彼女の愛
私は幸せ。
だって、愛する人に出会えた。
愛する人と結婚できた。
子供だって産めた。
2回の出産で3人産んだの、すごくない?
誰かが私のことを不幸だって言うのなら。
「わかってないなぁ」って笑いたい。
26年しか生きられないと、不幸なの?
違う。
26年で、できることを全部やった。
全力でやりきった。
人にも恵まれて、みんな私を支えてくれた。
だから私は、幸せ。
メイランと、世界中のあちこちを巡った。
最初は足で。後には竜で。
どっちも最高だった。メイランが隣にいるから。
婚礼の日、私はメイランに「天地の果てでも」ついていくって言った。
あれ、結構本気で言ったんだけど、信じてくれてるかな。
ただの決まり文句で言ったんじゃないんだけど。
あんなに強いメイランを、投げ飛ばす技だって覚えた。
影嵐さんの教え方は、とても上手かった。
残念だけど、メイランよりも。ずっとね。
技を覚えた頃には、体が本格的に弱りはじめていた。でもあの技は、そして影嵐さんは、そんなことを問題にしなかった。
ついにメイランを投げられた時、私は思いっきりはしゃいだし、メイランは悔しがりながら笑ってたね。
投げられたって報告したら、影嵐さんは、寝た状態からでも投げられるって言って、実演までしてくれて。
見た時、本当にびっくりした。
最低限の力さえあれば、どんな体勢からでもいけるんだって。
私はさすがに、そこまではできなかったけど。
でもきっと、影嵐さんは私の子供たちの誰かに、教えてくれると思う。
その子が、寝た姿勢から投げられるようになるんじゃないかな。
ねえザフィル、あなたにもお礼を言わなくちゃ。
ずっと、支えてくれたものね。
私が動けるように、全身を魔法で補ってくれた。
あんなに長い間動けたのは、あなたのおかげ。
動けなくなってからも、苦痛を和らげる方法を考えてくれた。
試してくれた方法、100種類は軽く超えたでしょ。
ありがとう。
あとね、あなたは本を残すべきだと思う。どうかな。
ヴェンツェルさんのために書いてる本とは別に、ザフィルの名前で。
もっと自由に。
だって、本当にすごいから。あなたの魔法の技術と知識は。
もちろん魔法と関係のない本でもいいけど、興味ないよね、きっと。
でも気が向いたら、そういうのを書いたっていいし。
書いた本が世に出るのが嫌なら、村に置いておけばいい。
ここにあれば、みんな読むんじゃないかな。私の子供たちは読むだろうし、メイランだって、かわいい弟の本なんだから、一度は挑戦しそう。
メイランでも読めるような本を書くのも、いいかもね。
あなたは村のみんなの仇だけど、メイランの愛する弟で、私の恩人。
こうやって並べると、すごく複雑。いっそ面白いぐらい。
私はあなたに愛を抱かないけれど。
大切な人にはなった。
ねえザフィル、あなたも幸せになって。
恋をしろなんてつまらないことを言う気はない。でもあなただって、幸せになっていい。
自分は幸せになるべきじゃないなんて、思ってない?
私の愛する子供たち。
あなたたちの成長を見られないのは残念だけど。
でも、心配はしてない。
メイランがいる。青嵐の人たちもいる。ザフィルだっているし、ヴェンツェルさんもたまに来る。
世界中を見渡しても、そういないような人たちばかりなのに。
あなたたちは、彼らを振り回してる。
すごすぎて笑っちゃう。
ねえ、あなたたちの思い通りにならないことなんて、あるのかな。
私の記憶には、ないんだけど。
これだけ愛されてるんだから、あなたたちはみんな幸せになる。
これは決定。絶対に揺らがない。
安心して、自信を持って人生を歩んでほしい。
ねえメイラン。
あなたに言いたいこと、あまりないかも。
すねないで。愛しのメイラン。そうじゃない。
毎日毎日、あなたには愛と幸せをもらっていて。今だって、幸せで。
「愛してる」と「幸せ」は、もう聞き飽きちゃったんじゃない?
でも、それ以上に表現する言葉を、私は知らないの。
だから、もう一度言わせて。
私はメイランを愛してる。
私は世界一幸せ。
不満なんて、どこにもない。
出会ってくれて、ありがとう。
愛してくれて、ありがとう。
幸せをくれて、ありがとう。
全部全部、伝えたい。
伝わってるかな。
ああ、声が出ない。
耳は聞こえるんだけど、目もよく見えないし。
体はとっくに動かない。
でも痛みはないの。だから安心して。
苦しくもない。だから泣かないで。
お願い、笑って。私も笑うから。
泣き顔よりも、笑顔を見せて。
ねえ。
メイラン。
ねえ。
私の子供たち。
ねえ。
みんな。
愛してる。




