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COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
1章 最低な救世主たち

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8.戦場

茜は剣を手に、立ち尽くす。

初めて目の当たりにした戦場に、言葉も出なかった。


「魔族の襲撃だ。規模が大きい!至急、カラーズ全員出動しろ」

 

その命令を受けて駆けつけたとき。

数十体の魔族が村人に襲いかかっていた。

 

森は燃え、足元には血まみれの死体が転がり、悲鳴をあげながら村人たちが逃げ惑っている。

 

何より茜を凍り付かせたのは、魔族の姿だった。

半人半獣だと聞いていたから、獣に近い姿を想像していた。


しかし、彼らはあまりにも人に近かった。

それが鋭い爪を構え、牙を赤く染め、唸り声をあげながら襲いかかっていた。


意思も理性もなく血走った目で、闇雲に魔法を振るう。

野犬の群れなら見たことがある。

魔族は獲物を前にしたそれに近かった。


なのに、姿だけが、あまりにも人間だった。

手と口を赤く染めた人が、人を襲っている。


思わず吐き気が込み上げ、茜は口元を覆った。



儀式から三日。

彼女は“勇者”として、初めての戦に放り込まれた。



「茜」

 

背後から声がした。

ダンザは厳しい目つきで茜を見下ろしている。


「ぼさっとするな。剣を抜け」

淡々とした口調の奥に、怒りが滲んでいた。


茜は震える手で剣を引き抜いた。

刃が太陽を反射して、血のように赤く光る。

それを見て、ダンザはわずかに頷いた。


「突撃しろ!!」


その号令で、地獄が動き出す。

轟音。爆風。地面が抉れ、炎が弾けた。

茜は思わず耳を塞ぐ。


魔導士たちがダンザの指示で一斉に動く。

生きている村人を避難させる者。

森や建物に移った炎を鎮火する者。

そして、魔族と戦う者たち。


爆発音と光が各地で展開される。


(これが……“戦い”)


胸が軋んだ。

訓練で見た剣の軌跡も、書物で読んだ勇者の戦いも、

どれもこんな音や匂いをしていなかった。


「……くっ」

 

火の粉が頬を焼く。

前に出ようとするたび、足がすくむ。

敵の叫び。味方の悲鳴。

何が正しいのか、もう分からなかった。


「怯むな」

低い声が聞こえた。


炎の中から、黒い影が現れる。

ダンザだった。

土の魔法で地を割り、崩れた瓦礫を敵ごと押し潰す。

逃げる魔族を追って、地面から黒い腕が伸びた。


それは、まるで悪夢そのものだった。

仲間の魔導士たちが怯えて後ずさる。


「何をしている?命を惜しまず戦えと命じたはずだ」

ダンザの声が響く。


「覚悟ない魔導士など、必要ない」

容赦のない黒の視線が、魔導士を射抜いた。


その瞬間、弾かれるように魔導士たちが魔族へと向かっていく。



「……正義は結構ですけど」


冷たい声がその背後から降ってきた。采牙だ。

緑の光が迸り、蔓のような魔法が茂みを押し広げる。


「彼らは仲間です。脅しは士気を下げるだけですよ」

「無駄口を叩くな。用件は?」

「千弦さんが前線に出ました。いつも通り、味方の被害が甚大です」


采牙の報告に、ダンザが舌打ちした。



戦場の一角。

氷の城のような光景が広がっていた。

白い息の中、青髪の青年、千弦が立っている。


彼の前で、無数の魔族が氷漬けになっていた。

誰一人動かない。

死んでいるのか、生きているのか、それすら分からない。


「斬るより凍らせる方が手っ取り早いな」

千弦は笑う。

「死にたくないって声が、死ぬ前に消えてくれる」

 

その笑みを見た茜の背筋が凍った。

(これが、青の勇者……)


そして茜は気づいた。

氷漬けにされているのは、魔族だけではない。

魔族と戦っていた魔導士まで、戦う姿のまま凍りついていた。


「ひどすぎる。その人たちは……味方じゃないの?」

震える声で茜が言う。


「味方?」

千弦が軽く笑って手を翳す。

 

一面の氷が割れ、魔族と魔導士が床に投げ出された。

氷の檻から解放されたのに、彼らはぴくりとも動かない。


千弦が視線を茜に向けた。

吸い込まれそうなほど、深く澄んだ海の青。だけどそこに優しさはない。


「“どれ“のこと言ってんの?」


茜は息を飲む。答えることができなかった。



そしてその隣では、白い旋風が吹き荒れていた。

美しい女性、リーイン。

風刃が魔族たちの武器を切り裂き、

倒れた者には無言で回復の魔法をかけていく。


ただし、それは全員にではなかった。


「助けてくれ」

地面に倒れた魔導士が、リーインに向かって手を伸ばす。

 

「大丈夫よ。そのくらいなら、放っておいても死にはしないわ」

くすりと笑った。

 

「それに、あなたさっきも回復したでしょう?何度も癒すのは魔力の無駄だもの。平等に、一人一回ね」

息を呑むほど美しいのに、その目はどこまでも冷たい。

「私、役に立たない人はいらないの」


その言葉に、茜は怒りよりも背筋が冷たくなった。


阿鼻叫喚の地獄だった。

悠々と戦うカラーズとは違い、魔導士たちは次々と倒れていく。


茜はただ、剣を握ったまま動けなかった。

血の匂い。悲鳴。炎。

目を逸らすことさえ、罪のように思えた。


「ここに結界があれば……」

誰かが言った。


だが、その能力を持つ紫の勇者はここにはいない。

今も自室で本を読んでいるだろう。

誰にも破ることのできない、結界の向こう側で。


正義を掲げる戦場の中に、慈悲はなかった。

 

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