↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
1章 最低な救世主たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/34

3.六色の勇者

空気が凍りついた。


「……何言ってるの?カラーズはもう生まれないんでしょ?」

茜の声が震えた。

采牙は、『予言書のカラーズはあと一人』だと言っていた。赤のカラーズが誕生すれば、全員揃うはずだ。


「予言はあくまで予言。六人誕生すると書かれているが、七人目のカラーズ誕生が絶対にないとは書かれていない。少しでも可能性があるなら、賭けるのは当然だ」

司祭は当然のように告げた。

「貴重な秘薬を無駄にはできぬ」


「人の命より、秘薬の方が貴重というわけね。……よく分かったわ」

緋色の瞳に怒りが宿る。

だが、茜はそれ以上何も言わなかった。


「そうだ。では、儀式を続行する」

司祭が頷く。


采牙は静かに視線を伏せた。

「皆さん、すみません。儀式の決定権は司祭にありますので、先ほどの僕の提案は忘れてください」


再び、小瓶が持ち上げられる。


だが、次の瞬間。

八つの瓶は同時に砕け散った。

破片が床に跳ね、液体が飛び散る。


「分かったって言ったのは、話し合いが無駄ってことよ」

茜の手に握られていたのは細い剣だった。


当然、儀式の場に凶器を持ち込めるはずがない。彼女が持っていたのは、ただの装飾品の指輪だ。


茜の持つ魔法——《鋼(はがね)》。

触れたものの金属の形を自在に変える能力が、発動したのだ。


本来なら同じ質量のものに変える程度の魔法。だが、カラーズの魔力はその制約すら捻じ曲げる。

小さな指輪は細身の剣へと姿を変えていた。


剣が再び指輪の形に戻る。


茜は最後の一本を手に取り、司祭へ歩み寄る。

倒れた魔導士が飲むはずだったものだ。


「そんなに秘薬が大事なら、あなたが飲んだらどう?」


司祭が後ずさる。


「ねぇ。全員、歩いて帰っていいわよね?」

炎の瞳が射抜く。茜は更に一歩詰め寄った。


「何をしている!この者を捕えろ!」


だが、ダンザも采牙も動かない。


「カラーズ同士の戦闘は禁止されている。司祭に命じる権限はない」

「ここで僕らが戦えば、あなたも無事では済まないですよ」

 

淡々と告げると、采牙は候補者を見渡した。

 

「彼らを解放して差し上げてはいかがです?赤が誕生し、秘薬も破壊された以上、儀式を終わらせても問題はないはずです」


やがて司祭は、苦々しく息を吐いた。

 

「儀式を終了する。全員、退出せよ」


八人が広間を出ていく。

それを見届け、茜は安堵の息を吐き、秘薬を床へ叩きつけた。

硝子が砕け、赤い液体が魔法陣を汚す。


「——ダンザ、采牙」

司祭が扉の前で振り返る。

 

「この娘に、勇者の振る舞いを叩き込んでおけ」


重い扉が鈍い音を立てて閉まる。

広間には、三人だけが残された。


冷たい石床の上の陣から、光が静かに消えた。



◇



高い塔の窓辺から、

その光景を見ている者がいた。


青い髪の青年が、頬杖をついて下を覗き込んでいる。


——“青の勇者、千弦〈チヅル〉”


髪と瞳は澄んだ青。

波のない海のように、深く、静かで、どこか冷たい色。

長い前髪が風に揺れ、細い毛束が目元をかすめている。


細められた瞳は、すべてを面白がるようでいて、同時に信用していない。

観察する者の目だ。


「……新しいおもちゃ、かな」


その声には、期待と退屈が同時に混じっていた。

人も運命も、彼にとっては退屈しのぎに過ぎない。


 

その隣で、白銀髪の女性が微笑んでいた。


——”白の勇者、リーイン”


千弦と同じく、十九歳。

腰まで届く長い髪は、編まれることなく、ただ静かに背中へ流れている。

色はほとんど白に近い白銀。

月光を映したように淡く、どこか現実離れしていた。


瞳は銀色。

感情を映しているはずなのに、底が見えない。


「私の大事な『道具』よ。壊さないでね」

 

その口調は冗談めいているようで、どこまでも冷たい。


整った顔立ちは紛れもない美貌だが、そこに温度はない。

微笑みは柔らかく、声も穏やか。

それでも、本能的な距離を取らせる何かがあった。


「修理は得意分野だろ?」

「《回復》って言ってくれる?」

 

二人は冷たく笑い合い、窓を閉じた。



そしてある一室に、采牙からの伝令を受け取る青年の姿があった。


——“紫の勇者、ジェレン“


二十一歳。

カラーズで二番目の年長者でありながら、責任を背負う気配は薄く、育ちの良さと余裕だけが洗練されて残っている。


柔らかく癖のある紫の髪。

余裕を感じさせる深い紫。

触れれば簡単にほどけそうなのに、実際には距離を許さない、不思議な質感だった。

 

ジェレンは本を片手に、もう一方の手で采牙からの伝令を開く。動作は雑に見えて、無駄がない。


細い黒縁の眼鏡の奥で、紫の瞳が静かに光った。

その色は、夜更けの葡萄酒のようだった。

覗き込めば柔らかく見えるのに、奥までは決して掴めない。


「ふぅん。最後のカラーズ、生まれたんだ」

 

知的な顔立ちに、薄く浮かぶ皮肉な笑み。

紅茶を注ぎ、何事もなかったかのようにページをめくる。


「……まぁ、僕には関係ないけど」

 

窓の外では、灰色の雲が渦を巻いていた。


 

お読みいただき、ありがとうございます!

しばらく毎日更新予定です。


もし「面白そう」と思っていただけたら、評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります。


続きも楽しんでいただけましたら、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。