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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
96/811

96. スズキノヤマ帝国 パララ(2)

パララはスズキノヤマではもっとも西にある領土である。この重要な位置にあるパララは、世界でもとても有名な観光地でもある。温暖な気候で、きれいなビーチで、きれいな海で、穏やかな波、そして整備されている環境が世界中の観光客に愛されているところでもある。治安が良く、教育や医療などがきれいに整えている。また軍事的にも重要な位置にあるためパララには大きな軍事基地もある。


パララの主な産業は意外と観光ではなく、鉱山と芸術品だった。パララ地方の首都であるパララ街の周辺に重要な金属がとれる鉱山がたくさんあって、街はずれに大規模な産業施設が多く建てられている。パララでは産業用の地域は大体街はずれにある。逆に娯楽施設や観光用施設は街の中や海岸周辺にずらりと並んでいる。また周辺の町々や村では大規模な農業が盛んに行われている。


パララ街の中にはパララ城がある。その城の周辺に各施設が建てられていた。役人や学校、医療施設や警備隊など、市民にとって便利な位置に設置されている。住宅街はほとんど街の中にある。大体一つの大きな公園を囲んでいる家々が建てられていた。集合住宅は、街はずれ辺りにたくさん建てられている。安全の理由で、城の周辺に、城よりも高い建物を建ててはいけないというルールがあるからだ。


港の周辺にたくさんの倉庫や貿易関係の建物が建てられている。当然宿や食事処や娯楽施設もたくさんある。店を構えている商人もたくさんいて、朝から夜遅くまで人々で賑わっている。こんなに人が多いのに、治安が良いことで、市民も旅人も安心して夜でも出歩く人も多い、とエフェルガンに説明された。


城の一角に領主とその家族が住んでいるけれど、基本的に本城は皇帝の物だ。今は、誰も住んでいないが、いつでも皇帝陛下を向かい入れる状態を維持されているそうだ。空から見ると、とてもきれいな建物だ。てっきりその城に泊まるかと思ったけれど、エフェルガン達は違うところを目指している。


街はずれにある丘が見えて、その丘の上に一つのきれいな屋敷がある。その丘の下に、海に通じる小道があり、白い砂浜のビーチがある。その屋敷の周辺にきれいな庭園があって、花々が咲き誇っている。広い敷地内に所々に衛兵が立っている。ケルゼックに先導されてローズたちはその屋敷の庭に着陸した。


エフェルガンはフクロウの上から降りて、ローズの手を取りながらフクロウから降ろした。屋敷の中から一人の男性と複数の衛兵が走ってきた。


「お帰りなさいませ、エフェルガン殿下」

「ああ、ただいま、ガレンドラ。変わりないか?」

「はい。何も問題がございません。こちらの方々は?」


ガレンドラという人はフォレットと同じ格好している。執事の服装だ、とローズが思った。


「僕の妃になる人だ。アルハトロス王国第一姫のローズと、その護衛官のリンカだ。しばらくともに滞在する」

「はい。かしこまりました」


エフェルガンはローズたちをガレンドラという人に紹介してくれた。


「ローズ、リンカ、執事のガレンドラだ。必要な物があれば、なんでも彼に言えば良い」

「はい。よろしくお願いします、ガレンドラさん」

「こちらこそ、ローズ姫。ガレンドラ、とお呼び下さいませ」


ガレンドラが丁寧に挨拶した。


「えーと、できれば普通の言葉で話をして下さい。私は堅苦しい雰囲気が苦手です」


ガレンドラは一瞬驚いたが、エフェルガンに顔を見合わせをした。エフェルガンはうなずいて、笑った。


「そういうことだ、ガレンドラ。ローズの希望通りにしてくれ」

「かしこまりました」


ガレンドラは頭を下げてそして数人の使用人を呼んだ。荷物を屋敷の中に入れるように命じた。


「ここって誰の屋敷? 宿じゃなそうですけど・・。さっきも、お帰りなさいと言われたし・・」


ローズが周囲を見渡しながら、エフェルガンと手を繋いで、本屋敷に向かって歩いている。


「ここは僕の屋敷だよ。個人所有の屋敷だ。ガレンドラはこの屋敷の執事だ」

「ヒスイ城は?」

「それは国の所有物だ。首都に近いから、そこに住まわせてもらった。僕が宮殿に住みたがらなかったから、皇帝陛下はヒスイ城を僕の住処として命じたんだ」

「そうなんだ」


ローズがうなずいた。


「この屋敷はほとんど休暇用だけどね。街から遠くないわりに静かなところだ。海もあって、山もあって、きれいなところが気に入ったんだ」

「そうか。すごいな・・」

「ローズの部屋も用意したんだけど、気に入らないなら、別の部屋にしても良いよ」

「まだ見てもないのに?」


ローズが呆れた様子で言うと、彼が笑った。


「その部屋を作った時は、まだローズのことを詳しく知らなかったからな、今ならもっと落ち着いた色合いにするかもしれない」

「うむ」

「見に行こうか?」


エフェルガンは本屋敷を案内してくれた。とても古い感じの建築物だが、上品な色合いや飾りが付けられている。(おも)に赤みのある木材を使用して、所々金色の飾りがあるけれど、派手ではなかった。とても落ち着いた雰囲気の玄関だけれど、気品が溢れる感じがある。またエフェルガン自身が描いた絵も所々で飾られている。階段を上ると、大きな居間があって、そこに向かい合う左右対象の部屋がある。左側はエフェルガンの部屋で、右側はローズの部屋だ、とエフェルガンが言った。ガレンドラが鍵をあけて、扉を開けた。そこにあるのはとても個性的な作りになった。壁に色鮮やかな貝殻や宝石など埋め込まれていて全体的に淡い水色や青い色に統一されている。カーテンは美しい薔薇の花模様のレースと上品な青色と銀の糸で刺繍されているもので、日の光があたるとキラキラと光っている。とても美しい。


床はきれいな青色の石で作られている。床の上にふわふわな青い色の絨毯や低いテーブルもあって、とても快適そうな雰囲気だ。


テーブルには貝殻や螺鈿が埋め込まれていてその上に透明なガラスでふたされている。またその近くに、大きな窓があって、部屋から海の景色がきれいに見える。窓の左右に開けられる縦に細長い窓がある。やはり安全も考えて、窓から簡単に侵入できないようにしていながら部屋の空調も考えている作りだ。


「すごい・・」


ローズが息を呑んで、部屋全体を見つめている。


「どう・・かな?」


エフェルガンがローズを見つめて、聞いた。


「言葉にならないぐらい、すてきな作りだわ」

「気に入った?」

「うん」

「ああ・・良かった」


エフェルガンがホッとした様子で言った。


「すごいわ・・この壁に貝殻や石も宝石も埋め込まれている・・」

「僕は自分で拾ってきた貝殻やきれいな石をこの部屋の壁に埋め込んだんだ」

「この部屋の壁・・全部?」

「そうだよ。完成するまで一年もかかった」

「すごい・・」

「ズルグンが、ローズが宝石が好きだ、と言ったから所々宝石を入れたけど、あまり派手なものだと部屋全体の雰囲気と合わないから控えめな色にして、良かった。真珠なら合うかなと思って貝殻と真珠を多めにしたんだ」

「うわー・・」


この部屋だけで、一体いくらかかったか、とローズが思った。恐らく、アルハトロスの国の予算よりも多いのではないか、と彼女がそれらの壁を見つめている。


「床の青い石も、海を表すための物だから、街はずれにある石の切り場で探して、なんとか手に入れた」

「すごすぎるよ・・」

「気に入ってくれて、良かった」


エフェルガンが微笑んだ。


「うん・・私なんかに・・もったいないぐらいだ」

「僕はこのぐらいしか愛情を表す方法がなかったからだ。手紙でしか知らなかったローズのことは、ドイパ国の海が好きだと書いたから、いつかこの国に来ると信じて、この部屋を作ったんだ。布には、薔薇の花の模様で刺繍を入れてもらって、色合いを計算しながら落ち着いた雰囲気にしたんだ」

「あなたの美的センスがとても良いわ・・」

「ありがとう。あとで庭園に薔薇の花も植えさせようかな」

「さっきの庭園も見事な作りだよ」

「そうだけど、薔薇の花がなかった。さっき気づいたんだ。やはり入れよう・・」


エフェルガンがそう言いながら笑った。


「主はあなたですから、そこはあなた次第ですね」

「そうだね」


エフェルガンは隣の部屋の扉をあけた。そこは水場だ。トイレと簡単なシャワーがある。これもまた海をイメージした作りで、白い石の床と色鮮やかな貝殻で飾られている。


「うわー」

「この色鮮やかな貝殻は、なかなかなかったから、ケルゼック達の協力を得てなんとか必要な分まで集めたんだ」

「まさか潜らせたんじゃ?」

「まぁ・・ちょっとね」


ローズが尋ねると、エフェルガンが笑いながらうなずいた。


「だからエファインがあんなに上手に色々な貝を海の底から取ることができたのね。なるほど・・」

「まぁ、深く考えなくても良いよ」

「うむ」

「リンカの部屋は護衛官達の部屋の区域にあるけど、ここからだとそんなに離れていないんだ。何かあったら彼らは早く駆けつけてくれるから問題ないと思う」

「うん」

「大浴場もあるから、後で入ろう」

「男女別々?」

「いや、混浴だ」

「珍しいね」


ローズが聞くと、彼が微笑んだ。


「この建物は元々裕福な家庭の屋敷だったから。訳があってこの建物を手放したらしい。売りに出された時、たまたま僕がこの街にいたから、迷わず買ったんだ」

「高かったんだろうな」

「そうではなかった、古い建物だからかなり修復が必要だったため、値段が安かった。僕の趣味に合わせて色々と改造して、なんとかここまできれいになったんだ」


エフェルガンがそう言いながら、周囲を見渡した。


「要するに、この屋敷がエフェルガンの作品でもあるんだね」

「そうだね。僕の自慢の屋敷だね」

「すごいな」

「家具も僕の手作りだよ」

「え?」

「あの机の螺鈿も、一つずつ貼り付けたんだ」

「すごいよ」

「気に入った?」

「これって・・まるで職人が作った物のようだ」


ローズは机に近づいて、見つめている。


「そんなに気に入るなら、ここを発つ時に、ヒスイ城に送らせるか?」

「いやいやいや・・そこまで面倒をかけられないよ」


ローズは首を振った。


「問題ないよ」

「いや。またいつかここに来て、この部屋で、その机の美しさを眺めたいんだ」

「じゃ、今度ヒスイ城に、似たようなものを作ろうか」

「うん」

「やることが増えたな。まだローズの絵も描いてないし、料理もしてないし、二人で過ごす一日の予定もまだだし、あとは狩りもしたいし・・」

「うむ、無理をしないで」

「次々と問題が起きたからね。でも今度こそ、ここでゆっくりと過ごしたい」

「うん」

「じゃ、昼餉にしよう」

「はい」

「これからローズが食べたい魚の揚げものをご馳走してあげよう」

「わーい!」


ローズたちは屋敷の近くにある地域に出かけた。街はずれの集落だけれど、屋台や食事処がたくさんある。職人も多く住む地域だそうで、お店や工場がたくさん並んでいる。ここの地域に詳しいガレーに食事処選びを任せた。


ハティのチェックに合格したところでローズたち十人で食事した。とても美味しかった。パララの魚の揚げものは、外がぱりっと、中はほくほくだった。味付けはシンプルの塩味だったけれど、癖になる味だ。あまりにも美味しかったから、ローズとリンカがたくさん食べた。本当に美味しかった、と彼女が満足した様子で笑った。


食事終えたら少し買い物した。水着やボール、そして服、靴、サンダル、帽子などと色々な物を買ってくれた。エフェルガンも数冊の本を買った。のんびりしながら、本を読みたい、と彼が言った。


本当に、今度こそ、問題なく、休暇がしたい!


ローズも心からそう願っている。という訳で、近くにある聖龍の神殿に行って、お参りした。神様に穏やかな日々を、切に願った。


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