあげた。紅嵐と黒嵐もシルリネアを見つめ、彼女の言葉を待っている。

 好奇心と好意のこもった3人の視線に押されるように、シルリネアは口を開いた。

「彼、ちゃんと見てくれて、認めてくれるでしょ。そこが一番好き……かも」

 恥ずかしくて、声が小さくなってしまう。それでも3人はちゃんと聞いていたようで、照嵐と黒嵐は顔を見合わせてニヤリと笑い、紅嵐に至っては。

「キャー!」

 と嬌声をあげて、自分のことのように身悶えしている。

 黒嵐も、シルリネアに尋ねた。

「じゃあ嫌なところ……は言いにくいか。困るところは?」

 困るところ……。すぐには思いつかないが……どうにかひとつだけ、見つかった。シルリネアは、髪を結っているリボンを示す。

「すぐ私に何か買おうとするところ、とか……。このリボンだって、まだ使えるのに買おうって」

 苦笑するシルリネアに、紅嵐は顔を紅潮させ、照嵐と黒嵐は絶句した。

「キャー! なにそれ湖姐! 梅兄がそんなこと言うの!?」

「梅哥が湖姐に勝つ未来が、見えない……!」

「もうダメだ、ちょっと梅兄に挑んでくる!」

 黒嵐は言うなり、近くに立てかけてあった棒を2本掴んだ。

「梅兄!」

 呼ぶなり、棒を1本、メイランに投げつけた。メイランは振り返りざまに棒を掴む。

「湖姐がのろけてヤバいから勝負!」

「なんだそりゃ」

 経緯がわからないながら、メイランは棒を構えた。その瞬間、閃く。

「あ、黒嵐! お前、術使ってくれよ!」

「やだよ。梅兄、効かないでしょ」

「有利やるから」

 メイランは棒で地面に円を描いた。彼が両腕を広げられる程度の広さだ。

「ここから俺の足が出たら負け。どうだ?」

「空中も判定するからね」

「たまに術を使ってくれるなら、それでいいよ」


「お、梅嵐と黒嵐がやるのか!」

 コウランが酒を飲みながら、楽しそうに笑った。


 ******


 黒嵐は最初に術を使った。

 内懐から符を一枚取り出し、短く呪を唱える。符は細かく千切れ、それぞれが光る玉となってメイランを目指して飛んだ。

 メイランは何もしない。襲い来る玉を慎重に見定めていると……メイランの体に届くより前に消えた。

 やはりそうだ。体に届く少し前に、符術は無効化される。

 符術――魔法の効果が消えた位置を地面に描いた円と見比べると、ほぼ一致していた。

 腕を伸ばしても、効果範囲は変化しない。手足が伸びるあたりまで効く。そう理解して良さそうだ。

 そう考えているうちに術が終わり、黒嵐が突っ込んできた。

 鋭く踏み込み、棒を片手で突き出してくる。メイランは易々と避け、突きが伸び切った瞬間に棒を素手で掴んだ。そのまま自分の棒を絡め、黒嵐を投げ飛ばす。

 わっと歓声があがった。

 黒嵐は上手く受け身を取り、素早く起き上がって一旦距離を置く。

「もっかい術使ってよ」

 メイランが笑顔で言うと、黒嵐は悔しそうに顔を歪めた。

「梅兄どうなってんだよそれ」

 言いながら黒嵐はもう一度符を出し、呪を唱える。今度は符が燃え上がり、炎が馬の姿を模した。メイランに襲いかかる。

 炎の馬に棒を突き出すと、棒に沿って馬が消えた。

「お」

 腕の届く範囲を超えた場所も、効果範囲になった。

 考える間もなく、炎の馬を盾に黒嵐が攻撃を仕掛けてきた。メイランも応戦し、木のぶつかり合う硬質な音が幾度となく響く。

 武器が効果範囲に含まれるのは、なぜだろう。黒嵐の攻撃をいなしながら考えてみたが、よくわからない。

 ともあれ、効果範囲はだいたい理解した。黒嵐の技量も理解した。そろそろ終わらせる頃合いだ。

 メイランは先程と同様に、しかしより力を込めて、黒嵐の棒を絡め取って跳ね上げた。

 たまらず棒を手放した黒嵐に、メイランは自分の棒を突きつける。

「勝負あり!」

 黄嵐が大声で宣言すると、戦っていたふたりは姿勢を正し、向かい合って一礼した。

「くっそ、やっぱり梅兄は強いなぁ」

 黒嵐が悔しそうに言うと、メイランは笑う。

「術が効く奴相手なら、あれだいぶ強いんじゃねぇの?」

「俺は梅兄に勝ちたかったの。ホントに円の外に出ないんだもんなぁ……」

 地面に描かれた円の内外に、黒嵐の足跡が無数についている。だがメイランの足跡は、円の外にひとつもついていなかった。

「いつでも相手してやるから」

 メイランはそう言ってから、シルリネアに満面の笑顔を向けた。

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