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COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
1章 最低な救世主たち

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2.赤のカラーズ

茜は物珍しそうに秘薬の瓶を眺めていた。


その様子に采牙は確信する。

ここで今から行われることを、彼女は知らない。

ただ秘薬を飲み、カラーズになるかもしれないことしか聞かされていないのだと。


組織に所属していれば、嫌と言うほど儀式の噂は耳に入る。

しかし、彼女は半月前に魔導士になったばかりだ。


秘薬に選ばれなかった候補者たちの末路など、知らなくて当然だった。

 


司祭が姿を現した瞬間、場に緊張が走った。


重い扉が音を立てて閉まる。


「秘薬の儀式を開始する」

 

司祭の声が響く。

前置きはない。ただ、その一言と鋭い視線だけだった。


候補者として選ばれた魔導士たちが、一斉に小瓶を持ち上げた。

 

茜の横に立っている青年を除いて。


彼の体は尋常じゃないほど震えていた。

秘薬に手を伸ばすことなく、立ち尽くしている。


「早くしろ」

司祭が短く命じた。


「い、嫌だ……!死にたくない……っ!」

震える声でそう言うなり、背を向けて扉へと駆けだした。


即座にダンザの影が動いた。


逃げ出した男の足元が黒く沈み、土の槍が生える。

叫びもなく、男は地面に沈んだ。


——静寂。



「……え?」

茜は何が起きているのか分からなかった。


「魔法……どうして……」

誰かが口を開く。


床に敷かれた巨大な魔法陣は、魔法を封じるためのものだ。

この空間の誰もが魔法を使えないはず。


「カラーズの魔力は規格外です。僕らを縛る陣なんて、普通の魔導士には敷けないんですよ」

優しく授業でもするかのように、采牙が微笑む。

 

「僕らはただの見物人じゃない。この儀式を滞りなく遂行する役目です」


すると誰かが耐えきれず泣き出した。

誰かが祈りを捧げる声もする。


そんな彼らを見渡して、冷たい声でダンザが命じた。


「続けろ。逃げ出す魔導士などいらん」

 

ためらうのなら、同じ道を辿る。

黒曜石の瞳がそう語っている。


他に選択肢など彼らにはない。

震えながら彼らが口に小瓶を運ぶ。


その時。

 

「ねぇ」

空気を裂いたのは、迷いのない声だった。


「何が何だか、さっぱりわからないんだけど。これは毒なの?飲めばカラーズになるか、死ぬの?」

茜が、眉をひそめる。


「毒ではなく秘薬です。死ぬ人もいますが、何も起きない人もいます。生きるか死ぬかは五分五分くらいですね」

淡々と答えたのは采牙だった。

天気の話をするかのような声音だ。


「そんなことはどうでもいい。早く飲め」

低く冷たい声でダンザが睨む。


その視線に、何人かが肩を震わせた。

だが茜は、瓶の栓をきゅっと閉め、机の上に置いた。


「どうでもよくないわよ。こっちは命がかかってんのよ。別に、逃げるとは言ってないでしょ?」


茜が一歩、前に出る。


石床に響く靴音。

フードの奥から、ヘーゼルブラウンの瞳が真正面からダンザを射抜いた。


「どこが名誉な候補者よ。空気も、やってることも、ただの処刑じゃない。……納得いかないのよ。私、殺されるようなことでもしたの?」


周囲の候補者たちは息を呑む。

組織に反抗する意味を、彼らは知っている。


「殺される?違う。儀式は使命、そして候補に選ばれるのは名誉だ。カラーズが誕生するなら、儀式で失った魔導士の命は無駄にはならない」

ダンザの声は揺るがない。


「ごめん。ちょっと何言ってるのか分からないわ」


茜は、すっと采牙へ視線を移す。


「百歩譲って、秘薬で死ぬのはいいとしても……ううん、全然良くないけど!!」


そして、さらに視線を扉の方へと向けた。


「でも、あれは何?訳の分からない儀式にいきなり送られて……死ぬのが怖くて逃げたら殺すって……。それがあなたたちの“正義”なの?」


茜の視線の先には、一体の亡骸が横たわっていた。つい先ほどまで、隣で震えていた魔導士だ。

 

茜は彼の名前を知らない。

それでも、彼への処遇に怒りが湧いた。


「はい、そうです」

采牙は即答した。

そして涼しい顔で、候補者たちをゆっくりと見渡した。


「困りましたね。このままだと、全員“反逆者”になってしまいます」

わざとらしいほど柔らかな声。


「どうでしょう?そんなに死にたくないのなら、一人ずつ飲む、というのは」

采牙が司祭に提案した。


「一人ずつ?」

「予言のカラーズは、あと一人。そして今回が最後の儀式です。おそらく赤のカラーズが誕生し、それ以外は半数が死ぬでしょう」

 

残酷な未来を淡々と告げる。候補者達の間に絶望感が漂った。


「なので、一人ずつ飲んでいただき、カラーズが誕生したら終了する。それなら一人目が成功すれば、全員歩いて帰れます。こちらの損失も減ります」


「いいだろう」

司祭が重く頷いた。 


「では、王女。どちらがいいか決めてください。最初か、最後か」

 

茜がいるのは、左端だ。


「……なんかもう、めちゃくちゃ腹立ってきたわ」

茜がテーブルの上の小瓶を拾い上げた。


「こんな馬鹿げた儀式で、死ぬのも死なせるのもお断りよ!」

そして乱暴に栓を抜く。


「秘薬だかなんだか知らないけど……選ばなかったら許さないからね!?絶対、選びなさいよ!分かった!?」


秘薬に向かってそう命じると、茜はその液体を一気に喉へと流し込んだ。


そして一言。

 

「何これ、まっっっず!!!」


響いた叫びと同時に、茜の体が赤い光に包まれた。

後ろで結い上げた髪が解け、燃えるような赤へと変わる。

瞳の奥に炎が灯る。


「……また厄介なカラーズが増えたな」

ダンザが露骨に顔をしかめた。


「え?」


「あなたが赤のカラーズですよ」

采牙の声に、茜は驚いて自分の体を確かめる。


ダンザが一歩、距離を詰めた。

 

「ダンザだ」

「采牙です。これからよろしくお願いします。王女」


茜は二人を見比べる。

「……茜でいいわ。王女の肩書きなんて、ここじゃ役に立たないみたいだしね」


「そうだな」

ダンザがあっさりと頷いた、その直後。


「では、残りの八名も儀式を続けよ」

 

司祭の声が響いた。


 


 

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