↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華村花音の事件簿  作者: 川端睦月
イースターエッグハント

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/86

イースターエッグハント ―3―


「……すみません」


 涙がひいて、ようやく我に返った咲は視線を伏せたまま花音に言う。


 泣き顔が恥ずかしくて、花音の顔を直視することができない。


 そもそも勝手に勘違いして、一人で暴走した挙句のこの体たらくだ。どんな顔で向き合えばいいのか――


「落ち着いた?」


 それでも花音は相変わらず優しい。咲は無言で頷いた。


「それじゃあ、そろそろ戻ろっか」


 そう言うと、花音はしゃがんだままクルリと咲に背中を向けた。


「え?」


 咲は目を見開いて、花音を見つめる。そんな咲を振り返り、「乗って」と花音は顎をしゃくった。


 ――乗、る?


 しばし呆然と花音の背中を眺め、「……い、いいえ、とんでもないっ」と咲は慌てて首を振った。


「私、歩けますから……」


 立ち上がろうとした咲の腕を、花音が掴む。


「いいから、乗って」


 いつになく強い声だ。咲はビクリと身を縮こませた。


 ――もしかして、花音さん、怒ってる?


 チラリと花音を窺うと、どこか不機嫌さが滲む。


 それは、そうだよね、と咲は唇を噛み締めた。


 これだけ迷惑をかけているのだから、怒っていないはずがない。


「……ごめんなさい」


 咲はその場で身を縮めたまま、小さく頭を下げた。


「……どうして咲ちゃんが謝るの?」


 花音が目を細め、咲を見つめる。咲の腕を掴む手にわずかに力がこもった。


「だって、花音さんに迷惑をかけたから」

「迷惑?」


 花音は眉を上げ、「咲ちゃんがいつ、僕に迷惑をかけたの?」と咲の顔を覗き込んだ。


「……今です。勝手に一人で騒いで、花音さんにこんなところまで探させてしまって……」


 咲はしょんぼりとうなだれた。


「――本当は、今日だけでなく、いつも迷惑をかけているのかも……花音さんには、つい甘えてしまうから」


 ジッと咲を見つめる明るい茶褐色の瞳が、全てを見透かしているようで、余計なことまで口走ってしまう。それに花音が小さく息を吐いた。


「……甘えていいんだよ」


 花音の声に「え?」と顔を上げた途端、強い力で腕を引っ張られる。咲は体勢を崩し、花音の胸に飛び込む形になった。


「わぁ、すみませんっ」


 慌ててる咲を、花音は優しく抱き寄せた。


「……花音さん?」


 驚いて顔を上げた咲の、鼻先数センチの距離に花音の顔が迫った。


 真っ直ぐに咲を見つめる明るい茶褐色の瞳が、太陽の光を受け、ますます明るく輝く。その美しさに見惚れて、咲はジッとその瞳を見つめ返した。


「まったく……」と呟き、ヘタリッ、と花音は咲の肩に顎を乗せた。


「花音さん?」


 咲はパチパチと目を瞬かせた。肩に触れた花音の顔が妙に熱い。


「……というか、甘えて欲しいんだ。僕が咲ちゃんの力になりたいんだから」


 耳元で囁いて、咲の髪を撫でる。花音の手を通して伝わる温かさが、ジンワリと心の中に染み入っていく。


「……ありがとうございます」


 ――こんなに素直に『ありがとう』を言えたのはいつ以来だろう?


 咲は花音の手の温もりに、しばし身を委ね、目を閉じた。心が自然と和らいでいく。


「……やっぱり、花音さんは女性の扱いが上手ですね」


 花音の胸に顔を埋め、呟く。


「え?」


 花音は髪を撫でる手を止め、咲を覗き込んだ。


「さすが女性に困っていない花音さんです」


 咲は花音を見上げ、悪戯っぽく笑った。


「あのね、咲ちゃん。僕、誰にでもこんなこと言ってるわけじゃないから」


 花音は憮然とした表情を浮かべる。分かってます、と咲は頷いた。


「保護者、だからですよね」

「……保護者?」


 花音が眉根を寄せた。


「私が華村ビルの住人だから、そんなふうに想ってもらえるんですよね」


 咲はニコリと笑う。対して花音は微妙な表情を浮かべる。


「私、頑張ります」

「え?」


「……頑張る?」と花音が口の中で呟く。


「はい。いつまでも保護者の花音さんに甘えてばかりはいられませんから。一人立ちできるよう、頑張ります」


 咲の宣言に、いよいよ花音の表情は困惑を極める。咲はキョトンとして、花音を見つめた。


 ――私、何か変なこと言った?


「……あ、いや、……まあ、いいや」


 花音は気まずそうに頭を掻き、小さくため息を吐いた。


「……そろそろ、カフェに戻ろうか」と花音がポツリとつぶやく。それから、再び背中を向けた。


 咲は、今度は大人しくその背中にお世話になることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。