VS岩蛇
背嚢を下ろしゆっくりと岩場に近づいていく。
一応左手に棒切れを持ってはいるものの、まあ使うことはないだろう。
硬い体の岩蛇相手にこれを振るったところで効果がないことは理解している。
ただ何も武器を持ってないよりは安心出来るというだけだ。
「魔物のドロップ品とはいえ何日前に拾った棒をずっと持ち続ける青年男性ってやばくないか…? っと、今はそんなこと考えてる場合じゃない。」
一瞬思考が止まりそうになるが意識を切り替える。ゴブリン相手に怪我をしたばかりなのだ。集中せねば。
そのまま進んで岩場までもう10mもないところまで来たところで一度停止して様子を見る。
…今のところ何かが動くような様子はないようだ。このまましばらく待機。
今のうちに火炎放射器(のイメージで使う)魔法を準備しておく。
この魔法、強いとは思うんだけど射程が短いのが辛い。せいぜい2、3mくらいしか火が届かないし、常に出し続けないといけないから凄いしんどいのだ。燃費が悪い、とでも言おうか。
(ファイアーボールみたいなのが使えたらいいんだろうけど使えないんだよなー。初日は使えたんだけど。)
この世界に転生して来てすぐに魔法を使った時のことを思い出す。
あの時は実験のつもりだったから小さな火だったが間違いなく火の玉のようなものを飛ばすことができていた。
(あの時できたことが今はできないってことはやっぱり能力のおかげだったんだろうな。【魔法強化】が発動してたんだ。)
俺の月曜日の能力の【魔法強化】は魔法ランクを上げる効果がある。そのおかげで通常なら魔法ランク4の俺が月曜日限定で魔法ランク5になれるのだ。そして火を球体にして飛ばすには魔法ランク5以上である必要があるってことだと思う。
(俺は【魔法強化】はアクティブタイプの能力だと思って使ってたけど実際はパッシブ…いや、違うな。水魔法を使った時に【魔法強化】を意識したら威力が上がった。てことは使おうと思った時は自分の意思で発動、やろうとしてることに魔法ランクが足りない場合はオートで発動ってことか? うん、よく分からん。まあ【魔法強化】はセミオートタイプって思っといたらいいか。)
ブンブン!! ぴょーん、ぴょーん。
視界の端で何かが動いているのに気づいたのでそちらに目をやるとイオルが手をブンブン振りながらその場でジャンプしている。マズイ、俺が無駄に考え込んでいる間にイオルは配置についていたみたいだ。あの様子を見るにだいぶ前から合図を送ってくれていたっぽい。
軽く手を上げて謝るような合図を送る。それを確認したイオルは飛び上がるのをやめて腕を組んで見せる。遠いから表情は見えないがむうと頬を膨らませているのかもしれない。
想像すると可愛らしいがこれ以上待たせるわけにもいかないので行動に出る。一度正面の岩場を指差してから片手を上げるとイオルも了解したように手を上げて答え、ボウガンを構える。
それを確認したら岩場に向かって再度進む。もちろん、なるべく音は立てないように。
岩場まで約9m… 特に何か動く様子はない。
岩場まで約7m… まだ岩蛇は見えない。どこにいるんだ?
岩場まで約5m… まだ遠い。この距離では俺の火魔法じゃ大したダメージは望めない。
岩場まで約4m… 岩蛇の姿は見えないが岩と岩の間に少し大きな隙間がある。あの中にいる可能性もあるな。
岩場まで約3m… よし、ここからならいける。…いや確実に当てられるようにもう一歩前に
シュルッ
「ッツ! 火炎!!」
シュルシュル
欲張ろうとしたところで岩が動いた。咄嗟に準備していた火魔法を発動させ、岩に当てるとグネグネと動き、俺から離れようとする。
どうやら俺が岩だと思っていたのは塒を巻いたでかい蛇だったようだ。全然気が付かなかった。岩の一部に擬態していたらしい。
「逃がすか!」
逃げる岩蛇を追うように火魔法を当て続ける。どうやらあまり早く動けはしないようだ。逃げている、ということはちゃんと効いているのだろう。これなら楽勝か?
などという分かりやすいフラグを立てたのがいけなかったのだろう。
「シャァァァ!」
「うおっ⁉︎ 危なっ!」
自分の速度では逃げきれないと思ったのか、岩蛇は逃げるのをやめ、急速旋回すると俺に向かって飛びかかって来た。
今は咄嗟に横に飛ぶことができたので難を逃れたがガバッと口を開けた蛇が飛びかかって来るのは心臓に悪い。
さらに集中を切らしてしまったため魔法が途切れてしまった。
そしてこの隙を岩蛇が見逃す道理はない。
端的に言えばピンチである。
「くっ!」
棒を利き腕に持ち替えて牽制する様に振り回しつつ後ろに下がる。
持っててよかった木の棒さん! 使わないとか考えて悪かった!
俺が武器を無闇矢鱈に振り回すおかげで岩蛇も攻めあぐねているようだ。後ろに下がる俺をシュルシュルと追いかけて来るもののさっきみたいに飛びかかっては来ない。
下がりながら空いた手では水魔法を準備する。魔法を撃ち出すだけなら利き腕じゃなくても問題ない。
「水弾!」
いまいち技名がしっくり来ない水バケツ(のイメージで使ってる)魔法を撃ち出すと命中の有無も確認せずに岩蛇から離れるように走り、射線を開ける。
「シャ!」
振り返るとしっかり水魔法が命中したらしい岩蛇が大口を開けたところに
ヒュン! ガッ!
狙い撃たれたイオルのボウガンの矢が岩蛇の下顎と地面を縫い留めていた。
「シャァ! シャァァ!!」
暴れて拘束を解こうとする岩蛇だががっつり刺さっているようで簡単には抜けない。
ただまだ暴れているわけで簡単には近づけない。あのサイズの蛇の尻尾で叩かれでもすれば骨が砕けるだろう。
と、俺がどう近づくか考えているうちにボウガンに次弾を装填したイオルが岩蛇の右目を撃ち抜くとしばらく痙攣する様にした後、岩蛇は動かなくなった。
「おー、すげー。」
「えへへ、そうかなー? ってそうじゃなくて! ジンさん何回か危なかったでしょ⁉︎ 見ててヒヤヒヤしたよ!?」
「あーうん。まあ、ちょっとね? いや、近づいても岩蛇がどこにいるか全然分からなくてさ。それで近づきすぎたとこはある。それに最初岩蛇が逃げるとは思ってなかったからつい追いかけちゃったんだよ。」
本来の作戦では俺は岩蛇の注意を引いて岩場から出し、距離をとりつつ魔法でチマチマ攻撃して岩蛇をイオルの狙撃ポイントまで誘導することが目的だった。
「次から今みたいな魔物を狙う時は囮作戦は安全が確保できない時は禁止だからね。…ジンさんが大丈夫って言ったから納得したけど、ほんとはジンさんが囮役みたいなことするのは私あんまり良く思って無いんだからね? 分かってる?」
「分かってるよ。さっきの作戦会議で散々言われたからね。俺だって危険なことをしたいってわけじゃないんだから。次からはもうちょっと上手くできるようにするよ。」
イオルを宥めながら岩蛇の討伐部位である上顎の牙を外す。ゴブリンの物より外しにくかったが何とかなった。これも慣れだろう。
さて、これで目的達成、ではない。本来の目的はツノトカゲの捕獲であり、この岩蛇は捕獲の際に邪魔をされないように先に倒したにすぎない。すでに今のでだいぶ疲れはしたがもうひと踏ん張り頑張らねば。




