第三十一話 新たなる新天地を目指して
10/15 再更新
リリィの手を引き、イシュタルとシルビアを伴って訪れたのは、何処でもないランドルフィ卿の所だ。
今は王宮外の近衛兵舎にある執務室に居る。
場所を聞き辿り着くまでにちょっと時間を要したが、突然の訪問であるにも拘らず、直ぐに目通りが叶った。
入るなり、ランドルフィ卿は俺の要件を悟ったのか、嘆息する。
「勇者殿、なにようかな?」
解っているのに聞く所が、印象通り堅物なのだと思う。
「前の化け物撃退と今回の迷宮での働き、その両方の報酬を纏めて頂に参りました。」
「うむ、そうであるか、では勇者殿の思うとおりにしなされ、以上でよろしいかな。」
ランドルフィ卿は、もう会話は終了だと言わんばかりに俺を見ている。
たぶんもう要求など口にしないで退出するのがいいのだろう。
「ありがとうございます。では、望みどおりに致します。」
「うむ、壮健であられよ。」
「卿もお元気で。」
俺達は部屋を後にして、宿屋に戻った。
もちろん、リリィも伴ってだ。
これからリリィの装備や旅の用意を買い込み、明日出発となるだろう。
慌しいのはこの世界に来たときと同じだなっと思い苦笑していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私はリリィ、リリィ・ランドルフィ。
今、首都を発ち、お爺さまから頂いた馬車に揺られている。
トシヤ達と旅に出るのは、これで2度目だけど・・・最初と違い、今は仲間として過ごしている。
初めての仲間と呼べる人達の旅は、今までと違っての何もかもが新鮮感じる。
旅を始めてから、イシュ姉とシル姉とは直ぐに仲良しにになった。
というか、仲良くされている。
仲良くしないと姉様たちは、すんごい怖いっ・・・特にイシュ姉が・・・
あの優しい顔からは想像できない、乾いた笑顔を見たらどんな人でも言うことを聞きたくなるはず。
それくらい怖いの・・・
私と仲良くするのは、かあさまを失って悲しんでいるからか、それとも単に妹のような存在?が出来たからかは解らないけど。
ちなみに、イシュタルさんの事はイシュ姉、シルビアさんの事はシル姉と呼ぶようにしている。
私はあんまり気が進まなかったけど、2人が頑として呼ぶように強制してきたので、仕方ないのでそう呼ぶことにした。
渋々呼ぶようになったけど、口下手な私には以外としっくりと来たので、今はそう呼ぶ方が当たり前になっちゃって、かあさま以外に愛称を使った事の無い私は、ちょっと嬉しかったりする。
もちろん、トシヤまで調子に乗って、トシ兄と呼んで欲しいと言って来た時は、速攻断っておいた。
トシヤは、血の涙を流さんばかりに凹んでいたが、良い気味だ。
直ぐに私が懐くとでも持ったのか、スケベな人だ。
そうそう、話す時は口数少ないけれど、こうやって考えているときは饒舌なんですよ私。
だから、キャラ変わってないんですよ、ふふふ。
2人の義理?の姉との仲は良好ですが、どうしてもトシヤとは微妙になっている。
『仲間。だから一緒に行こうかリリィ。』
声をかけられたあの時は、感動してつい手を取ってしまったけど、落ち着けばトシヤとどう接していいか解らなくなってしまっていた。
トシヤのした事はたぶん正しいと思う。
それに、トシヤの私を気遣う気持ちも嬉しい。
結構いい距離感を持っていてくれて、その態度に好感は持てている。
でも・・・かあさまを手に掛けたのはトシヤ。
その思いは、まだ消えないの・・・
助けて欲しかった。
あんなに強いのに、シル姉だけ助けて、私のかあさまは殺してしまう事がどうしても許せなかった。
理性では解っているよ、かあさまは化け物になっていて、どうやっても助からなかったと思う。
ちょっと意味不明なやり取りをしていたけど、変態魔族とキモイ人族、それぞれに助ける方法をトシヤは聞きだしていたから・・・
私もその会話をちゃんと聞いていたの・・・だから・・・トシヤを責めるのは間違っていると・・・解ってはいる・・・
かあさまのが目の前で切り裂かれ、一瞬にして灰になった時、私は絶望に飲まれていた。
そんな私を迷宮から連れ出して、お爺さまの下に連れて行ってくれたけど、虚しさが増すだけだった。
迷宮のお爺様の元から、実家に送られたけど、帰った私に誰も何もしてくれなかった。
かあさまが居なくなったら、この家には頼るべき人が居ないことを痛感する。
それからは、部屋に閉じ篭って、ずっとかあさまの事を考えていた。
この旅に出るまでの1週間を、私は部屋で過ごしていた。
相変わらず、この家の人達は誰も私の事を気にかける事は無かった。
それなのに、赤の他人のイシュ姉とシル姉だけは、ずっと私を気に掛けていてくれた。
実家に帰った次の日から、イシュ姉とシル姉は毎日私を訪ねてくれた。
正直なんで私を気にかけるのか解らなかったが、訪ねてくれる事が内心嬉しかったのも事実だ。
かあさまを失くしてから、本当に寂しかった、寂しくて寂しくて孤独が耐え切れない恐怖となって、私を襲う感覚に気が狂いそうだったから・・・
イシュ姉とシル姉を部屋に入れたのは気まぐれだったけど、あの時追い返さなくて良かったと思う。
寂しすぎて、誰か側に居てほしいと願ったのかもしれない。
イシュ姉とシル姉との時間は、私を楽にさせてくれていた。
急かす事も無く、突き放すことも無く、踏み込むことも無く、ただ優しく側に居てくれからだ。
たまに会話をするも、他愛の無いもので、かあさまやあの事件に関しては触れないでいてくれた。
6日間は何事も無く、ただイシュ姉とシル姉の優しさを感じていて、このままこんな時間に包まれて居たいなっって、甘えていた。
1週間目、何時もの様にイシュ姉とシル姉は来てくれたが、何か申し訳なさそうな雰囲気に私は戸惑っていた。
イシュ姉とシル姉は、私にこの町を去る事と、どうしても1度トシヤと話をして欲しいとお願いしてきた。
正直、トシヤと顔を合わせるのは辛かった。
いや、会いたくないのが本音だったかもしれない。
そんな私にイシュ姉は、トシヤについて語り聞かせてくれた。
かつて、トシヤが辿ったルビさんとの経緯を・・・
イシュタルさんの語りを聞き終わり、私は考え込んでしまった。
どうやらトシヤは、この世界では天涯孤独らしい。
この世界というのは、ずいぶんと遠い国からやってきたのかなっと?イシュ姉に聞いたら『そんな感じ?』とはぐらかされた。違うのだろうか?
兎に角、トシヤは身寄りの無い状態で、ルビさんという親代わりになる人に出会い、充実した生活を送っていたそうだ。
ところが、そのルビさんという人を、トシヤは自ら手に掛けたと言う。
驚いた、親のような人を殺すなんて!と。
でも、ルビさんと言う人は、何やら悪質な呪いに懸かり、アンデット化する前に自らトシヤに殺されることを願ったという。
願ったから殺す・・・この行為にどんな感情が行きかったのか・・・
私なら、かあさまがそんな状態になっても、殺せないだろう・・・
もし、かあさまを安らかに出来ると解っていても、私はかあさまに攻撃する勇気が持てない・・・
トシヤは凄いのかもしれない・・・
もしかしたら、単に非情な性格なのかもしれないけど、でもそんな非情な性格なら、シル姉に化け物を殺すかを聞く筈が無い。
だから、全てを解っていて行動したんだと思う。
たぶんルビさんは喜んで死んだんじゃないかな~・・・でも殺す方はどんな気持ちを持って、どんな気持ちを引き摺るのか・・・とても恐ろしく思えた。
ルビさんという親のような人を手に掛ける苦痛とは、一体どれ程のものなのだろう。
天涯孤独で、親のような人を自らの手で殺めて無くした人。
片や、お爺さま達に疎まれ、天涯孤独とも言える状況で、親を仕方が無い状況とはいえ殺され、失った私。
似ていないようで似た境遇のトシヤと私の状況に、今日まで心の中で蟠っていたものが少し和らいだ気がした。
決して許したわけではない・・・けど、同じような境遇になったトシヤと、話しても良いかなと思えた。
イシュ姉に、トシヤと話しても良いと伝えると、ドアの前で待機していたのか、直ぐに俊哉が部屋に入って来た。
まあ、本当はこの1週間ずっとドアの前に居たことは気付いていたのだけど・・・
1週間ぶりに見たトシヤの顔は、迷宮の時と印象が変わっていた。
トシヤが変わったのではないだろう、私の見方が変わっていたのだ。
私に向かって、ぎこちなく笑う笑顔を見て、私はトシヤの笑顔の奥にある心情、もっと言えば心に秘めた悲しみを知りたいと思った。
知ることで、私も何か変わることが出来るのかもしれないと。
理解することで、悲しみから抜け出し、かあさまに誇れるような生き方が出来るかもしれないと。
そうすれば、かあさまも喜んでくれるんじゃないかって・・・
だから今、こうしてトシヤ達の仲間として旅を共にしている。
この旅の目的は、リブリア大陸の北部にある、ザルツ王国に行くことだそうだ。
ザルツ王国は、リブリア大陸の中央からほぼ西部にあり、サマル王国を抜け辿り着ける場所だ。
何故ザルツ王国に向かっているかシル姉に尋ねてみたら
「トシヤ様がそう言うの、で向かっているのですよ。」
と答えになっていない回答を得た。
まったくシル姉はトシヤに忠実すぎる気がする。
真面目でクールだけど、トシヤにはデレデレで男同士の愛憎に最近目覚めたシル姉は、ちょっと変わり者だ。
回答が得れないので、仕方なくイシュ姉に聞き直すことにした。
「ん?そんなの決まってるじゃないリリィ、トシヤの行くところが私の行く所よ♪」
お花畑だ、この人の頭の中は・・・
シル姉と違い、普段は優しく頼りがいのある大人の女性に見えるのに、いざ感情が昂ぶると手に負えない獅子のようになるイシュ姉は要注意人物だ。
決してそう思っているとは感じさせずに、お礼を言ってイシュ姉の前から消える。
だって、そのまま惚気を聞かされそうだったので、緊急退避したかったのだ。
2人とも答えを持っていないので、トシヤに聞くしかなかった。
まだどう接していいか決めかねているトシヤに、話し掛けるのは気が進まない。
それでも目的は聞いておきたかったので、平静を装ってトシヤに直接聞くことにした。
「あ~ザルツに行く理由かい?」
なんともあっさりしていた、私が一人でヤキモキしているのが馬鹿らしくなる程に飄々としてる。
「・・・・うん・・・・なん・・・で?」
「えーっとね、実は拠点を構えようかな~思ってるんだよ。もちろん迷宮に入ってお金も稼ぐから何とか家位買えるかなって思てるんだけど・・・どうかな?」
「・・・旅を・・・していくはず・・・家いらない・・・のでは?」
「いや・・・恥ずかしながら・・・旅の苦労がね・・・思ったよりキツイ事に気付いたのさ・・・ハハハ、出来たら風呂も入りたいし、その・・・用を足すのも女性陣を気にしないでしたいしね・・・後、ご飯も美味しいのが食べたいし。旅は続けるよ~俺『ゲート』スキルあるから、夕方くらいに拠点に戻って、家で過ごしてまた戻ってくれば旅も結構楽になると思うんだー」
とヘラヘラ笑っている姿に、私は呆れてものが言えなかった。
『ゲート』スキルを持っていることも呆れていたけど・・・
「・・・軟弱・・・物・・・」
「・・・ハイ・・・すいません。」
まったく、この人を知ろうと思っているのに、こんなヘタレを知っても大丈夫なのだろうか?
戦闘ではあんなにキリっとしていたのに、日常はバカだ。
13才にして、不出来な兄を持った、妹の気持ちを味わった気がする。
「・・・どうして・・・ザルツ・・・?」
「どうしてって、んーー簡単に言えば亜人が居ても、気兼ねなく過ごせそうだから?」
「???・・・」
「ほら人族と亜人って仲良くないでしょ?イブロニアでさえ結構気にしてる雰囲気だったし。だからこの大陸で、唯一亜人が王様で国を治めている所だから、イシュタルやシルビア、それにリリィが町を自由に何も気にせづ歩ける所のほうが幸せかなって思ったんだ。」
「・・・あなたは・・・疎まれる・・かも・・・」
「そこは良いんだよ、俺は別に気にしないし~それよりも仲間が蔑んだ目で見られる方が嫌なのさ。」
この人は、本当にお人好しだ。
亜人が人族に蔑まれるのは当たり前のこと。
そんなことを気にするなんて、変わり者以外ない。
呆れ返っていると、トシヤは私に微笑んで頭を書きながら、仕方ないさっと両手を挙げて大仰にポーズをとっている。
とりあえず、目的は聞いたから、後はどんな側面を見せてもらえるか観察だ。
こうして、旅を続けながら一先ずサマル王国を目指している。
これからどんな旅路になるか、いろんな意味で楽しみでもあり、不安でもあるけど。
私は、初めて仲間と呼べる人達と一緒に、馬車に揺られて旅路を進んだ。




