幕間 ちっぱいじゃないよ?アデーレさん その一
サイトウ家のお屋敷にご奉公して早3ヶ月。
私ことアデーレは、日々忙しくも破天荒な旦那様とお嬢様方にも慣れてきました。
元々私は、此処より北の隣国ゼファーレより流れてきたのです。
ゼファーレでは、伯爵家の一メイドではあったけど、それなりの格はあったと思っておりました。
容姿も悪くはないと自負しています。
自分を褒めているようで恥かしいですが、一応女ですから。
少しは自信も無いとやっていけませんもの。
そんな私の容姿がお気に召したのか、以前のご主人様は私にセクハラをかけて来て・・・
最初はメイドですもの、我慢しておりました。
しかし、ある時とうとう我慢出来ずにお断りを入れましたところ、解雇され職を失いました。
身分のある貴族により解雇されたメイドは、その国では働き口を見付けられない事が多御座います。
なにせ、根回しをして雇えなくし、許しを請いに来た所を手篭めにするつもりなのですから。
私は、どうしてもそれが受け入れられず、国を飛び出し、貴族の影響の出ない此処ザルツに参りました。
行く当ても無く、商館にて求人を探していた所ある求人が目に付きました。
それがサイトウ家のメイド募集だったのです。
早速、求人票を取り次ぎ商人に渡したところ、商人は私に言います。
「これね~かなり雇い入れ条件が良くってね、競争激しいよ~。だけど先方のお嬢様がかなり厳しい目をしておられて、なかなか合格する人が居無いって代物だよ?」
商人の忠告を受け、私は興味を引かれました。
普通、大きな屋敷で貴族の場合、メイド長が面接を行うのが通例です。
主がメイドを決めることなど滅多に御座いません。
逆に主やその家族が面接をする場合は、ハウスメイドを求めている事が多いのです。
ハウスメイドは、家事全般一切をこなさなければなりません。
しかもその分、気に入って貰えますと、待遇がとても良くなります。
話の中のお嬢様に主導権があるということは、女性が屋敷の主といって良い筈です。
セクハラに疲れた私には、魅力的な求人でした。
商人より求人案内受付表を貰い、私はお屋敷へと向いました。
首都より離れた木々のある丘の上に、お屋敷はありました。
門にて、魔法の呼び鈴を鳴らします。
侵入者がいると、有無を言わさず何かが発動するのでしょう。
こういった侵入者防止の為のセキュリティーは、貴族の屋敷では良く見知ったものです。
こんな機能がある屋敷の主とは、いったいどの様な方なのか?
求人には貴族らしき記載は無かったと思うのですが。
不思議に思っていると門に備えられた、呼び鈴の上にある鷹の石造から声がします。
「どなたでしょうか?」
「商会より面接に参りました、アデーレと申します。」
「それは、ようこそいらっしゃいました。どうぞ中へお入りください。」
そう言う女性の声は凛としていて、とてもしっかりした印象を与えてくれます。
貴族でないのに、この声の女性はとても見識ある方と拝察し、私は気を引き締めて庭に足を踏み入れました。
中に入ると石畳の道が屋敷に続き、その左右にはガーゴイルの石造が私を睨んでいます。
これは侵入者防止のガーディアンと見受けます。
私の事は、先程の鷹の石造にある目を通して、確認されているのでしょう。
すんなりとガーゴイルの前を通れたことに、私はほっと致します。
お屋敷に辿り着き、出迎えて下さったのは、美しい銀髪と耳、それに私ですら驚き魅了されそうな胸が特徴的なシルビア様でした。
「遠路ご苦労様です。どうぞ此方へ。」
シルビア様に案内されて、私は応接室に入ります。
そこにはもう2名の女性がお待ちされておりました。
美しい金髪のエルフ。
此方もこれまた素晴らしい大きさの胸。
しかも美乳に間違い無しのイシュタル様。
そして、少しご年少ではありますが、行く行くはたいそう美しい女性になると思われるリリィ様。
その御2人がおられたのです。
先程も申しましたように、私も容姿には自信がありました。
しかし、このお屋敷のお嬢様方は、私など到底及びも付かない次元の方々で、しかもリリィさまを除き胸が素晴らし過ぎます。
私の持っていた自信など、木っ端微塵にされるほどの衝撃でした。
戦慄しました、だってこんな美しい方々のお世話など、出来るのだろうかと?
私は緊張しながらも面接に挑みます。
シルビア様もイシュタル様も私を気にって下ったようで、かなり質問や仕事内容を詳しく話されるのです。
どうやら此処、ザルツでは、今一つメイドの質が届かないようで。
正式な貴族や人族の序列の中で鍛えられたメイドが、見当たらなかったそうなのです。
こう言っては何ですが、獣人社会は比較的鷹揚ですので、メイドも軽い感じなのでしょう。
貴族の屋敷でメイドをしていた経験と、持って生まれたこのキツイ気性もあって面接に合格いたしました。
そんな私に、お嬢様方は一つだけ厳重に注意される事があります。
それは秘密厳守と言うこと。
当たり前だと思う私は、この念の押され様が非常に違和感を感じました。
でも、私はメイドの誇りを持って御仕えしようと決心しましたので問題ありません。
先に決まったノーラと言う女性と共に、明日から此処で働いて欲しいとの事。
私は喜んでご奉公を御約束すると共に、早速お部屋を頂きました。
案内された使用人部屋は2人部屋。
多分ノーラと私の部屋だと思います。
部屋の印象は2人部屋の割には、とても広く綺麗で明るいです。
使用人に貸すには、余りにも勿体無い気もするのですが、シルビア様に気にしないようにと言われました。
暫く部屋で荷物の整理をしていると、誰か部屋に入ってきます。
どうやらノーラのようで、メイドとして宜しくと挨拶してきます。
ノーラも今日合格したてで、全く私と同期ということ。
キツイ私とは違い、ほんわかした女性でした。
でも、その夜明日からの生活や、今までの事を雑談していると妙に馬が合います。
どうやら私達はメイドとして仲良くやって行けそうな事が解り安心致しました。
明日からお仕事です。
2人でこのお屋敷で無事お勤めできる事を願って、眠りに付きます。
次の日、朝からシルビア様に従い屋敷の中を見て廻ります。
キッチンはイシュタル様がご説明を。
地下室はリリィ様が占拠されていて、あまり干渉しないで良さそうでした。
一通り見て周り、出来る事をピックアップします。
シルビア様もご一緒に暫くは働かれるとの事。
思わずお断りしようと致しますと、『私はトシヤ様の奴隷ですから』と仰います。
私とノーラは顔を見合わせ驚きます。
シルビア様を奴隷などと思って見てなかった為、その首にある首輪に気付かなかったのでした。
私はシルビア様が奴隷であろうと、御仕えする御方に代わりがありません。
ノーラも同意見です。
出来るだけ私共がお屋敷の事をする旨を伝えますと、シルビア様はイシュタル様も同様に働かれるとの事。
今は早く屋敷に慣れて、メイドとして本来の業務が滞りに無く進むまでは、そうさせて欲しいと仰いました。
私共も申し訳ない気持ちでしたが、折角のお気持ちを無駄にしてはメイドではありません。
主の意を汲むことも大事な勤めです。
早く慣れて、シルビア様達に御迷惑を掛けない様にすれば良いのですから。
その日は屋敷の掃除と家事とで夕刻まで掛かりました。
すると、シルビア様が私共を呼ばれ、屋敷の主に面通しをお申し付けになります。
そう言えば、朝方にはもう御出かけになられていて、お見かけできなかった此処の主様。
もう直ぐ帰ってくるから心積もりするようにとの事。
このお屋敷のお嬢様方を従える主様とは、どの様な紳士なのだろうか?
期待と不安、そして男性である事がとても私を緊張させます。
暫く家事の続きをしていると、応接室に行くよう、シルビア様よりお呼びが掛かります。
2人して緊張しながら、この屋敷の本当の主にお会います。
ドアを開け、中に入り主を初めて拝見致しました。
黒髪黒目の主は、年のころ15歳くらいでしょうか?
とても若く、少年といった感じです。
シルビア様よりお聞きしていた年齢よりも遥かに幼く見えます。
こんな少年がここの主???
私は驚きながらも、顔は無表情を貫き挨拶を致します。
「始めまして、旦那様。私しアデーレと申します。どうかよろしくお願いいたします。」
「始めまして、旦那様。私しノーラと申します。以後よろしくお願いいたします。」
ノーラも続いて挨拶を致します。
これは予めシルビア様より仰せつかった決め事で、『旦那様』と呼ぶように言われているのです。
何故『ご主人様』ではなく『旦那様』なのか?
不思議だったのですが、その答えは、旦那様を見て後で理解できましたが・・・
この時はまだ、緊張で旦那様のお言葉を待つのが精一杯でした。
「・・・ご主人様じゃないの?・・・」
旦那様は、行き成りそうお聞きになりました。
事の成り行きに付いていけず、ただ立ち尽くすだけの私達。
そんな私達を置き去りに、旦那様は妄想を炸裂しておられるご様子。
シルビア様に何か言われるまで、私達を見て物凄くガッカリしておられるんですもの・・・
私も女です、男性の視線の先くらい解ります。
私達の胸を見て、明らかにしょげておいでです。
しかもどうやら、シルビア様のご機嫌取りが上手くいったのか。
私達にはもう興味が無いですよ、と云わんばかりに上機嫌でご挨拶をされます。
私は旦那様が退席された後、自分の胸を触り確認しました。
確かにシルビア様やイシュタル様には及びません。
いえ、到底適いません。
しかし、無いわけではないのです。
それを全く無いように扱われた事は、私の女の部分に火をつけました。
それは全世界の巨乳に対する怒りと、旦那様への恨みとなって。
「巨乳好きなんて、死ねばいいのに。」
自然と声が漏れ、ノーラに怪訝な顔をされます。
あああ、ちっぱいばかりの世界なら・・・
私は、自分の周りで『ちっぱい』そんな存在を思い出したのです。
ノーラと、そしてリリィ様が脳裏に浮かびます。
そう!
私には2人の仲間が居る!
そして御仕えすべきはお嬢様方。
その中でもリリィ様なのではないのか!!
旦那様のような巨乳好きなど!
世界がちっぱいで満たされたらどんなに素敵なのかしら。
私は旦那様には冷たくあしらう事を決め、リリィさまを愛でる事に致しました。
そう、此れが私のメイド道!
こうして、日々お屋敷のお勤めに精を出すのでした。
旦那様には冷たくしながら。




