とある長話
俺はもともと、英雄の器なんかじゃない。
体を使うことは得意だけど、ほんとにそれだけだし。
今だって世界平和なんかより、子供たちの笑顔がありゃあ十分だし。
あいつらに何を食わせるか考えたり、何を教えればいいのか相談したり。
あとは、子供らの話を聞いたりとか。
悪い竜を倒してお姫様を救うより、そっちのがずっと大事なんだよ。
それに難しい話は、俺の考えることじゃない。
世界平和みたいなでかい話題はヴェンツェルが得意だし、組織の切り回しなら華姐、交渉事なら照弟、学問なら黒弟。
ザフィルだっている。
ほら、俺が考える必要なんてないだろ。
ザフィルと言えばさ、あいつ、結構子供に構ってくれるのな。
楽しそうだし、子供らも懐いてる。いいよな、ああいうの。
ザフィルが俺ら大人の中で一番若く見えるから、子供らも気楽なのかも。
あいつの見た目、今は普通に進んでる。
15、6歳の見た目からいきなり成長するってことはなくて、1年ずつ順調に歳を重ねてる感じ。
だから俺とあいつの見た目は、今も10歳差ぐらいある。ほんとは3つぐらいしか違わねぇのに。
うちの次男坊のことも、考えてくれるんだよ。
ヴェンツェルが次男坊を養子にほしいって言っててさ。
俺は、本人の好きにすりゃあいいと思ってる。あいつの人生だしな。
次男坊は、王様になれるならそれもいいかもなんて、バカなこと言ってる。王様の仕事、知らねぇくせに。
そんでさ、ヴェンツェルんとこに、留学の建前でしばらく行けばいいって、ザフィルが言ってくれたんだ。
いい考えだと思う。魔法は好きみてぇだし、ザフィル以外から学ぶのも、悪くないよな。
ついでに、あっちに住めるかどうか、自分の目で判断してくりゃいい。
まぁ、ザフィル以上の魔法の先生なんて、いやしねぇんだけど。
ヴェンツェルんとこの魔法の教材の元ネタ、全部あいつの本だって言うし。
今までの魔法理論と教本を全部過去のものにしたって、ヴェンツェルは言ってたな。
次男坊はそれでいいとして、長男長女はどうするんだろうな。
あいつら、のんびりしてるんだ。
双子だからか、ふたりいれば何とかなるだろって魂胆が見え見えでさ。
でも、好きなだけのんびりすりゃあいいとも思うんだよ。急ぐよりは、ずっといい。
シルリネアは、生き急ぎすぎたもんな。
26年で駆け抜けるとか、どうかしてるんだよ、あいつ。
俺、彼女に出会った時25歳ぐらいだったんだ。それと比べるとさ。
すげぇよ、ほんとに。
ザフィルが言うには、シルリネアはまだ俺の中にいるらしい。
アザルファとやりあって、俺らが身動きできなくなった時に、シルリネアが助けてくれて。
その時に、自分の命の源? を彼女は切り離して、俺とザフィルそれぞれに渡してくれたらしい。
命の源は俺らの中で生きていて、俺らが生きている限り一緒にいて、守ってくれるんだってさ。
それがなけりゃあ、彼女は今もまだ生きて、笑ってたのかもしれねぇけど。
でも、シルリネアが決めたことだから。
俺は、彼女の決めたことを守るって決めたから。
だから、これでいいんだ。
シルリネアの一部が俺の中にいることが嬉しいし、彼女の面影を少しずつ持ってる子供らを見るのも、すごくいい。
シルリネアは、俺に魔法を通した唯一の魔法使いなんだよな。
ザフィルは彼女のやり方を真似て、少しだけいけるみたいだけど、俺に影響を与えるのは無理っぽい。子供らも無理。
お前らの母親はできたぞって煽ると、悔しがったり、シルリネアを尊敬したりしてるよ。
最強の魔法使いって、ザフィルじゃなくてシルリネアなのかもな。
シルリネアに見た目が一番似てるのは、長男。
俺に似てるのは、長女。
半々なのが、次男。
性格は次男が一番似てるかな。感情がモロ顔に出んの。面白いよな。
長男長女の性格は俺に似てるかも。決めるまでうだうだ悩み倒すところとか。
ところで、うちの横に木が4本植わってんだけど。
あれ、俺が植えたんだ。最初は全部若木だったんだけど、今はだいぶ木っぽくなってるだろ。
シルリネアの家を広げた時に、1本植えて。
あとは子供が産まれるたびに、1本ずつ。
最初の木は、シルリネアが成長を楽しめるように、10年ぐらいで木の姿になるやつを選んだんだ。
子供たちの木は、20年ぐらいで一人前の木になる予定。
シルリネアは、その木のあたりに眠ってる。
子供たちの成長を見たいって言うから、そこにしたんだ。
きっと俺のヘマを見て、笑ったり怒ったりしてると思うんだよ。
だってそうだろ?
彼女の名前は、村の名前になった。
つまりシルリネアは村そのもので、この土地そのものなんだ。
ここで起きたことを、全部知ってるよ。
ああ、そろそろ子供らを寝ろってせっつかねぇと。
どうせ火炕の上で遊んでんだろうな。他の子らと一緒にさ。
ザフィルがいるから、適当にやってくれてるかもしれねぇけど。
そうだ。ザフィルの机、見たことあったっけ。
火炕の近くに置いてあるんだけど。
机の端に、昔あいつがシルリネアからもらった薬草の束と、俺が昔作ったらしい小さな木像が、大切に飾ってあんの。
魔法で厳重に守ってて、子供らにも絶対触らせないんだ。
薬草は、シルリネアの好きだった薬草茶の材料で、もう香りなんてまったくしない。
木像だって、俺はさっぱり覚えてねぇんだよ。作りかけで、よくわかんねぇ形してる。
それなのに、ずっと持ってるんだ。
かわいいよな。
今度は時間作って、会ってやってよ。あいつもきっと、喜ぶからさ。
今日は来てくれてありがとう。会えて嬉しかった。
またこっちからも行くよ。
子供らだけ、転移門で行かせても全然いいんだけど。
あいつら、竜に乗るのが好きすぎるんだよな。
だからまた、揃って竜で行くと思う。
そういえば言ったっけ、竜に名前つけたの。
スキニフル。
こっちの古い言葉で、雲とか冷気とか霧とか、そんな意味らしい。
シルリネアが、あいつを雲みたいだって言ってたからさ。子供らと一緒に名前をいくつか考えて、あいつに決めてもらったんだ。
言葉が通じると、こういう時に便利だよな。
ん、ああこれ?
シルリネアが首から下げてた巾着袋。昔、彼女が月妹から貰ったらしくてさ。
シルリネアを真似て、俺も首から下げてんの。
中にはシルリネアが使ってたリボンを入れてるんだけど。見る?
旅の途中で、俺が彼女に贈ったんだ。だいぶ最初の頃の話だけど。
最初は彼女の瞳と同じ、薄荷色だったんだ。髪の色に似た黄色の縁取りで。
ずっと旅をしてきたリボンだから、もうボロボロなんだよ。
でもこれは、彼女が最後まで手放さなかったものだから。
俺も最後まで手放さないつもり。
あの頃、安洛城でも髪紐を3本買っててさ。
こっちは子供らが自立した時に、早いもの勝ちで渡す予定。
安洛城といえば、親父と母御に言っといて。俺は元気にやってるって。
あと、孫に抱きつきすぎると嫌われるぞって。特に親父に。
娘がたまに、嫌な顔してんだよ。気付いてるだろ?
ああ、いいねそれ。
稽古つけてくれるんなら、最高。
ついでに俺ともやってよ。だめ?
ごめんごめん。引き止めすぎたかも。
嬉しくてさ。つい長話しちまうんだよ。
じゃあまた。影兄。




