イースターエッグハント ―4―
「……重くないですか?」
咲は背中の上で尋ねる。咲をおぶっているのに淀みのない足取りで、花音はでこぼことした石造りの階段を軽快に進む。
「咲ちゃんの一人や二人平気だよ」と花音は笑う。
「一人や二人って……」
咲は目を瞬かせた。
「私が二人もいたら、花音さん大変ですよ」
そうかな、と花音は首を捻った。
「それはそれで楽しそうだけど」と笑い、階段を降りきる。さっき咲が迷った分岐点に辿り着いた。
花音は下り坂とは反対の、カフェへと戻る道を進む。
「――そういえば、どうして私が高台に登ったってわかったんですか?」
あー、と花音は口ごもる。「匂い、かな……」とはっきりしない声で答えた。
「匂いですか?」
咲は聞き返す。
「……そう。咲ちゃん、コサージュをつけていたでしょ。その匂いがしたの」
「……コサージュの匂い」
咲は少し身体を起こし、自分の胸元についているコサージュを見つめた。
今は花音との間に挟まれて、ペチャンコになってしまっている。
「それなら、やっぱりこのコサージュは、厄除けの力が強かったんですね」
コサージュに目を細める。
本当にそうかも、と花音は頷いた。
「……ありがとうございます」
花音の背中で揺られながら、咲は再度礼を述べた。
「どうしたの? 改まって」
「……だって、花音さんが来てくれなかったら、今頃、大怪我してたかも。……コサージュも、花音さんがくれたおかげで道標になってくれたわけだし」
本当に花音さんは命の恩人です、と花音の背中にもたれた。
「……そういえば」と花音が思い出したように呟く。
「陸くんが森に入ったって誰から聞いたの?」
「……」
「咲ちゃん?」
花音の背中に揺られながら、咲は少し躊躇した。なんだか当人のいないところで名前を出すのは、告げ口のようで気が進まなかった。
「ねぇ、咲ちゃん?」
花音が歩みを止め、背中から咲を下ろし、向き合う。
鋭い視線で見つめられ、咲は仕方なく、「……高木さんです」と告げた。
「高木さん?」
花音は怪訝そうな顔をする。
「どうかしました?」
いや、と花音は戸惑ったように頭を掻いた。
「――実は僕も彼女から聞いたんだ」
「え?」
「咲ちゃんが森の中に入っていったって……」
花音は顔を歪める。
「一体、彼女、何者なんだろう?」
独りごちて眉をひそめた。
「教室の参加者名簿を確認してみたら、どうですか?」
咲の言葉に、花音はゆるゆると首を振った。
「高木さんは教室の参加者じゃないから……名簿に高木の名前はなかったでしょ?」
そういえば、なかったような……
咲はコクリとうなずいた。重苦しい空気が流れる。
「……もしかしたら、魔女なのでは?」
咲は悪い空気を吹き飛ばすように、冗談めかしたことを口にする。
「魔女?」
花音がキョトンと咲を見た。
「だって、小さい頃の花音さんはそう思っていたんでしょう? ここには魔女がいるって」
「そうだけど……」
「きっと時空を超えて、花音さんを脅かしにやって来たんですよ。だって、魔女は人を惑わすものでしょう?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる。それに花音は、小さく息を吐いた。
「……ほんとにそうかも」
クスリと笑った花音は、それでも何かを考え事をしているようだった。




