フラワーアレンジメント教室にて ―1―
三十分ほどすると、参加者がポツリポツリと集まり始める。
今日の参加者は名簿では女の子四人に男の子二人の計六人となっている。みんな小学校低学年の子供たちだ。
「本日はよろしくお願いします。教室は一時間ほどで終わりますので、見学されていても、あとでお迎えに来られても、どちらでもよろしいですよ」
花音は子供に付き添ってきた母親に対してそう告げるが、大体はカフェ内に残り、見守るようだ。やはり子供のことが気にかかるのだろう。
そんな親子たちをほのぼのとした気持ちで眺めていると川上が近づいてきて、「華村さんの教室はカフェが大繁盛になるので、助かります」と嬉しそうに囁いた。
「そうなんですか?」
咲は川上に尋ねた。
「ええ。ここでは他にも色々な教室が開かれますが、華村さんの教室ではお母さんがそのままカフェの客になってくれるので助かるんです」
ホクホク顔で告げる。
「お子さんの様子が気になりますものね」
咲の言葉に、川上は「いやいや」と手を振った。
「お母さん方が気にしているのは、華村さんのほうですよ」
「え?」
咲はキョトンとする。
「皆さん、華村さんを見たくて、カフェに残るんです」
「……花音さんを?」
「そうですよ。あの熱い視線を見てください」
そう言われ、周りを見渡す。確かに花音に向けられる母親たちの視線は熱っぽい。
「お陰でカフェは大繁盛です」
川上は揉み手をして笑う。
「特にあの丸テーブルに近い席に陣取られている方」
川上が三十代半ばの品の良さそうな女性を手のひらで指し示す。
「高木さんとおっしゃいますが、華村さんの教室があると現れる熱心な『華村推し』なんです」
「華村推し……」
思いがけないワードに咲は呆れて絶句する。
「華村さんの教室のある日は一番早くにやってきて、一番遅くに帰っていくんです」
「へ、へぇ……」
とても咲には真似できない行動だ。その熱心さに感心する。
「咲さん、気をつけたほうがいいですよ」
「気をつける? 何をですか?」
突然の川上の忠告に、咲は問い返した。
「華村さんとあまり親しげにしていると、彼女らから目をつけられますよ」
「え?」
それは理不尽っていうものでは……。そもそも仕事なのだから、普通に会話はするし、険悪な雰囲気で行うわけにもいかない。
「それなら、お母さん方にも子どものそばで見学してもらったら……」と咲は解決策を提案する。
「それは、華村さんが禁止しているんです」
が、すぐに川上にダメ出しをされてしまう。
「禁止?」
「ええ。親が傍にいると口を出しすぎてしまうからって」
「まぁ、たしかに……」と咲も納得する。
「でも、それだと子どもの個性を損なってしまうからって」
川上はしたり顔で告げた。
「なにより、子どもたちには楽しくお花を生けてもらいたいですからね」
ふいに頭上から声が聞こえた。
「花音さん……」
見上げると花音のこちらを見下ろしている。
「親が傍にいると、子供はどうしても気になってしまいますから。お花に集中してもらいたいんです」
花音はニコリと笑い、川上と咲の間に割って入った。
「川上さん、そろそろ咲ちゃんを返してくれませんか?」
「そうだよ、パパ」
すっかり花音に懐いた陸も賛同する。
「ああ、ごめんごめん」
川上は頭を掻き、謝った。それから注文で呼ばれたのを機に立ち去っていく。
その背中を見送り、まったく、と花音は小さく息をついた。
「川上さんの噂話好きにも困ったものです」と肩をすくめた。
「噂話……それなら、華村推しの話は事実とは違う?」
「華村推し?」
咲の問いに、花音は怪訝そうに眉根を寄せた。その様子を見る限り、花音自身は母親たちから寄せられる好意には気がついていないようだ。
「咲ちゃん、そろそろ始めますよ」
神妙な表情で黙り込んだ咲を覗き込み、花音はニコリと笑いかける。それに周辺の空気がざわつくのを、咲は敏感に感じ取った。
どうやら、華村推しは事実らしい――




