第三十八話 結局アリスのおにいちゃんいなりました
俺は深い闇の中に居た。
浮遊感が心地よい、プカプカと気持ちいのだ。
そっか、俺死んだんだよなな~
死んだ事を自覚すると、あの後どうなったかは気になる。
迷宮奥深くで、しかも自我を封印されたアリスは、あのままだと死ぬだろう。
動かず意識もなく・・・
考えると後悔が襲う。
自惚れる事無く、もっと力を出せていたら。
せめてアリスだけでも隙を見て『ゲート』地上に送っておいたら。
考えると幾らでも浮かぶ可能性。
たらればを考えれば切がない。
闇の中でただひたすら後悔していた。
「ったくトシ坊は相変わらず弱いよの~~」
絶対に聞くことの無いと思っていた声。
懐かしく優しい慈愛に満ちた皺枯れた声。
ルビさん!!
「そうだよ、トシ坊。」
ああ、死んだから会えたのかな?
「いやいや~早とちりも変らんのホッホホホ。」
ふふ、嬉しいよルビさんと話せて。
でも、俺死んじゃってさ~イシュタル達を残してきちゃった。
悲しませたかも知れないね・・・
「ほっほほ~知っておるよ、トシ坊の事ならね。今死に掛けている事も、イシュタルと上手く言った事も全部ね。なんせあたしゃトシ坊の中に居たんだから。」
ええええええ???
中ってえええええ???
ルビさん生きてたの??
「ほっほほ相変わらず面白いね~トシ坊は。生きちゃーいないさ、此処で話してるあたしゃ只の記憶としての存在でしかないのじゃよ?だから死んしまった事は変りないのじゃよ。」
そっか~記憶か・・・
でも話せるならもっと前に話し掛けてくれても良かったじゃないか~
「ほっほほ、そうは行かんのじゃよ。色々と条件があっての~今回それが上手い具合に成った訳じゃ。それよりトシ坊、生き返りたいかえ?」
・・・そうだね、アリスを助けたいし。
イシュタル達も悲しませたくないから、生き返れるならそうしたいよ。
「でも、それじゃと生き返ってもまたバヴェルに殺されるだけじゃぞ?」
ん~~~でも生き返るなら同じ事になっても頑張りたいじゃない。
「そうかえそうかえ、じゃあトシ坊。あたしを受け入れて真の後継者になる覚悟はあるかえ?」
受け入れる?
何それ美味しいの?
「ほほほほほ、まったく何時もちゃかすんじゃからトシ坊は。」
へへ・・・いいじゃない。
「あたしの記憶を受け入れ、竜となるんじゃよ。人族・・・いや異世界の人よ。そなたなら可能やもしれぬでの。」
っへ?知ってたの?
てか記憶って俺ルビさんになっちゃうの?
「ほっほほほ、そうじゃの人格はトシ坊そのままに、記憶を引き継ぎ竜として完全体になるだけじゃ。本来呪われたあたしにゃ出来なかった事じゃがの、トシ坊が死んだ事で一度全てが白紙になったんじゃよ。呪いも消え本来の継承が出来るようになったという訳じゃ。」
やっぱ死んだの俺?
でも生き返るっておかしくない?
「肉体は死んでも魂は暫く残る。その僅かな隙が今じゃ。だから死んでもおるし生きておるとも言う。」
じゃあ、生き返りたい。
「ほっほほ、嬉しいの~。では、あたしの人格を維持する魔力を力に変えて、潰された心臓を再生させて生き返らすとするかの。」
ええ?潰れたの俺の心臓!?
どうりで吐血凄かったもんな~
てか、生き返ると俺竜の姿になるの?
「心臓だけでなく肺もいっておったぞ?それとトシ坊が竜になる事は無いが、姿までは解らん。それでもあたしを、受け入れてみるかえ?」
うん。
助けたいからアリスを。
そして帰りたいからイシュタル達の所に。
姿はどうなろうと、俺後悔したくないんだ。
それにバ、ヴェルも倒さなきゃいけないしね。
「そうかえそうかえ、じゃあトシ坊。あたしを集中して意識するがええ、そうすれば勝手に事が進むでの。」
意識を向け、ルビさんを感じていく。
「そう、それでええ。トシ坊、また話せて嬉しかったよ。今度こそさよならじゃ。」
うん、会えて嬉しかったよルビさん。
ルビさんの存在が俺の中に、記憶に刻み付けられていく。
長い長い記憶と感情。
俺の人格はそのままに、幾つもの出来事や戦い方が頭に刻まれる。
そして、俺の心臓は再生し出す。
人族の心臓ではなく、竜の心臓として。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目が見え始め、意識が戻り出す。
ルビさんから聴いた、潰れた肺はまだ治っていないようだ。
無性に息苦しい、しかも上手く呼吸も出来ない。
神聖魔法で回復を掛け、何とか内臓を治すが疲労感が半端ない。
俺が意識を取り戻した気配を察してか、足が止まるバヴェル。
振り返り、驚きの表情で俺を見詰める。
「蘇生だと・・・馬鹿な!」
あのヤンキー口調も何処へやら。
素で驚いている。
本来は固い口調だな、おい!
「まさか、お前本当に何者だ?化け物か・・・」
「いや人族だよ。まあたった今《真の後継者》ってのになったらしいけど。」
「ふふふ、そうか《神竜》になったか勇者か!なら手加減はせぬ!参る!」
お互いに仕切り直しとばかりに、向き合う。
バヴェルの動きが解る。
周りの空気すら感じる事ができる。
今までと違い戦い方まで頭に浮かぶ。
思う様に動く体はまったく別物のように感じる。
頭で考え体を動かすにも動作の誤差もない。
そんな俺の変化を感じ取ってか、最初から『魔闘気』を使ってくるバヴェル。
ハルバードを構え、前回同様地を蹴って突っ込んでくる。
だが、今回はバヴェルの動きがハッキリと見える。
その一部始終がスローモーションのように見えて、俺は笑ってしまった。
だって、ここまで力の差が出ると自然と苦笑が出るんだもん。
そして実感する。
『神竜強化』が発動している事を。
『神竜強化』の発動は俺の心臓から力を引き出しているようだ。
命の力を糧に、竜の全力を瞬時に引き出す能力。
それがこの圧倒的な力、『神竜強化』だ。
俺は、バヴェルの攻撃を全て避けた。
動きは少なく、微量の行動で避ける俺に、バヴェルは焦る。
でも、まだ俺の体の修復は追いついてない。
回復で出来たのは所詮傷を治す事だけ。
治り切っていない傷からは血も出ている。
回復したとはいえ疲労感はかなりある。
満身創痍なのに、俺は負ける気がしなかった。
連続して攻撃を仕掛けてくるバヴェルに向って、刀を一振り入れる。
無造作に繰り出される斬撃は衝撃波を発生させ、バヴェルを襲う。
俺の一撃に吹き飛ばされ、壁際までバヴェルは押し込まれた。
俺が再度刀を振ると、同じく衝撃波が出る。
バヴェルは体を防御するのに精一杯で、体を丸め耐えるしかなかった。
衝撃波が止み、耐えていたバヴェルは片膝をつく。
「あの時と同じ、まさに圧倒的な力!適わない相手に挑む事でしか満足できぬこの闘争本能!まだだ!まだやれるわ!」
バヴェルは立ち上がり、俄然やる気を出し攻撃を繰り返す。
そのどれもが俺を捕らえず、ただ空を切るのみ。
動きの見える俺には、バヴェルの攻撃は無意味だった。
一転して攻撃を仕掛ける。
バヴェルの攻撃を避けつつ、隙を突くように刀で切り裂く。
今度はバヴェルが一方的に防戦となる。
見る見る傷を広げていくバヴェル。
だが彼は笑っていた。
「これだよこれ!この感覚!待っていた!思い出した!楽しいぞ!」
狂気に支配されたかのようなバヴェル。
その姿は全身傷だらけで、立っているのも不思議なくらいに見える。
「アリスを帰してもらう。」
「俺を倒せたらな!」
最後の気力と力を込めて、渾身の一撃を放つバヴェル。
その攻撃を、俺は素手の左手一本で受ける。
力を込めて振り下ろそうと必死になっているバヴェル。
それを微動だにせず受けている俺は、ゆっくりとハルバードを上に押し返していく。
「はははっは!流石だ!」
バヴェルは歓喜に満ちた顔で俺を見る。
ゆっくりとゆっくりとバヴェルに近付き、右手の刀を力強く握る。
刀を切り上げ、ハルバードごとバヴェルを切り裂いた。
俺の斬撃は竜闘気を存分に纏わせてある。
紙でも切るようにハルバードとバヴェルを両断する。
バヴェルは腰から肩に掛けて、斜めに切り分けられた。
「ふは・・・やはり無理か・・・だが楽しかったぞ勇者・・・」
上半身が崩れ落ち、二つに分かれたバヴェルは地面に横たわる。
バヴェルが倒れると、途端に歪みだす迷宮。
「核である・・・俺が死ねば・・・此処は崩壊する・・・ハッハハハ・・・」
俺はバヴェルに止めを刺す事無く、アリスの元に行く。
核と言う事は、バヴェルがまだ意識のある状態なら迷宮は崩壊しない。
バヴェルをそのままにして、今のうちに此処を出なければならない。
俺は、アリスの下に駆け寄る。
変らず動かないアリスを抱きかかえて、広い場所に出る。
すぐに『ゲート』を開け、屋敷に戻れるようにする。
最後にバヴェルを見たが、動く気配はない。
もうすぐ死ぬのだろう・・・身動き一つしない。
アリスを抱え『ゲート』を潜り、俺は迷宮を後にした。
1人取り残されるバヴェル。
もう虫の息だが、まだ死は訪れていない。
崩れる迷宮は自信の死が近い事を示す。
目を閉じ、満足した表情でバヴェルは死を待っていた。
「相変わらず無茶苦茶な男よの。」
「っけ、何・・しに来た・・・」
「決まっておろう、まだお前に死なれては困る。」
「死ぬ・・・いいじゃ・・・ないかよ~おらぇ~満足してんだよ~」
先程と違い、口調がヤンキーに戻っている。
「減らず口など叩くな。一度死んで迷宮の核から開放されろ。そうでなくては此処からお前は動けなくなるからな。その後、お前を生き返らせなければの。」
「っけ、好きに・・・しやがれ・・・」
「ああ、そうするわい。」
トシやの去った後、迷宮は崩れさり、バヴェルも声の主ももういなかった。
王都イブロニアには大きな穴が空き、その名残を残したという。
夜の地震による被害の甚大さ、行方不明の王佐、出来上がった巨大なクレーター。
イブロニアは暫く王都の復興の為、事件の調査が出来なかった。
そんな出来事など知らない俺は、皆の待つ屋敷に戻った。
俺の姿は、あちこちに傷があり、吐血によって浴びた血液で血だらけだ。
玄関で俺を向かえたアデーレは、血相を変えて皆を呼びに行く。
アデーレと一緒に向けてくれたノーラは、俺を見て速攻に泡を吹いて倒れてしまった。
どんだけ気が弱いんだよ・・・
マジでお父さんは心配です・・・
アデーレに呼ばれ飛んで来るイシュタル達。
まず声を出したのはイシュタルだった。
「トシヤ!トシヤ!!・・・無事なの?大丈夫?痛くない?あああトシヤ・・・エグエグ。」
イシュタルは心配しまくって泣きじゃくる。
ごめんね、心配掛けて。
でも生きてまた会えたよ。
「トシヤ様!ご無事で・・・よか・・・た・・・」
シルビアはそのままへたり込んで呆けてしまった。
ごめんねシルビア。
主なのにシルビアを置いて死んじゃってさ。
でも、またよろしくね。
「・・・ん・・・無事・・・良かった・・・」
リリィは無表情を保っていた。
だが、その足がガクガクしている。
解り易すすぎでしょリリィ。
心配してくれてありがとう。
また冒険できるね。
皆の反応に心で詫びる。
っとそれ所ではなかった。
「俺は良い、それより直ぐにアリスを何とかしないと。頼む直ぐに部屋に行かせてくれ!」
慌てて部屋に行こうとする俺。
そんな俺の行動にイシュタル達は何事かと問いかける。
が、急がないと拙いので説明もせずに部屋へ向う。
イシュタル達は困惑し、余りにも俺がアリスを心配するので再会の感動も消え、ジト目になる。
痛い!その視線は痛いよ!
誤解ですから!
訝しがる皆の視線は解っているが、一刻を争うので勘弁してください。
外を見て日の翳るを計る。
かなり戦闘で時間を食ってしまっているようだ。
正午までに魔力を魔結晶に充填しないといけない。
そう、アリスを救う方法。
それは嵌められた首輪の魔結晶に、6時間以内に魔力を注ぐ事だ。
奴隷の首輪にある安全装置のような効果で、時間内に魔力を注げば廃人状態を脱する事ができる。
もちろん、それは有無を言わさぬ奴隷への降格だ。
騙まし討ちや姦計に掛ける時に使われる手法だそうだが・・・
奴隷に出来そうにない人を、無理やり奴隷化させる行為は卑怯この上ない。
だがこの方法を編み出したのも人族の誰かだ。
バヴェルの言った、人族の悪巧みに長けた考えは俺も驚嘆する。
だが、今は卑怯とかどうとか言っていられない。
助ける為には仕方がない。
勝手に奴隷にして、恨まれるかもしれないが。
アリスには申し分けないが、ここは俺の奴隷になって貰うしかない。
6時間を越えてしまえば、本当にアリスは廃人になってしまうのだから。
部屋に入り、アリスをベットに横たえ、その首にある魔結晶に向って魔力を放つ。
眩い光が輝き、アリスの魔結晶に俺の魔力が吸い込まれていく。
HPは殆ど無いが、魔力を然程使っていなかったのが幸いした。
MPが尽きる前に、魔結晶に魔力が満たされていく。
魔力が入り込みだすと、少しずつアリスの表情が戻ってくる。
「何故・・・助け・・・た・・・」
「俺は『お兄ちゃん』なんだろ?大丈夫だ、俺がいるからね。必ず助けるって言ったろ。」
その言葉に顔を下に背けるアリス。
魔力が満たされ、アリスは俺の奴隷になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
監視任務の為、妹と謀り篭絡しようとした男。
迷宮で、兄と同じ言葉を言って頭を撫でた男。
私の企みを知っていて、気にしないといった男。
魔族に攫われ、殺されるかも知れない状況で助けを求めた相手。
一瞬でも兄と被り、私の弱気な姿と泣き顔を見せた相手。
首輪を嵌められ意識がある。
ただ動けなくなるだけだ。
首輪を嵌められた私を、助ける為に傷付いていたトシヤ。
私を庇い、一度は死んでしまったトシヤ。
蘇生して、魔族を倒し私を此処まで連れてきたトシヤ。
私の為に残り少ない魔力を懸命に首輪に注ぐトシヤ。
私の質問に、またも兄と同じ様に言うお兄ちゃん・・・
魔力が充填されるまでの間、私はお兄ちゃんに訊ねる。
「お前はダークエルフを蔑まないのか?」
「蔑む?滅相も無い!ダークエルフは男の至宝です。」
本気で言ってるのが怖い・・・
真剣に私を憧れの目で見るお兄ちゃん。
「周りから嫌な事を言われるかもしれないぞ?」
「構わないよ、寧ろアリスの事を悪く言う奴は俺がぶっ飛ばす!」
また兄と同じ様に私を庇おうとする。
そうだ、こうやって庇われたかったんだ私は・・・
「お前の奴隷になる気はないかもしれないぞ?」
「いいよ。好きにしてくれて。俺が必要なときだけ頼ればいいさ。」
何処まで本気なのか・・・いや全部本気か。
ここまでお人好しだと私が辛くなるよ、お兄ちゃん。
「なら、私がお前の奴隷になる条件を出そう。」
「ふぇ?」
あははは、お兄ちゃん驚いてる~
私は私を庇ってくれた彼を、私の為に傷付いた彼をとうに好きになっていた。
もちろん彼が、兄ではない事は解っている。
兄はもう死んでいる・・・そして多分生まれ変わりがいない事も解っていた。
私は兄を探す事で自分を保っていただけ。
そして兄を彷彿させる彼に好意を持ってしまった。
だけど、兄を裏切る事も、彼を嫌いに成る事もできそうにない。
なら、私はどうにかこの気持ちに折り合いをつけようと思おう。
無茶な考えかもしれないが、私は兄離れをして、1人の男を愛する。
もう1人の兄にして・・・
「そ・・・その・・・兄上は裏切れない。」
「そうか。」
「でも!ど・・・奴隷になったら、あ・・兄上とは結ばれない。」
「ああ?そうかな?」
「元々兄妹だ・・・無理は解っている・・・から。」
「うん?」
「それに、お前は兄を思い出させる・・・だから・・・も・・・もうお前を兄上と・・・その。」
「へ?」
「お!・・・お前は此れから私の兄上!お兄ちゃんだ!」
「お、おおう?」
「前のように『お兄ちゃん』として甘えさせてくれるなら・・・その奴隷になってもいいぞ」
「ふえぇ?ま、まあいいんでね?ずっとアリスのお兄ちゃんでもいいと思ってたしな。」
「なら決まりだ。これからは『お兄ちゃん』だ。」
「ああ、よろしくな。」
「ふふ、お兄ちゃん!認めたね♪これでようやく結ばれる事も夢ではなくなったね♪」
「はぁあ??俺、お兄ちゃんになったんだろ?」
「種族も血縁も無いお兄ちゃんだよ?絶対にものにするわ♪」
お兄ちゃんは困惑して私を見ている。
それもそうだろう、言ってる私ですら吃驚しているくらいだ。
でもこれでいいと思う。
兄上のような男を求めていた。
だからお兄ちゃんを好きになった。
こんな論理は、何時かおかしいと思うときが来るかもしれない。
でも、私の為に必死に動いてくれたお兄ちゃんは、此処にいる人だけだ。
誰もが嫌うダークエルフを必要としてくれる人
私が兄と認め呼べる唯一の人。
だからお兄ちゃんから離れたくない。
魔結晶に魔力が充填され、光り輝く黒真珠のような色が現れた。
私はこれでおにいちゃんの奴隷になる。
これでいい。
奴隷になれば、ずっと一緒に居られる。
お兄ちゃんさえいれば、私は何も要らない。
お兄ちゃんの奴隷になり、新しい人生を歩む。
私の新しい生活が始まった。
全然ザルツ旅してない・・・




