↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華村花音の事件簿  作者: 川端睦月
水仙の誘惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/71

プロローグ


「あっ」


 田邊(たなべ)咲(さき)は、三階からエレベーターに乗り込んだその男の顔に、小さく声を上げた。


「また、あんたか……」


 咲に気づいた男は気怠そうに頭を掻き、操作盤の『閉』のボタンを押した。と同時に、ゆっくりドアが閉じていき、咲は恨めしくそれを見つめる。


 動き出したエレベーターで、男は壁にもたれかかり、ギロリと咲を睨みつけた。


 ――もう、最悪。


 咲は身を縮こませ、心の中でぼやいた。


 男の名は瀧川(たきがわ)凛太郎(りんたろう)。ここ華村(はなむら)ビル三階の住人である。


 彼に会うのは二度目だった。


 一度目は入居手続きでここを訪れた日。奇しくも今と同じようにエレベーターで出会(でくわ)したのだが、印象は最悪で、咲は彼に苦手意識を覚えた。


 年齢はおそらく二〇代後半。無駄に背が高く、少し長い前髪から覗く鋭い目つきが、まるで獲物を狙うハンターのようで威圧感が半端ない。


「……結局、入居したのか」


 凛太郎は独り言めいた言葉を咲に投げかけた。


「せっかく忠告してやったのに」


「忠告?」


 咲は眉を顰める。


 ――彼の言う忠告とは、一体何を指しているのだろう?


 咲が覚えているのは『貧乳』という悪口だけだ。


 険しい顔をした咲に、凛太郎はやれやれというように首を振った。


「言っただろう。武雄は貧乳に興味がないって」


 ――また『貧乳』って言った。


 咲は眉間の皺をますます深くする。それを凛太郎は愉快そうに見つめ、ククッと声を押し殺して笑った。


「でも、まぁ、たまには変わり種もよく見えるのかもな」


 ユラリともたれていた壁から起き上がった凛太郎は、咲と正対した。そのまま咲を挟み込むように長い両腕を伸ばし、勢いよく壁に手をついた。


 ――こ、これっていわゆる壁ドン?


 焦る咲に、薄ら笑いを浮かべた凛太郎の顔が近づく。


 咲はギュッと目を閉じ、両手を顔の前で構えた。その寸前で凛太郎が動きを止める。


「一応、気をつけたほうがいいかもね。貧乳だけどさ」


 耳元で揶揄うように言い、今度はハハハッと声を上げて笑った。


 咲がギロリと睨みつけたとき、ポーンと一階への到着を告げる音が鳴る。


 凛太郎は身体を起こすと、「じゃあ」と後ろ手に手を振り、エレベーターを降りていった。


「……なんなの、あの人」


 独りごちた咲は、ドアが閉じかけたのに気がついて、慌てて外へと飛び出す。


 すでに凛太郎の姿はない。


「ほんと、失礼っ」


 つい安心して、咲は大声を出してしまった。


 ――まったく、貧乳、貧乳ってデリカシーのない。


 花音は『根はいい子』と言っていたけれど、今のところ悪意しか感じられない。


 凛太郎の鋭く冷たい視線を思い出し、また怒りがぶり返す。それを消し去ろうとブンブンと頭を振るがイライラは治らない。


「もう、腹が立つ」


 咲はその場で思いっきり地団駄を踏んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。