第三十七話 迷宮が生まれて、魔族と戦ったら死んじゃった
バヴェルは無言で俺を睨む。
俺は刀を構え、バヴェルの動向を探る。
バヴェルは、後ろに控えていた羽根付き魔族から、ハルバードを受け取り両手で構える。
この隙に、俺はバヴェルの能力を今のうちに確認する。
名前 バヴェル
種族 魔族
種別 魔神種
性別 ♂
年齢 853歳2ヶ月
LV 351
職業 神竜騎士王
HP 28452/28452
MP 32780/32795
腕力 89+780(869)
体力 90+757(847)
知力 83+797(880)
精神 82+708(790)
敏捷 91+777(868)
器用 90+730(820)
スキル
肉体強化LV10・聖級闇魔法LV10・暗黒魔法LV8
神級槍術LV8・神級斧術LV7・神級格闘術LV5
状態異常耐性LV8
ユニークスキル
魔闘気・宣託の眉目
固有スキル
投影の魔眼
強い!
今までに出逢った事の無いステータスの持ち主だ。
こんな魔族が地上で鳴りを潜めていたなんて信じられない。
俺の驚きを見て、口角を挙げ笑うバヴェル。
自らの力を見抜いた俺に、バヴェルは喜びを露にする。
「『解析』か~益々おもしれ~」
手に持ったハルバードを頭上で振り回し、動作の確認をしながら呟く。
「此処で俺は全力を出す気になれないぞ?どうする?」」
「っは!そう言うと思ったよ~だから用意してやったよ~」
バヴェルが頭上で振り回し終え、両手で構えていたハルバードを片手で縦に持ち、その柄を地面に打ち付ける。
打ち付けられた先から魔方陣が展開され、怪しく輝き始める。
「我が魔力と命を持って請う。その命は闇の力をを持って大地を穿ち、その魔力は闇の力を持って堅牢たる檻を成す。我が対価を持って応うべし、出でよ!望むは我が城!メイク・ザ・ラブリンスワーク」
バヴェルが呪文を唱える。
詠唱が終わり、辺りが地響きを立てて変貌し出す。
バヴェルはまたハルバードを握り直し、俺に対峙する。
大地が避け、雷が鳴り響き、俺とバヴェルの周囲を駆け巡る。
次第に大きく成る地震。
その振動に体制を崩す事無く、ただ睨みあう。
地面が陥没し、半径1キロの地面が俺達を中心に沈み出す。
「さあ、始まるぜ~」
地面はどんどん沈んでいく。
アリスは動かず、揺れに身を任せたままユラユラとしている。
ランドルフィ卿邸宅も崩れ去り、地割れに飲み込まれる。
半径1キロ圏内の全てを飲み込んで、地面は沈んでいく。
地面は何処までも沈んでいった。
突然、急速に落下する気配に苛まれる。
ただ、足は地面に付いているのが不思議だった。
普通落下したら浮遊感があるはずなのに?
魔法世界の常識外れな現象は今もって俺には慣れない。
落下が終わると、一瞬闇が襲う。
それでも俺はバヴェルを見失わない。
向こうも俺から眼を離していないのがわかる。
今度は徐々に周りが明るくなり。
変貌し続ける周りの状況が解ってきた。
まず、半径1キロ程ある空間に壁が出来、四角い部屋へと変った。
次に天井が出来、ドアが出来ていく。
不思議な光景が広がっていく。
アリスの姿は無いが、直感が近くにいることを告げる。
「この造りは・・・迷宮か。」
「ご名答~そうさ~、俺達魔神は~生涯に一度だけ迷宮を造れるのさ~」
「まさか迷宮の正体は・・・」
「さあね~でも、これで俺っちはもう此処から出れなくなったんだよ~此処までしたんだ~覚悟決めてかかって来いや!」
「その前にアリスを何とかしたい。」
「大丈夫だよ、あのアマならこの先の隠し部屋に入れておいたさ~勝負が終わったら探すといいよ~」
「わかった。」
瞬間、バヴェルは俺の懐近くに現れ、ハルバードで突いて来る。
俺は、その突きを刀で受け止める。
「っは!流石だな~此れで死ななかったのはそうはいねーぜ。」
バヴェルはバックステップで距離を開け、連続してハルバードの突きを繰り出す。
その突きを俺は、全て受けるかいなすかして防ぐ。
最後の突きを放ったバヴェルはそのまま、伸びたハルバードの先を横薙ぎに払い俺の首を狙う。
俺は咄嗟に後ろに下がり、ハルバードの刃をかわす。
空を切る先端の刃は、勢いをそのままに旋回して頭上へと周り、今度は俺の頭を狙って振り下ろされる。
俺は、体を半身にずらし、ハルバードの斬檄を避けバヴェルの懐に飛び込む。
勢い良く突っ込みつつ、胴を狙い刀を振るう。
バヴェルは振り下ろしたハルバードを支点に、棒高跳びの如く飛び上がり俺の後ろに回る。
着地と同時に、俺に向かい暗黒魔法を放ってきた。
「グルゲイルダークネス!」
漆黒の線が複数本俺に向って伸びて来る。
俺は前面に『ホーリーウォール』を張り、無数の線を神聖魔法で防ぐ。
一連の攻撃が済み、一旦睨み合いに戻った。
「っは!まだ余裕かよ!てめー全力出せやコラー!」
「全力を出しているぞ。買いかぶりすぎじゃないか?」
「あ~てめえからは、あの時と同じプレッシャーを感じるんだよ~。その割にはもっとこ~俺にビビッとこねーんだよね~」
バヴェルの言葉の意味が解らない。
俺は既に『肉体強化』も『竜闘気』も使っている。
唯一『神竜強化』は使っていないが・・・
というか今更気づいたが、『神竜強化』は使えないんだよ。
今までこんなに強い敵と遭遇する機会もなかったし、なによりそこまでスキルを使う必要も無かったから。
当然の如く、ステータスにあるから使えると思ってたのに、何故か発動しないんだよな~
「まあ~本気を出させてやるがな!」
大きく魔力を増幅させ、自らの体に纏わせ始めるバヴェル。
「おら~いくぜ~!」
バヴェルはその身に魔力を纏い、吸収する。
ビリビリと肌に来る殺気は、俺を驚かせる。
バヴェルから大きな力も感じる。
油断できない。
バヴェルはハルバードを俺に向って突き出し地を蹴る。
俺はバヴェルを見失う。
咄嗟、直感に従って腕をクロスして踏ん張る。
直感が無かったら、まともに顔面に食らっていたであろう衝撃が腕に伝わる。
「っぐ!」
衝撃に思わず呻き声が出る。
しかも直感はまだ警告を止めない。
次の動作で胴を守ろうと腕を下に動かすが、間に合わない。
クロスした腕の下から突き刺さるハルバードの槍先は俺の腹に、鈍痛を感じさせる。
そのまま飛ばされ、壁にぶち当たる。
迷宮の壁は頑丈で、俺がぶつかってもビクともしない。
受けた衝撃と衝撃を散らさない壁。
双方の痛みが俺を襲う、腹に背中に。
壁に跳ね返され、地面に這い蹲る。
起き上がろうとするも上手くいかない。
この世界に来て初めて味わった苦痛。
痛かった、痛いなんてものじゃない。
しかも体の中にまでバヴェルの攻撃は届いているようだ。
発勁のようなものだろうか、体がバラけそうだ。
何時までも鳴り止まない警告。
しかし俺は動けず、攻撃は容赦なく襲ってくる。
地面スレスレに来るハルバードの斬撃。
鈍い痛みが、左の二の腕から感じたかと思うと、地面を転がりまた壁に当たる。
最初はただ二の腕が熱かった。
感じた衝撃よりたいしたダメージは無いと思っていたのに。
左腕が上がらない。
見ると腕から血が出て、白い物が見える。
ルビさんの鱗で作った防具はそのままに、攻撃は腕を切り裂いていた。
ジンジンとしてきたかと思うと、時間差で腕の痛みが激しくなる。
「いって!!!!!」
攻撃され転がされた事も驚きだが、傷つけられた事がもっと驚きだった。
しかも痛い、意識を持って生まれたから一度とて味わった事のない痛み。
「だろ~いて~だろ~。今の攻撃で確信したよ~おめ~竜だな~」
痛みに堪えながらバヴェルの言葉に唖然とする。
「しかしどうすりゃ人族が竜の力を受け継いだか解んね~がな~。でも、どうやらその黒い鎧。竜の鱗だよな?でなけりゃ俺の攻撃が中に届く説明がつかね~」
「俺は竜じゃなく人族だぜ?」
「っは!俺はよ~竜を殺せる攻撃をしたんだぜ?間違うわけね~よ~『魔闘気』纏って人族が無事なわけね~だろ!?ああああん!」
バヴェルは攻撃の手を休め、俺を値踏みする。
自らの考えが正しい事を証明するように。
「っでだ~その漆黒の鎧、そしておめ~から感じるプレッシャー。更に『魔闘気』による俺の攻撃に耐えるその堅さ。異常だわ~異常すぎる~~~~っは!そっか!そいうことかよ~~!!おめ~《神竜》の力を継いだな~!!っは面白れ~~~~~~待ってたぜ~~~~!!!!ハハッハハ!!!」
「っく・・・《神竜》なんて知らない。お前勘違いしてないか?」
「っふ、間違う訳ね~だろう!《神竜》に受けた屈辱。初めて感じた恐怖。どれも忘れねーよ~~~~《神竜》でなきゃよ、邪竜なら死んでる攻撃の筈なんだぜ?」
「お前・・・ルビさんを知っているのか?」
思わず声に出してしまった。
《神竜》とはルビさんの事だ。
だからバヴェルがルビさんに関わっていた事が、俺を焦らせた。
「んっだよ~やっぱそうじゃんかよ~俺の癇が正しかったぜ~ハッハハハハ。竜を殺す為に、『魔闘気』を取得した甲斐があったぜ~」
『魔闘気』たぶん竜殺しの技なのだろうか?
その威力から邪竜を殺した事があるのかもしれない。
俺は確かに傷付いた、バヴェルは本当にルビさんを殺したかったのだろう・・・
「うんじゃ殺っちゃうか!!あの時の続きを楽しましてくれや!!」
バヴェルが更に追撃をかけてくる。
突き刺され、払われ、殴られ蹴飛ばされる。
俺は、辛うじて致命傷を避けるが攻撃を受ける度に徐々に傷付いていく。
しかも頑丈な為、なかなか意識を手放す事も出来ず、拷問のような攻撃を受ける形になってしまっている。
「んっだよ~つまんね~な~。まだあの底知れぬ力と恐怖が感じられね~・・・」
「・・・これでも・・・必死なんだ・・・ぜ?」
「っは!たく手間がかかりやがるわ~人族の汚い手でも真似て見るか~」
そう言うとバヴェルは壁に向って手を翳す。
壁がドアの形をしながらゆっくりと開き、中にいたアリスを曝け出す。
隠し部屋が開いたのだ。
「人族ってのは頭が廻るよね~こうやって人質を有効利用するなんて魔族にゃ考えつかねーわ~」
「なに・・を・・する。」
痛みで言葉も絶え絶えな俺は、予想される事態を考え驚愕している。
「ん?いやよ、おめーの本気ってさ人質を助ける可能性に掛けたら出ると思ったんだがよ~どうやら殺さないと無理みて~だし、さっさと殺っちまおうかと思ってな~~~~」
「や・・・やめろ!!」
「っは!後で存分に聞いてやるよ!!」
動けない俺を放置して、バヴェルはハルーバドの先端をアリスに向ける。
事態を察し、なけなしの力を振り絞り隠し扉の中にいるアリスに向う。
そのまま体を張って、俺はアリスの前に立ちはだかった。
バヴェルの一撃はアリスに向ったもので、そうは早くなかったのが幸いした。
ハルバードの先端が俺の左胸で防がれ止っている。
数歩分衝撃でずり下がったがアリスは無事だ。
アリスを見て安心したら、胸の痛みが激しくなり吐血する。
勢い良く出る血飛沫がそこらかしこに散らばりアリスにも掛かる。
膝を折り、その場に蹲る俺。
意識が朦朧とし始め、体から力が抜ける。
「っけ、あっけね~俺っちがラビリンスワークまで使ってこの結果かよ・・・」
残念そうにするバヴェルはハルバードを引き俺を見下ろす。
「つまんねー」
そう吐き捨てると俺に背を向けて去ろうとする。
その姿を見ながら、俺は死を覚悟した。
折角この世界に来たけどあっけない最後だ。
ごめんねルビさん世界見れなかったや。
ごめんねイシュタル、帰れそうにないや。
ごめんねシルビア、奴隷のまま放り出しちゃうね。
ごめんねリリィ、将棋できなくなるね。
ごめんねアリス、助けれなくて。
意識がなくなり、俺は死んだ。




