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49番目の後継者  作者: ペンギンMAX
第二章 首都イブロニアと新たなる仲間達
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第二十九話 魔獣とダーラム

10/15 再更新

 朝起きると、俺は夜に外出したままの姿で戸板に持たれて寝ていたようだ。

 まだ早い時間だったので、誰にも気付かれ無かったみたいだ。

 ドワーフ達も起き出して、仕事に掛かり始めている。


 彼らは酔う事はあっても酔い潰れる事はないようだ。

 すさまじい酒への抵抗力だ。


 昨日のリリィとの会話を思い出す、あの子は本当は着いて行きたいんじゃないんだろうか?

 いや、着いて行きたいんじゃなく、仲間が欲しいのじゃないだろうか。

 また夜と同じ思考が堂々巡りになりそうだったので、頭を振って気持ちを切り替える。


 部屋にこっそりと静かに帰ってみると、リリィは起きていて、挨拶をしてくれた。



「お・・・はよ・・う・・」


「ん、おはよう、リリィ。帰り支度するから待っててくれるかい?」


「・・・て・・・つだ・・・う・・・」


「ありがとう。」



 昨日の会話は無かったように過ごすことで安心したのか、リリィは俺達の帰り支度を一緒にしてくれた。

 それにしても・・・・そこで寝ている2人といったら・・・

 出会った頃の初々しさは何処へやら、スヤスヤ寝息を立てて起きる気配が無かった。


 リリィと2人帰り支度もほぼ済んだ頃に、2人は起き出し、目の前の光景に慌てて謝罪を繰り返していた。

 俺もヤレヤレとは思ったが、そんなに気にしていた訳でも無いので、早々に謝罪を辞めさせ、帰り支度の確認を皆で済ませてから、ガニッシュの所に向かった。


 食堂でガニッシュとライラさんと最後の食事を済ませ、帰る挨拶をする。



「いい仕事をさせてもらったぜトシヤ。素材もありがたい、これで暫くは俺達も安泰だ。また何時でも尋ねてくれ。どうせトシヤの事だ、此処にお前達だけでも来れるんだろう?」



 どうやらお見通しのようだ。

 隠してガニッシュとの交流を面倒臭くする事も無いので肯定しておく。



「じゃあ、またなトシヤ。」


「またおいでね、トシヤ。今度は誰かの子供と一緒にね。」



 どうもこの世界の、かあちゃんてのはお節介の様だ。

 おいおい、ライラさん後ろの視線が痛くなるので勘弁してくださいね・・・・


 玄関までガニッシュ夫婦の見送りを受け、連れて来て貰ったドワーフ集団に再度先導されて山に戻る。

 彼らとも握手を交わし、別れを告げイブロニアへの帰路に着いた。


 帰りは見知った首都への帰路なので、馬車で数日もすれば帰れるだろう。

 俺達は来た道を戻りながら4日目の野営に入る。


 夜空を見上げ、満月を眺めていると、俺の直感がざわつき始める。

 首都まであと2日程で戻れるというのに・・・・

 その日は無理やりにでも違和感を抑えて眠りについた。


 だが、朝になってもざわつきは収まらず、イブロニアに近付くほどに違和感が増してくる。

 俺の姿にイシュタルもシルビアも心配そうにしている。

 リリィは不安そうな2人に釣られて、行く手を凝視していた。


 焦りが徐々に増し、早く帰らなければと俺を急かす。

 流石にイシュタルが俺に問い掛けて来たので、事情を話すと、このまま徹夜で戻ろうと言ってくれた。

 シルビアも御者の交代を申し出てくれて、俺達は急ぎ首都に向かって帰る事にする。


 イブロニアが近くに見える距離になると、事態が大よそ飲み込めてきた。

 何かの襲撃にあったようだ、城に居たであろう平民たちは城壁の外で野営をしながら、炊き出しに列を作っている。

 兵士達も慌しく駆け回っており、相当切迫した何かがあったようだ。


 急ぎたいのは山々だが、俺達は馬車をゆっくりと進ませ、城壁近くに出来ている臨時検問にて、身分を明かし、ランドルフィ卿邸宅へと向かう許可を取る。

 許可が速く下りた理由にリリィの持っていた何かが影響したようだが、今は詮索すまい。


 町に入って愕然とする。

 折角復興が進んでいた町並みは、俺が戦闘した後よりも酷く、戦争でもあったかという有様だ。

 至る所に力無く蹲る人々が居て、町で起こった惨劇の悲惨さを物語らせる。


 町の惨状に目を見張りながら、馬車を進めていく。

 ランドルフィ卿邸宅に到着し、直ぐに帰還の報告をしようとすると、ミリアル夫人が応対に出てきた。



「勇者殿、無事のご帰還なによりです。」



 相変わらず優雅なお辞儀をするミリアル夫人には、首都での惨劇に慌てた様子を感じさせない気丈さが見て取れる。



「ありがとうございます夫人、して、この参上はいったい?」


「それは・・・私めからは何とも・・・ただ、御帰還早々恐縮では御座いますが、どうか夫、ランドルフィ卿の下へ向かっては下さいませんでしょうか?夫より勇者殿御帰還の際に、そうお伝えせよと仰せつかっております。」



 尚も頭を下げて、夫の言い付け通り、俺を向かわせようとする姿勢は流石は貴婦人といったところか。

 それに、この事態に俺の力を利用しようと思うのは当然だろう。

 なにせ、先の化け物の襲撃を抑えているのだから。

 それに俺の直感が示した何かが解るかもしれないので、従う事とする。



「わかりました、ミリアル夫人。して、ランドルフィ卿は何処におられますか?」


「おおお、ありがとうございます勇者殿、夫はイブロニア鉱山洞窟の方にいるはずです。」



 行き先を聞き、挨拶もそこそこに邸宅を出る。

 邸宅を出る際に、ミリアル夫人は、リリィだけを呼び止めて何やら耳打ちをしていた。

 俺は、リリィの監視報告について何か言われているかと思ったが、ミリアル夫人の耳打ちを聞きながら、愕然として項垂れるリリィの姿に、自分の考えが違っていた事を知らされる。


 リリィは、俺達とランドルフィ卿の所へ同行するというのだが、その姿は焦燥しきっていて、見るのも痛々しい程に弱々しく、さらにその小さな体は小刻みに震えていた。

 此処に残る方が良いとは言って見たが、リリィは譲らず着いて行くと主張した。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 速攻帰ってきて、速攻出掛けるという慌しさの中、昨日から続く強行軍で丘陵部の洞窟入り口近くに来ている。

 そこには、野営を行う兵士達がいた。

 貴族を中心に近衛、守備兵団が主力を務め、更に傭兵達が商館経由で依頼されて集まっている。

  その貴族の陣地の中にある天幕の一つで、俺達はランドルフィ卿と顔を突き合わせていた。



「帰還早々、このような事態に巻き込み、誠申し訳ない。」


「いえ、言付けを聞いて俺自身が決めた事ですから気になさらないで下さい。」


「忝い、勇者殿に折り入ってお願いしたいことがある。」


「なんでしょうか?」



 俺は、言われるであろう事を覚悟しながら、ランドルフィ卿の言葉を聴いていた。

 やはり化け物を退治して欲しいと言う。

 仕方が無いな~っと了承する。


 その後は今までに起こった経緯について説明を受ける。

 俺達が出発してから貴族平民問わず行方不明事件が頻繁に起こった事。

 その調査に追われ、攫われた人々の行方と安否に人力が相当出払っていた事。

 警備の薄くなる箇所もあり、特にある場所が十分に警戒できていなかった事。

 そして、ある日突然、あの化け物が再度姿を現し、町を破壊し、この洞窟に逃げ込んだ事を説明してくれた。


 もちろん言い訳も聞いてはいたが・・・

 攫われた中の、特に貴族で身分の高い関係者も居て、探し出すためにコネや金を使って、なりふり構わず圧力を掛け、治安など疎かに成る程人を回した事や、化け物が生存していて、それは一部の貴族が隠匿していた事とかだ。


 説明を終え、疲れ切った顔で俯くランドルフィ卿。

 人柄的に、今回の貴族達の行動に呆れていそうだ・・・・常識人ではありそうだしね。



「それでなのだが・・・行方不明者の大半は、見つかったのだよ。」


「え?どこでですか?!」


「う・・・ぅ・・・それは・・・」



 言い難そうにして、リリィの顔を見るランドルフィ卿。

 口を開け言おうとして詰り、考え込む事を繰り返しているうちに、意を決したうように俺を見据えてくる。



「ゆ・・・行方不明者は全て化け物の体に居る・・・無論、わしの娘ミネアもな・・・・」


「・・・か・・・あ・・さま・・・が・・・そんな・・・」



 焦燥に焦燥が重なるようにして、リリィはその場に崩れ落ちた。

 慌ててイシュタルとシルビアが抱えるも、意識はあるが目は虚ろになっている。



「その、体に居るとは・・・本当でしょうか?と言うかどう体に居るのでしょうか?」


「本当だとも勇者殿、わしはこの目で見てしまったのだからな、化け物を・・・そして、その化け物の体は、キメラのように行方不明者がくっ付いておる。融合しておるというのか・・・の・・・見ればその異様さは解っていただけるじろう。」


「融合・・・」


「・・・そこでだ・・・再度お願いする。化け物を退治して欲しい。」


「・・・・・・・それは・・・」


「っ・・・か・・・さ・・・まを・・・コロ・・・スの・・・!」



 戸惑う俺を他所に、リリィは母を殺せというランドルフィ卿の言葉に意識を取り戻して抗議している。

 弱々しい姿は変わらないが、その目にだけは強い意志を宿らせてランドルフィ卿を睨みつけていた。



「・・・このまま放置しておけば、被害が広がることは明らかだろう。それに迷宮に篭られては少人数でしか入り込めず、今ここにいる軍勢で一気に肩はつけることが出来ぬ。さりとて軍勢を引けば化け物は夜陰に乗じてまた町を襲うじゃろう。人々の安寧のために考え動くのがわしの仕事じゃ、私情は挟まぬ。」


「・・・でも・・・で・・・も・・・!」



 ランドルフィ卿は決めているんだろう。

 そしてリリィは母を助けたい一心なのだ。

 どうすべきかは、たぶんランドルフィ卿が正しいだろう。

 でも、それではリリィが不憫すぎる。



「解りました、行きましょう」


「・・・・!!」


「リリィ、行くとは言ったけど、倒すとは言ってないよ?もし、助けられるな助けようと思う。だから俺は行くよ。」


「・・・たす・・・かるかも・・・じゃあ・・・私も・・・行く。」


「え?ん~んでも危険だから・・・」


「わしとしては、リリィを同行を許してもらった上で向かってくれればありがたい。」



 んーん、ランドルフィ卿の意図が見えん。

 わからん・・・倒して欲しいのは本心だろうけど、リリィの同行を許すのがな~

 リリィはランドルフィ卿の孫なんだと思うんだがな~

 娘を諦める冷徹さと孫を湿地に向かわせる冷淡さが・・・なんだか釈然としないや。


 それでも俺の気持ちは変わらない。

 どうせ行かなければ事態は収まらないだろうし、何にせよ一度倒した相手が生きていましたじゃあ洒落にならない。

 シルビアの件もあるし、リリィの母親の事もある。

 何とかしたいと思う気持ちに素直に従おうと思う。


 こうして俺は、イシュタル・シルビア・リリィを伴って、慣れ親しんだ迷宮へと足を踏み入れた。


 迷宮内に入り、各階層を調べていく。

 確か、ラスティと呼ばれていた化け物は迷宮に入る所までしか確認されていない。

 その為、どの階層に潜伏しているか解らないので、面倒だが1層から順に降りていっている。



「どこまで潜ったのかな~」



 独り言がついでてしまう。

 倒すのは簡単だが・・・

 聞いた話からリリィの母親を助ける事が出来るかが思い付かず、溜息と共に愚痴が出てしまうのだ。



「私も見てみない事には解らないし」



 とは、イシュタルの言だ。

 イシュタルの知識があれば、もしかしたら可能性が見出せるかもしれない。

 とにかくヤツを見つけ出さない事には話になら無いので、探索を続ける。


 10層を超え、数時間が経った、イシュタル達も昨日からの強行軍で疲労が見え始める。

 小さなリリィには堪えているだろうが、気丈に付いて来てくれている。

 更に数時間かけて20階層に辿り着くと、それは居た。


 階段から続く広い道の奥に、ラスティと呼ばれた化け物は立っていた。

 その姿は、聞いた通りに酷いものだった。


 千切れていたはずの四肢には幾人もの人間が縄のように捻れ折れ曲がり、肌色の腕や足を作っている。

 奇妙に形成された人の四肢には所々顔があり、その口からは苦痛と怨嗟の声が漏れている。


 穴や傷のついていた胸や腹にも、人が縫い込まれるように付いており、そこにも顔がある。

 四肢同様口から苦痛と怨嗟が聞こえてくる。

 正直、普通の人なら気分が悪くなり、嘔吐しても仕方が無いほどの惨い姿だ。

 実際、リリィは蹲り、吐いている。


 俺は、ゆっくりと化け物に近付き、ガニッシュに鍛えてもらった日本刀を手に取る。

 今回は、付いている人を助けれるかもしれない可能性に賭けて、切る事に主眼を置いたため、日本刀にした。


 ゆっくり、ゆっくり近付く。

 シルビアは俺をフォローできるように、やや左後ろで剣を構えて付いてくる。

 イシュタルは後方で弓をつがえ、牽制に廻る。

 リリィは・・・蹲っている。


 後数歩で向こうの間合いに入るという所で、2つの影が化け物の後ろから出てきた。

 正体は・・・解っている。

 『解析』を常時ONにしていたので、陰に隠れていてもその名前が見えていた。


 倒したはずの魔族、ダーラムと、もう一人はあの奴隷承認ギブリオだ。



「おやおや、驚きもしないとは、流石に私の半身を倒しただけの事はありますね~」



 大仰に両手を広げポーズを決めるダーラム。

 しかし・・・相変わらずの三下匂いは消せないのね・・・



「これはこれは、トシヤ様、お久しぶりです。その後シルビアは如何でしたか?貴方様の用な良いカモに巡り合えて、私も大変楽しゅう御座いました。」



 って・・・カモって!!

 いや、そうなんだけど・・・・煽るってくれるじゃんギブリオ!



「さて再会の挨拶も済ませましたし、私の新しい実験にお付き合いして貰いたいのですよ~ふふ・・・ハハハッハアハ!」


「お前の趣味の実験に、関係ない人をこんな目に合わせたのか?」


「ハハ八ハッハハ、相変わらず面白いです~楽しいですよ~勇者殿♪これはね、実験と言えども我ら魔族にとっては将来重要になるものです。趣味ではないのですよ~」


「っく」



 何とかして、あの中の人たちを分離できる手立てはないのか?



「それにですね~、魔族意外に地上で暴れまわれる強い力を造り出す為に、虐げられている獣人を媒介にして魔獣人を、地上の主権を握る人族を材料にその補強を行う。我ら魔族の新しい戦力のお披露目なのですよ~・・・・そして、今からもう一つの魔獣鬼をお披露目しましょう!ギブリオ!」


「は!、『我の内より出でて彼の元へ至れ、漆黒の闇に目を閉ざせ、我が力で幻を作らん!そは幻呪となりて彼の内を埋めるものなり』」



 ギブリオがダーラムの指示を受け、詠唱を唱える。

 詠唱の後、左後ろから呻き声が聞こえた。

 シルビアの声だ!



「シルビア!」


「っく・・・あ・・・はぁ・・・ト・・・シ・・・ヤ・・・さま・・・」



 苦悶に表情を曇らせ、シルビアが両手を肩に当てて自らを抱きしめるように立っている。

 まだ剣は手放しては居ないが、その姿は苦痛を必死に押さえ込もうとしているようだ。



「なにをした!ギブリオ!」


「いえ、トシヤ様、ちょっとした幻術ですよ。貴方が死ぬ姿を見るね。」



 紳士然として答えるギブリオの姿が、逆に俺を苛立たせる。

 まさか、あの時俺を殺せなかったから、幻覚でシルビアを追い込もうと言うのか!?


 どうすればいい?どうする?


 化け物の中に居る人々を救い出し、シルビアを幻覚から開放し、ダーラム達を倒す。

 倒すだけなら簡単なのに!

 俺は、こんな状況での戦いは経験が無い。

 くっそー!力を過信しすぎた俺の浅はかさが悔やまれる・・・


 どうする?


 ・・・・・・・・。


 俺は、この事態に身動きがとれずにただ、ダーラム達を睨むしか出来なかった。

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