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華村花音の事件簿  作者: 川端睦月
水仙の誘惑

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34/77

人はいさ…… ―3―


 咲は、午後七時きっかりに『アトリエ花音』を訪れた。インターホンを押すと、すぐに花音がドアから顔を覗かせる。


「こんばんは、咲ちゃん」


 柔らかな笑顔を浮かべて、花音はドアを押し開けた。


 こんばんは、と咲も挨拶を返す。そんな咲を「さぁ、入って」と花音は招いた。


「え? 中ですか?」


 てっきりお花見に出かけるものだと思って、トレンチコートを着てきた咲は、パチクリと目を見開いた。


 うん、ここで、と花音は当たり前のように頷く。


「でも……」と咲は花音を見上げた。


 いくら無害な花音さんとはいえ、夜に密室に二人っきりというのは、あまり宜しくないのでは。


「いいから、おいでよ」


 花音は半ば強引に咲の手を取ると、アンティーク扉へと向かって歩く。咲は引きずられるように、花音の後ろについていく。


 花音の手の温もりに鼓動が高鳴る。それが花音にバレてしまわないかと、さらに鼓動が早まる。完全な悪循環だ。


 そんな咲の気持ちをよそに、花音は扉の前で立ち止まり、振り返って、ニコリと笑った。


「ここが、お花見会場」とアンティーク扉を指し示した。


 それから、咲の手を繋いでいない方の手で、ドアノブを押し下げる。


 勢いよく開かれた扉の向こうには、明かりの消えた部屋。


 その部屋の中央に据えられたオーバルのテーブル。その上のスポットライトの光が、大型の壺に生けられた満開の桜の枝を浮かび上がらせる。


 まるで桜の樹がそこに生えているかのようだ。


「わぁ……素敵……」


 思わず漏れ出た感嘆の声に、「気に入ってもらえてよかった」と花音が笑みを浮かべた。


「教室で使おうと思ってた桜がちょうど見頃だったから。お花見にいいかな、って思って」

「ありがとうございます」


 咲は顔を綻ばせた。


「それからね……」と花音は部屋の明かりをつける。と同時に、クラッカーの音が鳴り響いた。


「ようこそ、華村ビルへ」


 テーブルの下から、クラッカーを手にした悠太と凛太郎が姿を現す。


「え?」


 クラッカーのテープを浴びながら、咲は呆然と彼らを見つめた。悠太はニコニコと、凛太郎は不服そうな表情を浮かべている。


「フフッ。咲ちゃん、また鳩豆だよ」


 花音が可笑しそうに声を上げて笑う。


「は、鳩豆?」


 対して、咲はまだ状況が掴めず、おうむ返しをするのがやっとだ。


「鳩が豆鉄砲を食うの略だろ」


 そんなことも知らないのか、という顔で凛太郎が睨む。


「まあまあ、凛太郎くん、仲良くしてね」と花音は凛太郎を宥めた。


「今日は咲ちゃんの歓迎会なんだから」

「歓迎会?」


 ようやく我に返り、尋ねる。


「うん。まだ、やってなかったでしょ、歓迎会。お花見ついでにいいかなって」


 花音はニコリと笑った。


「あ、料理は、僕が持ってきましたよ」と悠太が重箱の包みを掲げる。


「ちなみに、僕のときは歓迎会はなかったんですけどね」


 やんわりと恨みがましいことを曰う。ハハッと咲は頬を引きつらせた。


「お前、今、そういうこと言うか?」


 目を細めた凛太郎が、悠太の頭をワシャワシャと掻き回す。


 やめてくださいよ、と悠太は凛太郎から距離を取ろうとするが、やはり体格差で押し負け、なすがままだ。


「まあまあ、あの時は忙しかったから」


 花音がフォローを入れ、凛太郎の手を悠太から引き剥がした。


「それに、男三人で宴会なんて、むさ苦しいだけだから」と遠慮のない言葉を投げる。


「それはそうですけど……」


 悠太は唇を尖らせる。


 それじゃあ、と咲はパンッと手を打ち鳴らした。


「一緒にやりませんか、歓迎会っ」


 咲の提案に、「えっ、いいんですか?」と悠太は嬉しそうだ。


「ね、いいですよね、花音さん」


 咲は花音を見上げた。花音は、うーん、と首を捻り、


「……そうですね。不公平は事件の元、ですからね」


 片目を瞑った。


「ついでに、凛太郎も混ざっとく?」


 花音は揶揄うように凛太郎を見て、笑った。


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