↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月白の魔法使いを黎明で殺す  作者: 二羽鳥ごまの
第16章 終章・その後
112/123

第112話 未来の約束

 夕刻。

 シルリネアは村に戻った。

 メイランとザフィル、ヴェンツェル、影嵐(エイラン)も一緒だ。

 山脈を貫く洞窟も、一緒に通った。


「よし、到着」

 メイランは笑い、背負ってきたシルリネアをそっと降ろした。

 目の前には、シルリネアの家がある。

「ありがとう」

 シルリネアが微笑んだ。

 歩くことはできる。しかし衰えた体では、どうしても時間がかかる。だから今回は、メイランに甘えることにした。

 負担をかけたくない気持ちはあるが、愛しい人(メイラン)の背で揺られるのも、悪くなかった。

「今日はもう寝なよ。体を休ませないとな」

「そうする」

 シルリネアは素直に頷き、メイランに付き添われて家の中へ。


「まぁた野宿か……さすがに眠ぃ」

「同感です」

 影嵐とヴェンツェルが座り込む中、ザフィルだけが平然としている。摩耗しきった痛覚のせいで、手足を強引に繋いだ痛みさえ感じない。

「ザフィル、あなたは眠くないんですか?」

 ヴェンツェルの問いかけに、ザフィルは淡々と答える。

「眠いという感覚がわからない」

「……は?」

 驚くふたりに、言葉を足した。

「たまに気を失うけどね。シルリネアが言うには、眠りが足りなくて体が限界になって、気絶してるんじゃないかって」

「またかよ。勘弁してくれ大魔法使い様」

 影嵐がぼやく。ヴェンツェルも同感だった。

「あなたは欠落しすぎなんですよ、ザフィル」

「そうみたいだね」

 欠落していると言われても、ザフィルはさほどの自覚もなく、困ってさえいない。

 だから、改善の意欲もない。

 ザフィルは開けた空間を選び、魔法をかけた。相変わらず、一切の動作を要さない。

 地面から、半楕円形の淡い光が立ち上がった。まるで門のように。

 ザフィルはそれをもうひとつ作ってから、ヴェンツェルと影嵐の方を向いて口を開く。

「どうぞ」

「……何ですか、それ」

 ヴェンツェルが問いかけると、ザフィルは首を傾げた。

「転移門。リュミエールと安洛城に繋いだ。野宿は嫌なんでしょう?」

 身をかがめて小石をふたつ拾い、魔法をかける。

「そっちからここに来たい時は、これ。ここに繋がる転移門を入れた。握って『シルリネア』か『メイラン』って言えば、転移門が開く」

 ザフィルは、小石をふたりに手渡した。

「……いやいや、ちょっと待ってください。転移門って……」

 ヴェンツェルは頭を抱え、混乱を何とか整理しようとする。

「問題ある?」

「ありません。ありませんが……普通は、何人もの高位の魔法使いが、何日もかけて作るものですよ」

「そいつらが無能だ」

 ザフィルにばっさりと切り捨てられ、ヴェンツェルは諦めたようにため息をついた。

「何を言っても無駄じゃねぇのか」

 ふたりのやり取りを見ていた影嵐が立ち上がる。

「こいつの魔法と他の連中の魔法じゃあ、何もかも違いすぎるんだろ。この調子じゃあ、本を書かせても理解できる奴がいねぇかもな」

 ヴェンツェルは苦笑した。

「それでも残す意味はあります。私が理解できなくても、後世の誰かが読み解きますよ。私は、人間全体に期待しているんです」

「そうかい。俺ぁ一旦帰るわ。明日、また来る。ザフィルに相談してぇこともあるからな」

 影嵐はそう言って、ふらりと転移門の向こう側に消えた。

「潔いですねぇ、彼は」

 ヴェンツェルも立ち上がった。

「私もベッドで寝ます。明日は伺わないと思いますが、何かあればまた」

 ヴェンツェルもまた、転移門で姿を消した。


 ******


 メイランはシルリネアを寝台に寝かせ、炉に火をおこした。

 鍋に水を入れて火にかけ、シルリネアに笑顔を向ける。

「他にして欲しいこと、ある?」

「ここにいて」

「もちろん」

 メイランは笑い、シルリネアの頬に自分の頬をこすり合わせ、離す時、接吻を頬にひとつ残した。

 シルリネアが嬉しそうに微笑む。

「メイランの寝台も、作らなきゃ。でも、置くところがないかな」

「家を広げる? そうでなけりゃ、隣にもう1軒建てて繋げるとか」

 幸せな未来の話に、シルリネアがクスクスと笑った。

「大工仕事、できるの?」

「簡単なのなら」

「じゃあ、両方。ここをメイランと住めるようにして、近くにメイランとザフィルの家」

 メイランが笑う。

「俺、家がふたつもあるの?」

「ううん、3つ。安洛城にもあるでしょ、私たちの家」

「贅沢だなぁ。親父にも伝えねぇと」

「そうね。体がもうちょっと動くようになったら、また行きたい」

「よし、それもやろう。他には?」

「明日、村を一通り見てみたい。どうなっているのか、わからないから」

「いいね」

「とりあえず、これぐらいかな」

「よし。また明日、教えてくれよ。今日はさ、お湯でも飲んで、寝ちまいな」

「うん」

 メイランが差し出したお湯は、そのまま飲むには熱かった。

 適温には少し足りない。その不完全さがメイランらしくて、シルリネアは微笑んだ。

 カップの飲み口をふぅふぅ吹いて、冷ましながらゆっくり飲むと、すぐに眠気がやってきた。

「おやすみ」

 メイランの優しい声と、頬に当たる唇の感触が心地いい。

 シルリネアは、満ち足りた気持ちで眠りについた。


 ******


 シルリネアがすっかり寝入った後、メイランはザフィルのもとに向かう。

 彼は以前と同じように、外で星空を眺めていた。

「影兄とヴェンツェルは?」

 メイランはザフィルに声をかけ、やはり前回と同様に毛布を手渡す。

「帰った。野宿は嫌みたいだったから、転移門で送った」

 ザフィルの視線の先を追うと、見慣れない魔法が展開されていた。あれが転移門というやつだろうか。

「影嵐は、明日また来るって」

「へぇ」

 何の用があるんだろう。よくわからないが、影嵐に会えるのは、単純に嬉しい。

 しかし——ふと引っかかりを覚え、メイランは首をひねった。

「ん、あれ? 影兄とヴェンツェル、こことあっちを今日明日で行き来できんの?」

 北大陸と中央大陸は、交流がほとんどない。船便さえろくにないはずなのに。

 転移門で帰ることはできても、来られるものなのか?

 ザフィルはこともなげに頷く。

「できるよ。転移門を開く道具を渡したから。門に入る大きさなら、どんなものでも、何人でも。門が小さいなら、大きくすればいい」

「マジか。すげぇ」

「メイランは使えないけど、あっちを呼べばいいだけだから。メイランの移動手段は、別で考える」

「マジで助かるなぁ」

 シルリネアが言っていた安洛城行きの希望も、これで叶えられそうだ。

「何かあった?」

 ザフィルの問いかけにメイランは微笑み、シルリネアと話したことを聞かせた。


「……家? 僕の?」

 ザフィルが呆然と呟いた。

「そう。シルリネアはさ、お前が近くにいてもいいって、思ってるんじゃないかな」

 嬉しそうなメイランの声に、ザフィルは考える。

 確かにここは、住むにはうってつけだ。通常は同じ場所にしばらく留まると魔素(マナ)が歪むのに、ここではまったく歪む気配を見せない。

 創生神(ナスラル)に近い地であることが、影響しているように思える。自分(ザフィル)の莫大な魔力が悪影響を及ぼさない場所は、知る限りではここしかない。

「そんでさ、聞きたいんだけど」

 不意にメイランが口を開いた。不安そうな顔をしている。

「シルリネア、あとどれぐらい……」

 声が震えていた。体も少し震えている。

 なるほど、やせ我慢していたのか。ザフィルは納得する。

 物分かりが良すぎると思っていた。シルリネアの前では、不安を見せないと決めたのだろう。

 ザフィルは嘆息する。

「10年ぐらいかな。8年から12年の間。まともに動けるのは、その半分ぐらい」

 今は魔法で補助できても、いずれは——。

 メイランは悲しげに、深々とため息をついた。

「短ぇなあ」

「そうだね」

 ザフィルはかける言葉もなく、夜空を見上げる。星の輝きは、夜を照らすには十分だが、昼を照らすには足りない。

 まるでシルリネアだ。(ザフィル)は救われたが、(メイラン)は救いきれない。

 そして、彼女が一番救いたかったのは、ザフィル(ぼく)ではなく——。

 メイランが抱きついてきた。体格差もあり、抱きすくめられる形になる。

「少しだけ」

 震えるメイランの声が降ってきた。

 少しだけ——どうすればいいのだろう。

 ザフィルはわからないまま、両腕をメイランの背に回して軽く叩いてみた——見よう見まねで。

 メイランは軽く笑い、彼の体が揺れた。良かった。間違ってはいなかったらしい。


 兄の肩越しに見える星は、いつも通り美しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。